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24-亡霊

書き直しが想像以上に多くて、当初の投稿ペースを下回っております(;_;

 レオンはカガンの騎兵の大部分とコルキア兵を率いて砦内の反乱の鎮圧に出た。

 彼は焼け落ち、香辛料のいい匂いのする大通りを歩兵を連れて進軍し、門までの道の両端に兵を配置させた。その大通りを通ってカガンの引きつれた三十余騎の騎兵が門を飛び出した。カガンはすれ違いざまにレオンに会釈してみたが、少年は一瞥もくれずに男を送り出した。

 実質的な指示を出していたアレクシアはレオンを咎めたが、彼は聞く耳を持たないですぐさま鎮圧のために馬を走らせた。


 夜が明けるまでの間。レオンは砦の凄惨な様子を嫌というほど見、聞かされた。彼は丘の上の教会へ向かい、その小さくも洗練され荘厳な雰囲気のファサードに馬を止めた。

 その教会はムツケタを見下ろすように丘の上に建てられ、背面は崖に面していた。比較的新しく、一頭高い中央のドームと、四方のドームで一つの聖堂の形を成す小さなものであったが、ファサードの壁龕には聖人の彫刻があり、威厳を感じさせた。

 彼は聖堂に入ってすぐ、避難してきたコルキア人たちに気が付いた。彼らは怯えた様子でレオンを見た。騒ぎが終わったと彼らに伝えると、口々に感謝を述べ帰っていった。

 聖堂の隅には、酷い打撲の傷を負ったコルキア人異教徒が蹲っていた。

 レオンは、彼ら一家の前に跪いて泣き出した。



 カガンは最初の駅で遊牧民の目撃情報を集めると、それを頼りに五つ目の駅まで飛ばした。カガンの騎兵は、五つ目までの駅にいたクタシの兵士を全て、逃すことなく殺し、代わりに数人ずつ新しい騎兵が置かれた。

 五つ目の駅では、既にアライが馬や騎兵を集めて彼を待っていた。カガンが着いたころには、彼と共に砦を出た騎兵は十二騎まで減っていた。


「カガン様!」アライは主人の帰りを喜ぶ犬のように叫び声を上げた。

「お待ちしておりました! カガン様! 奴らはすぐ近くにいます! さあさあ、参りましょう。奴らを狩りに出かけましょう!」


「奴らは二十騎前後、お前の仲間をやった連中だ。お前にできるのか?」カガンは言った。


 アライは俯いて、震えた右腕を押さえつけた。

「俺、やってやります。あいつらの仇だ!」


 カガンは笑って、彼の肩を抱いた。「よく言った」


 彼は押さえた腕を力いっぱい握り、自信に満ちた表情で頷いて見せた。



 彼らは馬を乗り換えると、アライを合わせた十三騎で駅を出て、アライを道案内にしながら森深い山岳地帯へと進んだ。


 五番目と三番目の駅にかけては、大きく比較的緩やかな丘が目立ち、路を外れてしばらく行くと背の高い木々が繫茂していた。まだ人の手が加えられていなかった森林地帯は、身を隠すには十分すぎるほど暗く、入り組んでいた。

 彼らは、アライを頼りにせり上がった険しい丘の麓の森までたどり着くと、丘の上を人影を探しながらゆっくりと走らせた。

 しんと静まり返った丘の上を澄んだ空気がずっしりと垂れ込め、西向きの白い月明かりが木々の樹冠にシルクのローブのように柔らかくしなだれかかり、千切れて零れるように森の内部を照らし上げていた。


 兵士たちは常に気を張っていたためか、遠くの、月明かりの溜まった樹冠の吹き抜けから覗いた小鹿を見つけると、美味そうだとか、自分だったらこの距離でも仕留められるだとか、どうでもいいことを小さな声で言い合った。

