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一三〇話

「高篠くんって頑固だよなあ……。全く聞く耳持たないし、すずめちゃんが告白しても態度変わったりしない。ひねくれにもほどがあるよ」

 柚希が呟いた。圭麻も大きく頷く。

「好きって言われたのに冷たく怒鳴ったり睨むなんて、まさにだめ人間だよな。あいつには感情がないんだ」

「あんまり悪者扱いしないで。あたしも酷いとは思うけど」

「……本当に、蓮が好きなのか? 追いかけても逃げられるだけで、ずっと片思いのまま生活していくんだぞ? 辛くないのか?」

「俺も、傷ついてるすずめちゃんを見たくないよ。優しくて穏やかな男、数えきれないほどいるのに。もちろん諦めろとは言わないけど。高篠くんじゃなくたっていいんじゃない?」

 自分たちならすずめを幸せにできるよと遠回しに伝えている。すずめを彼女にしたい。愛し愛される仲になりたい。蓮なんかに奪われたくないという思いが、ひしひしと感じられる。しかし、すずめの心は変わらなかった。すでに柚希とも圭麻とも付き合っているし、二人きりで過ごしていても常に蓮の姿が浮かび忘れられないこともわかっている。また恋人になったとしてもいつか悲しい別れがやってくるのなら、このまま蓮だけ惚れている方がましだ。

「ここまで好きになっちゃったから無理だよ。嫌われても邪魔だって睨まれても、なぜか惹かれちゃうんだ」

 はっきり言って、自分でも頭がおかしいと気付いている。普通なら、そんな人と二度と関わりたくないと考えるものだ。それなのに好きで好きでしょうがないのだから。

「そっか。高篠くんしか視界に映ってないんだね」

「もし蓮と両想いにならなかったら独身だけど……。ヒナコはそれでいいのか?」

「うん。他の男の子に告白されても、あたしには好きな人がいるって断るつもり。まあ、地味で平凡なあたしが告白されるなんてありえないけどね。……ずっとずっと蓮くんのそばにいたいの」

 ぽろぽろと涙が溢れた。最近、泣いてばかりいる。叶わないという辛い恋と蓮の言動で、日に日に弱虫になってしまう。前は怒鳴り返すくらい強い性格だったのに。あの頃は、まだ蓮が好きだと知らなかったためそういうことができたのかもしれない。現在は、蓮がどこかへ行ってしまうのが怖いので、嫌われそうな態度は絶対にとってはならないと勇気が出せないのだ。

 しばらく三人で立ち尽くしていたが、柚希の「帰ろうか」という呟きで別れた。とぼとぼと歩き、まだ零れていた涙を拭った。目が赤い状態で帰ると心配されそうなので小さな公園に行く。ブランコに座って、ゆっくりと息を吐いた。

 初恋は実らないとよく聞く。すずめの初恋も実らずに終わってしまう。しかし両想いになれなかったとしても、離れ離れにはなりたくない。蓮に好きだと言われなくても、それくらいの望みは叶えてくれたっていいはずだ。

「神様。どうか……。どうかこの願いだけは叶えてください……。恋人同士になれなくても、蓮くんをどこかに連れて行かないでください……」

 そっと独り言を漏らし、手を合わせた。この声は、果たして神様に届いているか。



 翌日いつも通り登校すると、昇降口で圭麻に声をかけられた。

「もし昨日みたいなことになったら、俺か柚希のどっちかを呼ぶんだぞ。それか素早く逃げるか。蓮と二人きりで話すのは危ない。ヒナコが蓮に勝てるわけないんだから」

「そうだけど……。あたしは、蓮くんの声聞いてたいな……」

「気軽に会話できる奴じゃないんだ。カッとして殴る可能性もあるんだよ」

「大丈夫だよ。あたしが迷惑かけない限り、暴力振るったりはしないよ」

 ははは……と苦笑しながら返すと、圭麻に強く抱きしめられた。

「け……圭麻くん?」

「ずっとずっとこうしていたい。ヒナコを俺だけのものにできたら、どんなに幸せだろう。でもヒナコは蓮に惚れてるんだよな。俺が好きじゃないんだよな」

「圭麻くんも大好きだよ。かっこいいし優しいし素敵だもん。ただ、恋人同士になっても結局いつかは別れがくるってわかってるの。どうしても蓮くんが記憶に残っちゃってて……。まるで浮気してるみたいで自己嫌悪に陥っちゃうんだ」

