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4-アレクシア

「ねえ、もういいですよね?」

 古い砦跡の石の上で、白い髪を短く切りそろえた女は、片方の膝を立てたままのポーズで一時間以上座っていた。彼女は同じように白い髪で、紙と彼女をしきりに見比べる、痩せた少年にため息交じりに言った。


「まだだよ。動かないで!」彼は言った。


「いつ終わるんですか? 私、あの奴隷を見たいんですけど!」彼女は眉を鋭くして、言った。


「もう死んでるよ。あんな傷で動ける人間は見たことがないから」


「じゃあ、なんでシアン様は三日も顔を見せないって言うんですか? 奴隷とは言え、女王様の所有物なら丁寧に葬られるはずでしょう? そんな気配は今のところないですよ」彼女は自信満々に言った。


「知らないよ。それだけの価値が無かったってだけだよ」


 彼女はすっと立ち上がると、城の方に足を向けた。

「……ああっ、待ってよ!」彼は呼び止めようと急いで立ち上がったが、足の痺れで石の床に衝突した。胸元で抱え込むようにしていた絵の具が彼の服を汚した。


「いい気味ですね!」彼女はそう言うと、舌を出した。



 カガンは、あの柔らかなシルクの寝具の上で目を覚ますと、弱々しい足取りで室内を歩き回った。彼は石と木で作られた家の、その丈夫なつくりに興味津々だった。だが、一番の考え事はあの女王様をどのように攫ってやるか、ということだった。

「ふむ……。あの男を殺したあと、作った軍隊でこの国を滅ぼしてやろうか。いや、あの男と争わせて、いいところであの女だけ攫おうか。それがいいな……」

 彼の鼻は伸びきって、腫れた目元はさらに醜くなっていた。


「不届きもの!」

 高く、溌溂とした声がしたかと思えば、次の瞬間、カガンは再び寝具の上に仰向けになっていた。腕が首元にまとわりついて、確実に止めを刺そうとしていた。


 何だってんだ! クソッ! 彼は力いっぱいもがいた。


「聞きましたよ、その言葉を! 見ましたよ、その冒涜的な顔つきを!」耳のすぐ側で、初めて聞く女の声が聞こえた。

「あなたがカガンですか?」


 彼は急いで首を縦に振った。すると、首元にあった腕は緩み、彼は激しく咳き込んだ。


「よかった。よかった」


 カガンが怒りの眼差しを向けると、白い髪、白い肌のすらりとした長身の女が、上気しながら激しい息遣いで小さな肩を揺らし、片足を立てて寝具に座っていた。彼女は満面の笑みを、寝具に倒れ込んだ包帯男に向けていた。


「いやー、よかった。やっぱり生きてたんですね」彼女は悪びれ無く言った。「走った甲斐があったな」


「今、殺されかけたが?」


「あなたが北の盗賊たちの頭目だって聞きましたけど、本当ですか?」


 無視かよ……。

「そうだ、俺こそがそのカガンだ」


「ああ! 私はアレクシアです」彼女は手を差し伸べるでもなく、ただきらきらとした鳶色の目を楽しそうに細めた。


「名前だけは立派な小娘! 挨拶には握手が必要だろ。農耕民族の常識だ」


「ああ、そうでしたね」彼女は彼を見下ろしながら手を差し伸べた。


 カガンは彼女の手を取ると、素早く仰向けに組み伏せ、勝ち誇ったように笑みを浮かべた。

「今から、お前を泣かしてやろうか?」


「いいですね。泣かせて見せてください」彼女は平然と言いのけた。


 彼は目を回して、押さえつけた腕を緩めた。「ああ、お前みたいな女は無理だ。俺でも抱けない」


 彼女は鋭く眉を尖らせ、抗議した。

「失礼ですね! 自分で言っちゃなんですが、私ってそんなに悪いとは思いませんよ」


「確かにそうだな」彼は彼女の柔らかな白い髪を太く、包帯だらけの指で梳いた。

「たぶん、お前は態度で損してる。少しは女らしく振舞えばいいぞ」


 彼女は目を見開いて、目を輝かせた。「恥じらいがないとか、女らしくないとか言われます! よくわかりましたね!」


 彼は彼女の腰つきを撫でた。引き締まって、よく鍛えられた肉体の手触りに、彼は困惑した。彼女の胸を弄ると、彼女は抵抗を強めて、白い透き通るような肌の整った顔をほんのりと赤らめた。


「なんだ、恥じらいはあるんじゃないか。少し乗り気になって来たぞ。でも、こんなに鍛えてちゃ男と変わらんなぁ」

 彼は、彼女の首筋に唇を押し付けた。すると、途端に彼の世界はひっくり返り、女はカガンに馬乗りになった。


「本当に失礼ですね!」彼女は、彼の上で白い乱れたチュニックを着直して、赤くなった頬を手で煽った。「強姦魔!」


「どうやったんだ。バカ女」彼は呆気にとられた。


「さあ、どうでしょうね。……あ、レオン様!」彼女は戸口に目をやって、楽しそうに笑った。そこには白のチュニック、白い髪を二色の極彩色に染めた少年が立っていた。

 彼は白くて弱そうな顔を赤く染めながら、控えめに顔を覗かせていた。


「何してるの、アレクシア……」少年は弱々しく言った。

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