 すると、その小鹿は唐突に、不自然に跳ね上がり木々の隙間へ消えていった。

 カガンは騎兵に合図をすると、アライと他の六騎に丘の上を見張らせたまま丘を駆け下り、その鹿の後を追い始めた。



「よお、バートル。久しぶりだな」カガンは茂みに隠した騎兵に矢を番えさせながら、小鹿に止めを刺そうとしている胡服に身を包んだ男に言った。


 倒れ込んだ鹿の前にしゃがみ込み、びくっと身を震わせた二人の遊牧民の内一人は、聞き馴染みのある声に首を傾げた。


「おお、ほら亡霊だ」

 男の一人は落ち着きを取り戻すと、恐る恐る振り返りカガンを認めて言った。


「亡霊なんていないんだって」大柄な、バートルと呼ばれたもう一人の男はびくびくしながらこちらを振り返った。

「あれ、お前さんか? 本当に死んじまってるのか? それともピピンの野郎、嘘ついてるってことか?」


「ああ、亡霊だ。久しぶりだな」カガンは言った。

「お前たちのボスに会わせろ」


「さもなくばってのは、俺たちにとっては意味のない言葉だぜ?」

 バートルは言った。


「じゃあ、さもなくてもいい。いいから会わせろ」


「へぇへぇ」バートルはゆっくりと立ちあがって馬に飛び乗ると、もう一人の男を置き去りにして馬を走らせた。

「敵襲! あいつが来やがった!」


 カガンは馬を走らせ、騎兵を引きつれて男の後を追った。


 取り残された男は飛び出した騎兵に驚いて、鹿や馬を手放して一目散に逃げていった。



 カガンの部隊はあの小鹿がいた、見晴らしのいい開けた場所に向かった。丘の上に陣取っていたアライの部隊は合図を送って、遊牧民たちが逃げた方向を彼らに示した。カガンは合図を返すと、森の中を走った。


 カガンは騎兵に大きく高い笑い声をあげさせ、獲物に位置を知らせながら大回りをして遊牧民の群れをアライ部隊の居る丘の方へ押しやった。

 しかし、遊牧民は急峻な丘を登って馬が消耗することを嫌い、丘の麓を回り込んで、カガン部隊との間に急峻な丘の壁を作った。

 遊牧民が丘向こうの谷間に侵入した時、アライ部隊が側面を突く形で丘上から勢いよく飛び出し、未だ慣れない騎射を始めた。

 遊牧民は、初めてアライの兵を視界に捉え、合わせても所詮十やそこいらだと勘で知ると、丘を下った敵兵を迎え撃つために馬を反転させた。

 だが、その時再び、丘上からカガンの部隊が側面を突く形で飛び出した。

 遊牧民たちは丘を駆け下るカガンとその馬を認めて、異口同音に『亡霊』と呟いた。


「いいか! 亡霊なんていねぇ!」遊牧民たちの頭目は荒々しく言った。

「さもなくば死んでなかっただけだ! ピピンが仕留めそこなってただけじゃねえか! ビビんな! 弓構えろ! 捕まえてピピンの鼻を明かしてやるんだ!」


 男が言ったすぐ後、カガンはその男の首を射抜いた。



「お前たち、これからどうする」カガンは、頭目を失って戦意を失くした遊牧民たちに言った。彼は弓を収めて親し気に彼らに近づくいた。

「そろそろ帰るのか?」


「よお、亡霊よ」バートルは言った。

「今までビビってたけどよ。本当は生きてたんだな」


「ああ。責めるなら、殺し損ねたピピンを責めろよ。俺は亡霊なんて名乗ったこと無いからな」


「でも、お前さん。お前さんは、亡霊の振りして俺たちを脅かしてたじゃねえか。ラジカにいた時現れて、俺たちを脅かしていったじゃねえか。俺たちのボスは調子に乗ってたピピンの鼻を明かそうと躍起になって、それで、俺たちがこんなところに来る羽目になったんだぜ?」


「それは悪かったな」彼は白々しく言って、興味津々に馬から身を乗り出した。

「そんなことよりも、コルキアの女がいいってのは本当か?」


 バートルは鼻の下を伸ばして笑みを浮かべた。

「なんだ。せっかく来たのにまだ見てないのか? 凄くいいぜ。何人か連れて行きたいくらいだ」


「なるほど」カガンは神妙な顔つきで頷いて、笑みを見せた。

「お前たち、どうせ帰るならもうひと働きしていかないか? いい仕事があるんだ」

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