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34-ツクナライ丘陵の戦い- 4.騎兵突撃

「弓兵! 騎兵を狙って放て!」

 レオンの号令と共に、弓兵は引き絞った弓を一斉に放った。十分に近づいて放たれた矢は、馬の鉄の鎧に穴をあけ、肉に突き刺さり、いくらかを仕留め、気力の弱い馬を怖気づかせた。それほどの成果であっても、二千の騎馬の大軍は崩れること無く、彼らを隔てる木の柵へと向かっていた。


「親衛隊よ、敵の馬を狙え!」レオンは迫りくる巨体の群れを見据えて、距離を見計らった。

 彼は、今までにないほど研ぎ澄まされた世界の中にいた。あらゆる音は遠く、時間は遅く流れ、中央を見据えながら、目の端々のあらゆる物に目を凝らせることができるような、不思議な感覚だった。彼には、完璧なタイミングが分かった。彼の前に立ち、そして、後ろに控えた、国のために戦う兵たち全てと鼓動が合わさった瞬間だった。

(いしゆみ)、放て!」


 この機械は、まだこの時代のこの地域にはないもので、コルキアやラジカの単弓に比べ抜群の破壊力を誇った。そして、この未知の武器は、敵を恐れさせ、この戦いにおいて凄まじい威力を発揮した。


 狙いすまされ、はじき出された百二十発の鉄のボルトは鉄の馬鎧を貫き、肉の内に深々と食い込み、一撃で心臓を貫いた。

 馬たちは嘶きを上げることもなく忽然と地面に倒れ込み、騎兵は地面へと投げ出された。騎馬たちは驚きのあまり突撃の勢いを完全に消してしまい、馬の死体や投げ出された兵士を見下ろしながら、逆茂木の手前で立ち往生した。そこへ弓兵が矢を浴びせ、的同然の騎兵はそれをもろに受けた。彼らの多くが慌てて引き返そうとすると、後方から迫っていた軽装歩兵たちが行く手を阻んだ。

 彼らの命運は、歩兵と逆茂木の間で立ち往生して次の弩の餌食になるか。歩兵を蹴散らし、本隊に戻るか。歩兵に加勢して逆茂木を退け、突撃を続けるかであった。彼らは生き残るために、それぞれ必死に働いた。

 生き残りの半数以上が歩兵を蹴散らして丘を下る中、レオンはある騎兵をじっと睨むように見ていた。その騎兵は馬から降り、倒れた軽装歩兵の手斧を取って、馬を側に立たせて盾にしながら、荒縄で結ばれた杭の柵に何度もそれを振り下ろし、終に矢をまともに食らって倒れた。後ろにいた歩兵は、倒れ込んだ男から手斧を奪い取り、彼にとって代わって杭を殴り始める。

 レオンはその光景を、涙を湛えた澄んだ目で見ていた。


 アーカスは、自分の兵が捨て駒に使われたことに酷く憤りを感じながらも、その勇敢な戦いぶりを誇らしく思い、死にゆく兵士を見て涙を浮かべ、心臓が止まりそうなほどの胸の締め付けを感じた。


「弓兵、手心を加えるな! 奴らは侵略者だ!」レオンは叫んだ。

「親衛隊、鉄の矢を無駄にするな! 再びの騎兵突撃に備えろ! 重装歩兵、柵の決壊に備えろ!」



「ピピン! 何をしている!」ラジカ王は叫んだ。「生き残った騎兵が半数にも満たないぞ!」


「ご心配なく、王様!」ピピンは想定よりも被害が大きくなったと悔しがりながらも、まだ正気であった。

「あの忌々しい柵さえなくなれば、帝国騎馬の突撃を止められるものは何もないでしょう! 次の突撃で戦列を崩して、全軍を押し込めば行けるはずでさぁ。アーカス殿の兵には感謝しかありませんや!」


 ラジカ王は、不安そうに頷いた。その様子を笑みを浮かべながら見ていたシルクリフは、わざと喉を鳴らして見せた。ラジカの王は老人に挑みかかった。

「何が可笑しい、老人よ」


 老人は再び喉を鳴らした。今度は、不安を誤魔化すためであった。

「あの男の想定以上の被害が、最初の突撃で出てしまったようですな。このままでは、そなたらは死ぬ。あの遊牧民の男に従えば、間違いなく。いいのですかな? これほどまで帝国の騎兵たちを殺してしまって。わしの言える筋合いはないが、このままでは帝国軍は全滅ですぞ」


