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ミナ  作者: 嘉多野光
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三の四

 自室に戻っても新井さんの消息が不安でベッドにすら入る気にならなかった私は、ダイニングテーブルで頭を抱えたり部屋中を歩いたりしながら新井さんが帰ってくるのを待った。しかし、太陽が昇っても新井さんが戻ってくることはなかった。メッセージを送っても既読はつかないし、電話しても出ない。せめてブロックされていないだけよしとするかと考えても、まったく気は晴れなかった。

 朝、いい時間になったところで私はまず新井さんのご実家に連絡した。新井さんが私の家に住むことになった際に、新井さんの親御さんとは一度だけお電話でお話したことがあり、そのときに電話番号も記録していた。本当は直接家に出向いて挨拶すべきだったのだろうが、場所は北海道、それも空港からかなり離れた場所にあり、新井さんが引っ越してきたときは冬真っ只中だったので、訪問は断念したのだった。

 四コール目で応答があった。

「もしもし、実奈さんとルームシェアをしている谷口です。お世話になってます。朝からお電話してすみません」

「いえいえー」電話に出たのは、語尾を伸ばしがちなお母様だった。「実奈が何かご迷惑おかけしましたかあ?」

「いえ、そんなことはないんですけど」一呼吸置いた。「あの、実奈さんそちらに向かっているってことはないですよね?」

「えー? 連絡来てませんけどお。どうかしましたあ?」

「いえ、何でもないんです。今度描くマンガの取材のためにあちこち旅行に行っているようなんですけど、ついでにご実家にも行ってるのかなーなんて」

「そうなんですかあ? 金ないくせにねえ。あの子、海波さんに迷惑掛けてませんかあ?」

「いえいえ、そんなこと」私は思わず電話口なのに右手を横に振っていた。「朝からすみませんでした」

 新井さんのお母さんが語尾を伸ばして話す人でよかったと思いながら電話を切った。おかげでこちらもシリアスにならずにそれとなく訊くことが出来た。

 どうやら新井さんはご実家には向かっていないらしい。尤も、昨夜家を出たところで翌朝には着くような場所ではないはずだから、電話したところでここに実奈さんいますよということにはならないだろうとは思っていたが。しかし、何も情報を得られなかったのはつらい。

 昼まで待ってみても新井さんから連絡はなかった。どこに行ったのだろう、今何をしているのだろうと部屋の中を彷徨いていると、新井さんが残していったネームが目に入った。昨夜から何度も読んで感嘆しては新井さんの机の上に戻している、あのネームだ。よく見ると表紙に「桜田萌果(さくらだもか)」というほんわかしたペンネームが書かれている。

 ペンネームでSNSを検索すると、案の定「桜田萌果」のアカウントがヒットした。最終更新された日付は一時間前だった。上司からの連絡はすべて無視しているくせに、呑気にSNSの更新なんしていたとは。まあ、もう私は上司ではないのだけど。

 最終更新された投稿では「久々に海を見ました。私の故郷は草原がずっと続くような場所だから、海は非日常感があっていいな」と書かれていた。共にアップされている写真の一枚目は、どこにでもありそうな海岸線。二枚目は漁港に並ぶ船。三枚目はどこかで買ったのか、土産物の団子を写している。

 二枚目の写真をしばらく見ていると、胸がざわつき始めた。そして三枚目の写真に見切れているマンホールの絵を見て確信した。

 新井さん、私の地元に行っている。

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