25-傭兵たち
カガンが遊牧民たちと鹿狩りをして、総数四十八騎の騎兵と共に五番目の駅に戻った時には既に昼頃で、駅を守っていたコルキア兵はアライを見つけてすぐに駆け寄った。彼は遊牧民たちを不審そうに見ながら、アライの馬を曳いた。
「カガン様。どうやら駅が襲われたそうです」
アライはカガンに向かいながら、不審そうにカガンの肩越しに遊牧民たちを睨んだ。
「駅は一度取られましたが、何とか取り返したようです」
「馬は無事か?」
「はい。被害は兵舎と厩舎の壁だけのようです」
カガンは駅を見た。壁の人の背丈ほどの所には煤けた跡が何か所もあり、煙と血の匂いが未だあたりに漂っていた。駅の立つ丘の下には兵士の死体がいくつもあり、コルキア兵はそれを埋葬していた。
「クタシの奴らか。馬で来たな。それで、馬から降りて松明片手に襲い掛かった」
「そのようです……」アライは不服そうに言った。
「カガン様!」彼は叫んだ。「俺は、この略奪者たちと共に戦えるとは思えません! きっと裏切って、痛い目を見ます。ですから、今のうちに殺してしまいましょう」
「それは駄目だ」カガンはきっぱりと言った。
「今は、どんな戦力でも欲しい。それに、俺がへまをしない限りは裏切らない。それが遊牧民ってもんだ」
彼はアライの肩を抱いた。
「お前の気持ちは分かる。だが、お前の仲間を殺したのは俺が射殺した男の命令だったんだ。今は、大人しいバートルという男が奴らの頭目になっている。俺は奴を知っているし、奴も俺を知っている。あいつは裏切らんだろう」
アライはやはり不服そうに頷いた。
「それなら、こう伝えてください! 首を垂れて許しを乞え、と」
カガンは快諾して、バートルに言った。
「おい、バートル。お前のお辞儀が見たいんだとよ」
アライを怪訝そうに目を眇めて見ていたバートルは、合点がいったと言う風に頷いて、馬から降り、農耕民風のお辞儀をして見せた。
アライは戸惑って、やるせなくなって、厩舎へと逃げるように去った。
「この国では違うのか?」バートルは逃げ去る男の背中を不愉快そうに見つめた。
「さあな。だが、仲良くしてやってくれ」
コルキアの兵士たちは遊牧民たちから鹿の肉を受け取ると、さっそくぐつぐつと煮える鍋の中に投げ込んだ。
カガンが連れていた騎兵と遊牧民は狩りを通して幾分か親密になっていた。彼らは、言葉が通じないのをいいことに互いに罵り合っていたが、弓を交換してみたり、馬を競わせたり交流を楽しんでいるようだった。馬につけた鐙を見て嘲るように笑ってみたり、木彫りの某かを売って商売をする者もいた。アライは彼らに決して背中を見せずに、一人で壁の隅に寄りかかり、いじけたように食事を済ませた。
「おい、カガンさまよ」バートルは言った。
「俺たちはお前さんに従うわけじゃないぜ。俺たちはボスのせいでこんなことになっちまったけどよ、お前を頭目にした覚えはねぇからな」
「ああ、気にするな」カガンは笑った。
「なんだ。そんなにびくびくするなよ。お前たちが裏切るとか、そんなことを考える必要はない。必要ならいつでも、どこへでも消えてくれ」
バートルは鼻の下を伸ばして笑った。バートルは焦げ茶の髪色で端正なの顔立ち、体つきもよく、普通にしていれば男前だったが、その顔中の皮膚を引き延ばしたような笑みは、カガンでさえもまともに見れないほど醜かった。
「へへ。お前さんが約束を果たすまではいるつもりだぜ。今のところはあんたの側に就いた方がよさそうだ。ラジカの奴らけち臭いし、プライドが高くて俺たちが女に触るのすらろくに許してくれなかったんだ。今から楽しみだぜ」
バートルは唾を飲んだ。
「帝国人の血が入ってるのかどこか気品があって、皆色白で、美しい。そして、体つきが最高だ! あれをめちゃくちゃにできればもう、お前に殺されたボスだって報われるだろうなぁ」
「お前にとっちゃあ、どの女も変わらんだろう?」
「確かにそうだ」
バートルは大声で笑った。
「それで、ピピンはどうだった?」
「ああ、あの豚野郎。うまく取り入りやがったぜ。あいつばっかり厚遇されるから、ボスはあいつの鼻を明かしてやろうと躍起になってたんだ。俺らはラジカの奴らに雇われたけどよ。帝国の兵にゃ、ダミルもいたんだぜ?」
カガンは目を丸めた。
「ダミルがいるのか?」
「ああ居たなぁ」バートルは頷いて見せた。
「帝国のでっかい馬に乗ってさ。これに勝ったら晴れて帝国の正式な騎兵になれるとか息巻いてたぜ。そんで、やっぱり卑怯者のピピンと張り合ってたな」
「懐かしいなぁ。あいつは元気か」
カガンは呟いて、駅のひんやりと湿った壁に背中を預けて座り込んだ。鹿肉だらけの熱いスープを食べ終わると、目を瞑った。
「少し寝る。起きたら狩りに出よう! 兎狩りだ! 楽しめよ」




