ユニークスキル【異世界言語】で無双する
「おはよー!」
「起床時、あるいは朝に人に会ったときの挨拶」
僕の名前はジョニー。異世界への転移者だ。
なんやかんやあって異世界で魔王を倒すことになった僕は、旅の餞別として異世界の言語を翻訳するスキルを貰った。
明らかに翻訳の精度というか方法が狂っており、意味を理解するのに時間を要する残念能力であり、会話をするのにも一苦労。だから最近は翻訳無しでも意味を理解できるように異世界語の勉強をしている。
幸いにしてこの翻訳能力はオンオフが効く。なので、わからない言葉があったら聞き返しつつオンにするなんて使い方もできる。おおよその文脈がわかっていれば辞書をそのまま引っ張ってきたかのような翻訳でも補足としては役に立つのだ。
「現在過ごしているこの日は恐ろしい魔獣を害になるものを追い払い、また殺して取り除く太陽の出ている間。朝から晩まで」
「やだよー。今日はごろごろ寝て過ごすんだい」
「何を言ってるの!あんたのクソスキルなんて戦闘か計算にしか使えないんだから、その役目くらいは果たしなさい!魔王を倒すんでしょ?」
「突然日本語で喋らないでよ」
流暢に日本語を使いこなすこのお人は僕の雇い主。空腹と疲労のあまりにボロ雑巾のようになって寝転んでいた僕を拾って養ってくれる素晴らしいお人だ。
当然100%純粋な異世界のお人で本来は日本語なんて使えない。のだけど……僕が翻訳スキルをオンオフしつつ異世界語の勉強をしているのに合わせていつの間にか習得してしまっていた。
オンの状態で僕が話した言葉は相手にとっても辞書から引用した言葉のように聞こえるらしく、純粋に単語だけを呟く分には意味を解しやすく覚えやすいのだとか。そんな活用をしている割には戦闘か計算にしか使えないなんて散々ないいようだけど。
「もういいわ、あんたの話を参考にレコーダー作ってみたから。変わりになんか言葉を吹き込みなさい」
「……レコーダー?」
この文脈から察するに、音を記録できる装置という事だろう。しかしこの異世界には今の所そんな道具は無かった筈だ。魔法とかスキルとかがある感じの世界なのでそういう意味では音を記録する手段が無いわけでは無いのだけど……そもそも作ったって言ってるしね。
「僕の話を参考に、ってどういう事?」
「この前アンタが言ってたんじゃない。レコーダーがあればもしかしたら自分が居なくても翻訳スキルだけ記録できるかもって。概念としての翻訳スキルを記録できるのかは定かじゃないけど……まぁやってみなさい。駄目ならついて来い」
「いや、レコーダーがあればなー、しか言ってないよね?そもそも僕も作り方とかよく知らないし」
「アンタがレコーダーレコーダーってほざく度にその概念から仕組みまで全部直接脳にぶっ込まれてきてるのよ!本人が知ってようが知らなかろうが、関係ないの。あんまりうるさくて頭が痛くて耳に残るもんだから気になって作ってみたのよ」
「なにそれこわい」
僕の方では短く一行分くらいの情報しか流れてこないからそんな使い方思いもしなかった。
「じゃあ僕が適当に喋ってればなんかいろいろ僕の知らない技術とかの情報がそっちに流れてくの?戦闘なんかよりそっちのほうが重要じゃん!」
「まあ、段階を踏んでいけば便利な話だけどね。っと、さて。記録開始したわ。なんか喋って。危なくない言葉でお願いね」
「了解。『こんにちは』」
「記録完了。さて、再生するわね」
「『こんにちは』」
「……うーん、僕の方からだと良くわからないけど。そっちの聞こえ方はどう?」
「大丈夫よ。ちゃんと翻訳されてる。これなら使えそうね。じゃ、他のワードを記録して頂戴。そしたら魔王城行ってくるわ」
「はーい、いってらっしゃーい」
「フハハハハハハ!小娘1人で魔王討伐?勇者はどうした!」
「勇者?そんなもん居ないわよ。そう名乗ってる奴は知ってるけど、多分勇者じゃなくて遊び人かなんかね」
「ほう。勇者はまだこの世に来ておらぬか。仮に既に召喚されているならば、その名が轟かぬ事などあり得ん。ましては遊び人呼ばわりなんてされようものなら、神は屈辱の余りに怒り狂うだろうな」
「この前屋敷に雷が落ちてきたの、もしかしてそれなのかしら……まぁいいわ。その自称勇者様が詰めてきたスキルを持ってきたの。喰らってくれるかしら?」
「ふむ、そやつは勇者では無いのだろうが……余程の自信があると見える。よかろう。一度だけ食らってやろう。気に入ったら半殺しで許してやるぞ」
「それならちょっと待ってなさい。耳栓してっと。よしおっけー。さあ、聞いて頂戴ーー」
『円周率』