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18-苛立ちと希望

 孤独な暗闇の中で、カガンは長いこと眠れないでいた。

 目を瞑ると、彼女の咎めるように尖らせて、堪えるように山なりになって歪んだ眉。泣き出しそうで堪えた歪んだ瞳。唇を引っ込ませて、細まったあの鼻先が、彼の瞼の裏に張り付いて彼を眠らせず、酷い苛立ちを覚えさせた。

 彼は苛立ちを抑えるために何度も鉄の檻に頭をぶつけた。


 俺を閉じ込めて、何の意味がある! もはや手遅れだろうが!

 クソッ! 何にもわかってない! 自分の首をわざわざ絞めるようなことをするんなら、何もしない方がましだろうが!


 彼は血を失い、やっとのことで眠りについた。



 向こうで、鉄の扉が軋む音がした。


 随分と長い時間が経ったようにも感じるが、彼女が来たと言うことは次の給仕の時間なのだろう。

 カガンは地下牢の檻の側に寄って、手を出し、ランプの明かりが近づくのを見ていた。


「ニーナ」彼は震える声で言った。


「カガン様」


 暗闇の中で、眠りに誘うような心地よい女の声が聞こえた。彼女は、ランプの明かりを滲ませるような白い息を吐きながら、彼に優しく語り掛けた。

「どうか、希望を持ってください。きっと、アーカス様が助けて下さいます」


「どうだろうな。ニーナ、お前はともかく、俺は駄目だろう。俺は指揮官として雇われたのに、何もできない」


「そんなことありません」彼女はきっぱりと言った。

「あなたがアーカス様のために働いたことはクジン様も私も知っています。それに、私が、きっと、あなたの味方になります」


「どうしてそこまであいつを信用できる」


「私はアーカス様に助けていただきました。私は奴隷で、元の持ち主から酷い扱いを受けていました。それをアーカス様が買ってくださって、奴隷ではなく、従者として働かせてもらっているのです。私なんかのために本当に良くしてくださいました。きっと、カガン様のことも、解放してくださいます」


 彼はニーナの白く冷たい頬に手を当てて、微笑した。「そうなれば、どれだけいいだろうな」


 彼女は微笑し、彼の手に冷たい手で触れた。彼女は寒さで、小刻みに震えていた。彼女は穏やかな表情のまま、彼の手の熱を逃がさないように首を傾けて、痩せた頬を押し付けた。

「はい。アーカス様ならそうしてくださいます」


「お前を、俺みたいな野蛮人に差し出した男だぞ。怖かっただろう?」


「ええ」彼女は笑って返事を返した。

「正直に言ってしまえば、最初の晩は本当に嫌でした。乱暴だったし、痛かった。でも、今だとわかります。あなたは本当は優しくて、賢い人なんです。乱暴に振舞ったのだって、あえてそうしたのでしょう?

 当時は分からなかったんですけど、私にはお姉さんと呼んでいる人がいて、その人が私を慰めてくれていた時の言葉の意味がやっと分かったような気がするんです」


「どんな言葉だった」


「兵隊さんたちが乱暴にするのは、死んでしまって女たちを悲しませないためなんだ。って。あなたは、あれから私に触れていないし、クジン様に怒鳴られたときだって庇おうとしてくれた。きっと、アーカス様はあなたの本性を知っていて、私をあなたに遣わせたんだと思うんです」


「そうかもな」彼は優しく言って、彼女の透けて茶色くなった黒い目を見つめた。

「この戦いが終わったら、俺の物になってほしい。どうだ? ニーナ」


 彼女は目を丸くし表情を硬くすると、たちまち顔を真っ赤にして目を逸らした。

 彼女は、頬に当てられたカガンの大きな手の太い手首を眺めて、黙り込んだ。彼女の頬は熱く、彼の掌よりも熱を持っていた。


「……。わかりました」彼女は恥ずかしそうに、だが挑発的に微笑した。「もしあなたが私にキスできるなら、私は約束します」


「簡単だ。もっと近づいて」


 彼が言うと、彼女は膝をついて檻の前に顔を寄せた。彼は檻のすぐ側まで近づいて、彼女の一文字に結ばれた口元に唇を合わせた。


「満足したか?」


「はい」彼女は楽しそうに言った。表情は見えなかったが、本当に満足しているかのような様子だった。

 彼女は頬にあったカガンの手を取って口づけした。


「ニーナ」彼は言った。「この戦いで、どちらが負けようとだ。いいな?」


 彼女は少なからず動揺しているようだったが、同意した。

「だったら、死なないでくださいね」彼女は目を潤ませ、不安そうに彼の目を覗き込んだ。


「すごくいい返事だ」彼は嬉しくて笑みを溢した。


 彼女は、その後給仕の時間以外にも尋ねるようになって、その度にキスをねだった。

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