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一二六話

 褒めても何も効果がない。かっこいいも素敵だ、も喜んでもらえない。褒めてやったのだから彼女にしろなどと考えていないし、企みも嫌がらせもない。柚希と圭麻には悪いが、だんだん弱気な心が現れ始めた。蓮と恋人同士になりたい。恋人同士にはなれなくても、せめてそばにはいたい。しかし蓮には大嫌いと言われているし邪魔で迷惑だとも思われている。それに、もしめでたく恋人同士になれたとしても、幸せを掴みとれるか。だが、蓮以外の男子に恋をしたりは絶対にない。蓮以上の男子はどこにもいないからだ。

 うーんうーんと小さな公園で悩みながら過ごすことが多くなった。その日も空が完全に暗くなるまでブランコに座って俯いていた。もちろん、周りには誰もいない。灯りもなく音もしない。

「……どうすれば……」

 呟くと、突然背中から口を覆われた。ぎくりとして逃げようと暴れたが、身動きが取れない。顔を見てやろうとすると、耳元で囁きが聞こえた。

「じたばたすんな。大人しくついてこい」

 蓮の声だった。違う意味で、どくんどくんと心臓が跳ね上がった。小さく頷き、羽交い締めにされた状態で歩き始めた。

 たどり着いたのは蓮のマンションだ。鍵を開けて中に移動すると、ようやく解放された。

「何でここに……」

 緊張で全身が震える。視線を合わせずに蓮は即答した。

「お前の言ってることがわからねえんだよ」

「言ってること?」

「あんなに害虫男呼ばわりしてたのに、いきなり好きなんてあまりにもおかしいだろ。大体、俺のどこが好きなんだ?」

「え……」

 焦って目がぐるぐると回る。情けないすずめを呆れた表情で見つめてきた。

「俺は、お前みたいな暇人じゃねえんだよ。そうやって恋愛ごっこして遊びたいなら、他の男とやってくれ」

「あ……遊んでるんじゃないよ。本当に、本気で蓮くんが好きなの。嘘じゃないよ」

 しかし蓮は聞こえないフリをしてテレビをつけた。ソファーに腰かけ、完全に無視だ。ぎゅっと拳を作り、崩れそうな自分を必死に支える。その時、ふとテレビの映像に目線が移った。さっと血の気が引いていく。蓮が観ていたのは、心霊ビデオの番組だった。うわあっと叫んで蓮の横に座り、腕を掴んだ。

「ちょ、ちょっと。あたし、こういうの苦手なんだよ。違うチャンネルにしてよ」

「うるせえな。面白そうなのが、これしかやってねえんだ。というか近寄るなよ」

 はっとして、勢いよく立ち上がりソファーの端に座りなおす。以前はくっついても嫌がられなかったのにと、寂しさでいっぱいになった。

「と、とにかく違うチャンネルにして。もしかしたら面白い番組あるかもしれないでしょ」

「俺の勝手だろ。何でお前に合わせなきゃいけないんだよ。もし観たくないなら寝れば?」

「まだ眠気はないの。わ、わかった。我慢するよ……」

 俺様で偉そうで優しさなど皆無だ。周りから、なぜ蓮が好きなのかと聞かれてもおかしくない態度だ。

「あっ。ねえ、のど乾かない? コンビニで買ってくるよ」

 女の子らしいところをアピールするために話しかけると、蓮は首を横に振った。

「別にいらねえよ。余計なことするな」

「じゃあ冷蔵庫にあるもので。あたし、コーヒー淹れられるようになったんだよ。圭麻くんが教えてくれたの」

 にっこりと微笑んでも、蓮の表情は変わらない。それがどうしたといった感じだ。次の言葉を失い、冷蔵庫を開けてコーヒーを取り出す。コップに注ぎ蓮の元へ行くが、床に置いてあった本に足を引っかけてしまった。もちろんコーヒーはこぼれ、そばのノートにぶちまけられた。

「お前っ」

 蓮が立ち上がり、すずめの胸ぐらをつかんだ。だらだらと冷や汗が流れ、全身が固まった。

「ご……ごめ……ん……」

「ごめんで済む問題じゃねえんだよっ。何日もかけてやっと終わったのに、お前のせいで一からやり直しだっ。余計なことすんなって言っただろっ。邪魔ばっかりしやがってっ。さっさと寝ろよっ」

 そして頬を殴られた。女子が相手なので手加減はしていたが、それでもすずめは倒れてしまった。耐え切れず、うわああっと号泣してリビングから飛び出し、蓮の部屋に入ってベッドに潜り込む。怒鳴られても仕方ないが、殴るのは酷すぎる。また心は粉々に砕け、修復できない状態になった。



 しばらくして、ドアが静かに開いた。どきりとして涙の跡を拭い、目を閉じて寝たフリをした。音を立てないよう蓮は歩み寄って、すずめが眠っているかどうか確認した。さらに殴った頬を柔らかく撫でて、部屋から出て行った。顔は見ていないが、謝っているみたいだった。言葉では伝えられないので、仕草で悪かったと言っているイメージだ。どきんどきんと鼓動が速くなる。

「……どうして……。どうして蓮くんが大好きなんだ……」

 小さく呟く。これほど傷つけ泣かせる性格なのに、なぜ好きなのだろう。近くにいたいと願っているのだろう。自分でもおかしくなるほど、蓮の虜にされてしまった。

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