 ラジカ王は老人を殴りつけて、落馬させた。老人は、右肩から強かに地面に叩きつけられ、地面の上で呻き声をあげた。

「貴様の戯言には付き合いきれん! 誰か、この者を縛れ!」


「それじゃあ、わしは予言をしよう」老人は、腕を体の前で縛られながら、皮肉めいた笑みを見せて言った。

「それが当たれば、わしに全軍の指揮をさせてくれ」


 ラジカ王は憮然とため息を吐いた。「連れて行け」


 老人は歯を食いしばって、力いっぱい抵抗しながら言った。「それが当たれば、わしに指揮を執らせろ、そして帝国への損失の全ての罪を被ろう!」


 ラジカ王は兵に老人を放させ、唾を飲んだ。そして、慎重に問いかけた。

「予言とはなんだ?」


「騎兵は全滅する」老人は厭味ったらしく笑って見せた。

「悪くない条件であろう?」


 ラジカ王は唇の皮を噛み切ると、血の滲んだ上唇を舐めた。

「……いいだろう」


「ほら、縄解かんか!」老人は彼を縛り上げた兵に怒鳴りつけた。

「ラジカ王よ、これも予言だがな。まもなく自軍左翼は停止する」


「何を言う……」


「王よ!」言下に、駆け付けた左翼からの伝令が叫んだ。

「左翼、陣形が崩れつつあり、中央との戦列に間隙が!」



 とうとう軽装歩兵は逆茂木を破り、大盾を構えたコルキア重装歩兵の壁に怒声を上げながら殺到した。敵に気圧され怯んだ戦列中央は崩れ、アレクシア、レオンの想像を上回る被害を出した。しかし、疲弊しきって装備も脆弱な彼らは、正気を取り戻したコルキア重装歩兵にあっけなく殺された。



「急いで隊列を戻せ! いよいよ、突撃が来るぞ!」

 レオンは叫んだ。



「騎槍構え! 全騎、突撃!」ピピンは、逃げ帰った騎兵を合わせた騎馬二千九百騎の先頭に立つと、自らの遊牧民部隊を先頭に、馬を勢いよく走らせた。


「放て!」レオンの言葉で、一斉に弩、弓から矢が放たれた。


 ピピンは、遊牧民の長らしく敏感に、騎兵たちの間にわずかの恐怖を感じ取ると、叫んだ。

「農耕民の弓なんてなぁ! 俺らの馬、鉄の鎧を射抜くことはできねぇ! さっきみたいなまぐれは絶対にねぇ! 怯えるな! 勢いを決して落とすんじゃねぇ!」


 しかし、ピピンは、放たれた矢の中に鉄の矢が混じり、それが目にもとまらぬ速さでこちらに向かってくるのを万物(あらゆるもの)が遅く流れていく視界で捉えると、顔中から血の気が引いていくのを感じた。

 それでも、男は叫んだ。


「来るぞ! 頭ぁ、下げろ!」



 矢が空を切る音が、顔を強張らせ、目を固く閉じたある騎兵の耳元で鳴った。鉄の矢で射貫かれ、隣を走っていたはずの馬の断末魔が彼を戦慄させた。

 彼が目を見開くと、丘のすぐ上に盾を構え、恐怖で唇を固く結んだ敵兵の強張った顔が見えた。彼は、蹴散らされ、轢き殺され、慌てふためく敵の姿を想像して、勝利を確信し、安堵の笑みを浮かべた。


「おい! ぶつかるぞ! 轢き殺してやれ!」ピピンは楽しそうに叫んだ。

 しかし、彼の不可解なことに、敵軍は射撃を止め、この時点で前進を始めた。


「全騎、突撃!」


 突如森から響いたその掛け声、引き絞られ鳴る弓、そして響く数百の蹄の音は、ピピンを驚かせ勢いを緩めさせた。彼から滲んだ恐慌は後ろに控えた騎兵に伝播した。

 帝国騎兵の側の森から放たれた数十の矢は馬の鎧をも貫いて騎兵を仕留める威力を誇り、ピピンの後ろを追走する兵たちを射殺した。ゆっくりと進むピピンの世界の中に、カガンはようやく姿を現した。

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