15-コルキア教会
二十日後。クジンは馬をニ百頭ほど買い揃えた。そのうちの百二十頭には豪華な意匠の鞍と鐙をつけ、その倍はいる歩兵ごとムツケタの砦に入ると、女王にそれらを献上した。
馬にはロバが混じり、全体として小さくあまり体格が良くなかったが従順で、それらのほとんどは兵士ごとカガンの指揮下に加わった。
また、クジンは馬を数日の内に買い入れると言って、さらに馬具もそれと同じ数作り揃えると約束した。
彼が贈った、簡素なつくりの遊牧民の複合弓はカガンの手によく馴染み、添えられた手紙は、彼の側に就けば北の王として認め、トビリスだけでなく東一帯、そして女王の所有権を認めると言った趣旨の大変心地いいものだった。
彼らは実際に会いはしなかったが、日ごとに親密そうに話しかけてくるニーナは彼らの間でよく働き、正確に言ったこと、聞いたことを伝えた。
一方、ホルツキは異教の帝国から異民族の八百の傭兵を連れて入城すると、体格の良い南イベリアの馬を七十頭献上した。カガンは玉座の間で傭兵を見て、不快そうに鼻をつまんだ。
シアンに作らせた武器は、たったの二十丁だけしかまともに使えなかった。
この日から、砦の中の様子は随分と変わった。商人たちは市場に鉄くずや、農具のような武器になりそうなものであれば何でも、大通りにせり出した露店に並べた。市井は戦の話題でもちきりになり、帝国領の傭兵を見たという類推から各地のコルキア異教徒の迫害は静かに始まった。コルキア教会がそれを黙認し非公式に推奨したことで、それは少しずつ大きくなっていった。だが、その反面、戦の気運が高まり、兵に志願する住民が増えた。
アーカスはもはや足止めはできないと悟り、次の朝、砦から姿を消した。
カガンはその日から多忙であった。馬の訓練に、反発がある中での騎兵の訓練、夜には見回りに出なければならなかったし、レオンやニーナとの会話にも付き合わねばならなかった。だが、必ずしも悪いことばかりではなく、訓練中に反抗的な兵士をぶちのめすのは一つの楽しみになっていた。
「結局、檻にはぶち込まなかったんですね。女王様?」
カガンは王の部屋で尊大に、くつろぎながら言った。
「お優しいことで」
「間違いだったとは思っていない」
彼女は言った。
「結局、あの男一人いなくなったところでラジカは攻めてくる。むしろ、あの無能な野心家を抱え込んでしまったラジカには同情するよ」
「調子が戻ったようで。何よりですよ、女王様」彼は大仰に一礼した。
「まあ、まだ兵を募る余裕はあるはずだぜ。相手は連合だ。準備には手間取るだろう」
「とはいえ、これから死ぬために人を集めるなど……。しかし、勝たねばもっと酷いのだろう?」
「さあ。それは敵次第だ。あんた次第でもある」
「ああ。わかっている」彼女はゆっくりと頷いた。
「勝たねばならん。コルキアの民のために。そして、コルキアの異教徒たちにとっても、そうせねばなるまい」
「そういえば、ラジカから何か贈られてきたようですね? 女王様?」
「ああ。驚いたよ」彼女は微笑した。「コルキア人商人の首二つと、求婚を兼ねた強迫状だ」
「どういった内容で?」
「妻になれ。さもなければ云々だと」
彼女は肩を竦めた。「馬鹿馬鹿しい」
「お決まりだな」
「ああ。あんなのは民への侮辱だ。私は、最後の血の一滴までこの国のために使うよ」
「いつか、とは大違いであらせられるようですね」
彼は嘲るように言った。
「あれは忘れてくれ、私は自分のために死にはしない。この国のために死ぬことにした。あれは気の迷いだ」
彼女は平然と言いのけた。
カガンは微笑して見せた。
「今のあんたなら少しは欲しいかもな」
「残念だったな」彼女は笑った。すこし、強張った笑みだった。
「あれは気の迷いだったんだ」自分に言い聞かせるように言った。
彼は重い腰を上げると、体を伸ばした。「お勤めの時間だ」
この日から、彼は騎兵と共に姿を消した。




