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17-魔女の眼つき

「お久しぶりです。女王様」カガンは玉座の間で恭しく礼をした。彼は、連れ帰ったクタシの兵士たちとアライという名の敗残兵を連れていた。

 彼が砦に帰ってきたと言う知らせが城内に届いてから、玉座の間には城内に留まっていた貴族たちが集められた。

 レオンは玉座の側の椅子に座りながら、不安そうに彼を見つめていた。


「カガンか」彼女は石の玉座に座り込み、厳しい目を彼に向けた。

「今までどこに行っていた」


「訓練ですよ。女王様。あんたはそれを咎められないはずだ。俺は騎兵を連れて出たからな」


「そうか。では、その者たちは? 君が連れて出た兵たちとはいささか違うのだろう。マグナス?」

 彼女は兵たちを煩わしそうに見た。彼らは思わず背筋をぴんと伸ばした。


「ええ、クタシの兵でしょうか。女王様」マグナスと呼ばれた衛兵の大男は言った。

「間違いなく、女王様の兵ではありません」


「ああ。以前、女王様に献上したように覚えておりますが。これはクタシのクジン様の兵です。馬もお貸しくださいました。戦が終わればあの方に感謝せねばなりませんよ」

 彼は適当に笑みを作って見せた。


「ほう。ラジカが攻めるとなればクタシ砦は真っ先に襲われるはずだが、奴はそのような心配をしておらんのか。不思議なものだな」

 彼女はアライを睨むように見た。「まあいい。一人はまるで初めてここに来た君のように薄汚い格好だが。それは何故だ。クタシにはそのような者しかおらんのか?」


「いえ、この男にそのようなことを言ってはなりませんよ。女王様。この者は、遊牧民と戦った生き残りなのですから」

 周りからは感嘆とも、恐れとも言えないどよめきが広がった。

 王の道を通り、既にこのムツケタ砦内にもカガンの伝令は村で起こった遊牧民の襲撃を伝えていた。それは故意に誇張され、場所すら曖昧になっていたのだが、その恐ろしさと比例してすぐにムツケタ中に広がっていった。


「話を聞かせてくれ」

 彼女が言うと、カガンは泥だらけの男を肘で小突いた。


「はい。俺は。カガン様に騎兵としての訓練を受けて、仲間たちと、クタシ近くの駅で番をしていました」男は女王の面前で委縮しきった様子で、声は細かった。

「ちょうど昨夜でした。あいつらがやってきて、俺の居た駅を襲ったんです……。それで、俺たちの弓はまるで歯が立たなかった……。

 仲間はまるで遊び道具みたいに、(なぶ)り殺されて、アイツなんかは……、生きたまま焼かれて……、それで……、それで……」彼は女王の前だということを忘れて泣き出した。

「あいつらは……、ずっと笑ってました」


 彼女の厳しい表情は些か緩んだように見えた。

「それは気の毒だった。遺体は埋葬したのか?」


「はい」カガンは子供のように体を震わせて泣き出した男に変わって言った。

「場所は覚えています」


「そうか。改めて教会墓地に埋葬しよう。約束する」


「はい……。ありがとうございます……」アライは体を震わせて深々と頭を下げた。


「ああ」彼女は口角を下げて、カガンを厳しく睨んだ。

「しかし、駅などとは初耳だな。この男は君や、殺された君の仲間を言い訳に自身の潔白を訴えるが、この男には間者の嫌疑がかかっている。怪しいところなどなかったか?」


 男は呆気に取られて、彼女が言い終ったあとしばらく考え込んだ。

「はい。馬の扱いなどは間違いなく世界一で、弓の腕前もそうで、ご立派だと思います」


「それを根拠にこの男が潔白だとでも? 殺された仲間たちに誓ってか? この男は遊牧民の王などと僭称する男なのだぞ?」


 男は頭を抱えて、詰まった声で呻いた。


「何故です」彼は懸命に言った。

「私は、あなた様のために尽くしただけです! 謀反など、一度も考えたことがありません。決して!

 あなた様は、この国のために戦ったこのアライをみすぼらしいなどと侮辱し、私にまで疑いの目を向ける。あんまりではありませんか! それに、あなた様こそが私めを北方の王と認めたのではありませんか!」


 西側の諸貴族は彼に加勢した。


 女王はカガンから目を背けて、再びアライに厳しい目を向けた。

「真実はどうなのだ。この者を疑う余地はないと、仲間たちに誓って言えるのか」


 男は途切れ途切れに、絞り出すようにこたえた。

「カガン様は、毎夜馬で出て行かれては朝まで帰りませんでした。今思えば、それは、その……」

 男は唾を飲んだ。「裏切りがあった時間なのだと思います……」

 男は慌てて言下に付け加えた。

「だって、遊牧民の王なら、あいつらに襲わせることだってできるでしょう?」


 カガンは深くため息を吐いた。


 シアンはそれを聞いた途端、息を詰まらせて、湧いて出た涙を湛えた目でカガンを見た。

「マグナス。頼む」


 大男はシアンをなだめるように優しく微笑して頷くと、彼女の顔を見つめたまま呆然と立ち尽くすカガンを捕らえ、床に押し付けた。


 なんて顔してんだ……。カガンは、彼女の矛盾に満ちた表情に酷く苛立ちを覚えた。


「女王様」カガンは、皮肉を込めて、奥歯を強く噛み締めながら言った。

「お泣き出しになるのなら、何もしなくていいのではありませんか? いつも通り、何もせずに玉座に座っていれば、泣かずとも済むではないですか。例え無能と言われても、私はあなたのために戦うともう一度誓いましょう。私を放してください」


「牢に入れておけ。この者にはいずれ罰を下す。もっとも、私が覚えていればの話だが」

 女王は、もはやカガンに一瞥もくれなかった。


「魔女め!」カガンは叫んだ。

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