「それでもいいよ。浮気しててもいい。だから、もう一度俺の彼女になってくれないか?」

 突然の告白に、どきりと心臓が跳ねる。しかし首を縦に振らなかった。

「だめだよ。あたしは圭麻くんの彼女にはふさわしくない。圭麻くんは、もっと可愛くて美人な子が似合ってるよ」

「ヒナコも充分可愛いし美人だよ。俺は、ヒナコ以外の子に興味がないんだ」

「あたしも蓮くん以外の人に興味ないの。圭麻くんは友だちとして仲良くしてほしい」

 ショックを受けたように圭麻は目を丸くし、がっくりと項垂れた。完全にすずめの心は蓮に向いていると確信し、少し瞼に涙が浮かんでいた。黙ったまま頷き、掴んでいた手を放してゆっくりと歩いて行った。圭麻も蓮と同じくらい愛しているのだが、嘘をつきながら付き合うのは本当の愛とは呼べない。浮気をしている相手を愛すのも辛いし空しいだけだ。もし蓮がすずめを好きになったら、圭麻は捨てられ独りぼっちになるのだから。

「まあ、蓮くんがあたしを好きになるなんて、奇跡でも起きない限りありえないけど……」

 そっと呟いて、すずめも項垂れた。

 落ち込んでいる姿を見たくなかったが、圭麻は放課後まで普段通りだった。安心してすずめも自然に笑顔を作れたが、家に帰って柚希から電話がかかってきた。すぐに固い声が耳に入る。

「すずめちゃん。天内くんに告白されて振ったみたいだね」

「え? どうして」

「今、俺の部屋に天内くんがいるんだ。さっきから泣いちゃって止まらないよ。どんなふうに振ったの?」

 ぎくりとして緊張が走る。素直に話すと、柚希は深いため息を吐いた。

「興味がないっていうのは、ちょっと冷たいんじゃない?」

「でも嫌いって意味じゃないよ。友だちとして仲良くしてって」

「男って弱虫なところがあるんだよね。特に好きな女の子の言葉で傷つくよ」

「そんな……。ねえ、そこに圭麻くんがいるんだよね? 代わってくれないかな? 謝りたい」

「いや。泣いて、とても会話なんかできそうにないから無理だよ」

「え……。そ……それほど……」

「明日になれば、きっと泣き止むよ。電話越しより直接会って謝った方がいいんじゃない?」

 何となく責める口調の柚希の言葉に、それもそうかと考えた。

「わかった。だけど、謝っても恋人同士になるってわけじゃ」

「俺じゃなくて天内くんに言ったら? じゃあ、これで」

 一方的に切られ、携帯を持った状態で固まっていた。すずめを軽蔑しているような声にショックを受けた。柚希は優しくて穏やかな王子様。もちろん人間なので愚痴や不満を吐いたり怒ったりするのは当然だ。けれどその王子様の普段とは違う態度に、電話の向こうにいたのは本当に柚希だったのかと疑った。また、そんなに怒られるようなことをした覚えもない。圭麻は涙が止まらないようだが、傷つける内容ではなかったはずだ。もしかして柚希の作り話かと思ったが、すぐに首を横に振った。そんなことをしても何も得しないし時間の無駄だからだ。

「とにかく圭麻くんには謝ろう。そしてこれからは気を遣うようにしよう」

 ぐっと拳を作り、しっかりと自分に言い聞かせ眠った。

 朝、昇降口で圭麻の背中を見つけて大声で呼び止めた。こちらを向き、にっこりと柔らかく笑った。

「おはよう。どうしたの? そんなに慌てて」

「だって、昨日……。あたしのせいで大泣きしたんでしょ? あたしが酷いこと言ったせいで」

「ああ。柚希がバラしたのか……。教えないって約束したのに」

「ごめんね。あたし、もっと圭麻くんの思いに気づくべきだったよ。……ただ、やっぱり恋人同士には」

「わかってる。ヒナコを悩ませるなって柚希に叱られた。柚希もヒナコと付き合いたいし愛してるけど、悩ませたら可哀想だから我慢してるんだって」

「そ、そうなの? あたしてっきり嫌われてるって思ってたんだけど」

「柚希がヒナコを嫌うわけないだろ。自分の将来よりヒナコの将来ばっかり心配してるくらいだし。どうか幸せになってほしいってね」

 ほっと息を吐いた。柚希に軽蔑されるのは絶対に嫌だった。そのすずめの頭を撫でながら、圭麻は呟いた。

「ヒナコは一生独身になることはないよ。もし蓮と両想いになれなくても、俺や柚希がいるからね」

 だがすずめは聞こえないフリをした。そんなふうに男をとっかえひっかえする女にはなりたくない。たとえ振り向いてもらえなくても本当に好きなのは蓮と決めたのだから、最後まで追いかけるのは蓮だけだ。とりあえず謝れたので、そのまま圭麻とは別れた。

 しばらくは特に問題はなく過ごせた。柚希と圭麻は優しく暖かい。蓮も現れない。もちろん諦めたわけでも忘れたわけでもないが、授業やテストなども集中して取り組める。このまま蓮とは再会できなかったらと思うと空しいが、落ち込んだり泣いたりはしなかった。

 

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