19-アライ
文章変なのに気づくけど、自分で書いて何回も読み直したせいで流し読みしてしまう……。
「カガン様」レオンは檻の前で跪いて、毛皮を、震えながら檻の隅で丸まった男に差し出した。
「使ってください。ここは寒いでしょう」
アレクシアは、鼻にしわを寄せて檻に寄りかかっていた。
カガンは檻の前まで這って行き、震える腕を伸ばして力いっぱいその毛皮を掴むと、背中に張り付けるように羽織った。
「ありがとうございます。レオン様」彼は声を震わせて言った。「救われた思いです」
少年は歯を見せて笑った。「そんな、大げさな! でも、それならよかったです」
「ここは少し臭うでしょう?」
それもそのはずで、彼は何もかもをニーナに任せて何とか生き延びていたが、体の汚れや床や壁に飛び散った細かな汚れが溜まり、アレクシアが鼻を曲げたように、檻の中は酷い臭いがするはずだったからだ。
彼は無理に涙袋を上げて、違和感の無いよう努めて微笑んだ。
「そんなことはないですよ。あの、本当はこう言うのは禁止されているんですけど……。あの、どうしても会わせたい人がいるんです」
「アライですか?」
「すごい、よくわかりましたね」少年は驚きを隠さずに言った。
「もう夜目が利くには十分真っ暗の中にいますから、当然のことです」
暗闇のレオンの後ろで小さくなっているあの敗残兵は小さく震えた。
男は、前に出て来て檻の前に跪き首を深々と垂れた。見たところ、カガンが震えるよりも、彼の震えは酷いものだった。
「すいません。カガン様」男は、言い出した途端涙を溢した。
「俺のせいで、俺のせいで、あんた様がこんな仕打ちを受けるなんて、思ってもなかったんです……。もし、あなた様が敵で、あいつらを嵌めたんだと思ったら、もう……、許せなくて、それで……」
「そうか。それで、俺の騎兵はどうなった?」カガンは超然と言った。
男は面食らったようにランプでうっすらと浮かんだ彼の顔を見た。彼の顔は、暗闇に浮かんだ襲撃者たちの笑みのように、不気味に映った。
アライは怯え切った様子で続けた。
「はい……。カガン様の騎兵たちの多くはこの砦に居ます。駅にはクタシの兵士が、女王様の騎兵は城内で、段々と数が増えていますが、訓練ができずにいて……、それで俺が訓練しています……」
「お前たちは俺に忠誠を誓うのか? お前はどうだ」
「あんたこそどうなんだ!」男は不安に耐えられず怒鳴り声をあげた。すかさず、アレクシアが蹴りつけて、男は額を硬い石の床に強かに打った。アライは、子供のように泣き出した。
「俺ぁ、怖いんだよ! 誰が敵なのか分かんねぇ! 異教徒どもが敵なのか、帝国の奴らなのか、馬に乗ったくずどもなのか、あんたなのか! だから、俺ぁ、怖いんだよぉ。俺ぁ、あんな風には殺されたくない。なんにも分からんまま死にたくない!」
「何が言いたい?」カガンはため息を吐いた。
「俺ぁ……、わかんねぇ。……。あんたは、俺を許せるのか?」
「ああ。お前を一度も咎めてはいないじゃないか。それに、誰もお前を咎めることはできないはずだ。お前は奴らと戦った戦士だ」
「本当に……?」男は泣くのをやめて、注意深く、期待のこもった目で彼の返答を待った。
「ああ。本当だ。お前はどうだ? お前は俺に忠誠を誓うか?」
「も、もちろんです! カガン様! 俺は、あんたに一生ついていきます」男は起き上がると、叫んだ。
「もう大きい声は上げるな。このバカ女にまた蹴られるぞ」カガンはレオンに微笑みかけると、話を戻した。レオンは笑っていた。
「それで、お前を襲った遊牧民たちはどうだ?」
男はいつものようにすでに浮かれきっていた。
「駅の人員を増やしたことで、駅への襲撃は少なくなりました。代わりに、奴ら、徐々に内側に迫って来て、村への被害は大きくなってます。駅のおかげで情報が色々なところから入ってくるので、その都度村民を近い砦に避難させることができています」
「ほう。奴ら、相当苛立ってるだろうな」
「もしかすると、そうなのかもしれません!」アライは嬉しそうに言った。
「それはいいな。もうしばらくすれば討伐に出よう。その準備をしておけ」
「はい!」男は勢いよく返事を返した。
「でも、どうやってカガン様が牢から出られるんですか?」
カガンは彼の言い様に少し苛立った。
「もうじき出られるらしい。いつ出てもいいように用意しておけ」
「わかりました! カガン様! 早速準備します!」男は立ち上がると、別れも告げずに去った。
「すいません。レオン様」カガンは言った。
「あいつはああいう男なのです。悲しければ落ち込んで、楽しければ浮かれる。厄介な奴です。とはいえ、私が任せられるくらい優秀な騎兵ですし、従順で、ああいえば素直にこなしてくれるんです」
少年は笑っていた。
「見ているだけで楽しい方です。どことなく、アレクシアと似ているような気がします」
「そんなわけないでしょう? レオン様」彼女は心底不機嫌そうに言った。
「私はあの男、本当に苦手ですよ。主を牢屋送りにした手下なんてのは信じられません」
「レオン様」カガンは少年の双眸をしっかりと見据えて言った。
「本題に戻りましょう。あなたは、本当に覚悟があるのですね?」
少年は唾を飲むと、一つたりとも目を逸らさずに、影が落ちたカガンの黒い目を見据えて、ゆっくりと、慎重に頷いた。




