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一二一話

 蓮が好きだとわかったのはよかったものの、本人がいなければ告白ができない。縁を切ってしまったし再会をしたくてもどこにいるのか不明なので、この思いを届ける方法が見つからなかった。悩み続けるすずめを支えたのは柚希と圭麻だった。

「すずめちゃん、しっかりと睡眠とれてないんじゃない? 大丈夫?」

「暇さえあれば探しに行ってるんだけど……。全く、ヒナコがこれほど苦しんでるのに何してるんだよ」

 二人ともすずめを愛しているため、とにかく親身に寄り添ってくれる。エミは驚いた表情で話しかけてきた。

「王子様に囲まれて、すごいねえ。お姫様みたい」

「それどころじゃないよ。あたし、寂しくて辛くて……」

「寂しい? どうして? 王子様が二人もいるのに」

「でも……。一人いなくなっちゃったでしょ……」

 はっとエミは目を丸くした。すずめの初恋が伝わったようだ。

「すずめ……。高篠くんが……」

「そう。蓮くんが大好き。圭麻くんとは別れたよ。……後は、蓮くんが現れれば告白ができるのに、どこにいるのか……。それに会えたとしても、蓮くんに嫌われてるからな……。近寄るなって怒鳴られたり無視されて逃げられる可能性もあるよ」

「まあ、高篠くんってそういうタイプだよね。でも、告白くらいは聞いてくれるんじゃないの?」

「え? ど、どうして?」

 自信のない口調で答えると、エミは姉の顔で頭を撫でてくれた。

「だって、好きになってもらったんだよ? こんなに可愛くて優しい子に。すずめに告白されて怒ったり無視したりする男、一人もいないでしょ」

「そうかな……。うるさいとかしつこいとか、絶対に……」

 堪えきれず、涙が零れ落ちた。エミはぎゅっとすずめを抱きしめ、柔らかく囁く。

「あたしは女だから、高篠くんがどう感じるかは理解できない。けど、高篠くんもそこまで冷たい性格ではないよ。もしかしたらすずめに惚れてるってこともあるじゃない」

 それはありえないと、小さく首を横に振った。魅力の欠片さえないと悪口を吐かれ、馬鹿だアホだとも話していた。奇跡でも起きない限り、蓮に好きになってはもらえない。

「それにしても、本当に高篠くんが好きだったなんてびっくり」

「本当にって?」

「クラスメイトのみんなが怖がってたのに、すずめは高篠くんと仲良くしようとしてたでしょ。高篠くんが独りぼっちにならないよう、そばにいてあげて。普通はそんなことしないもん。自分も距離を置いて、なるべく関わらないようにしようって考えるものだよ。たくさん泣かされて傷つけられても離れたくないのは、特別な想いがあるって意味でしょ」

 特別な想い……。確かに、すずめは引き寄せられるかのように蓮のそばにいた。蓮を探し、追いかけ、邪魔扱いされてもとなりにいた。出会ってから、ずっとそうして過ごしていたのだ。

「とにかく高篠くんを探すしかないね。あたしも協力するよ。たくさん相談してね」

「ありがとう。いつもいつもお世話になっちゃって……。ごめんね……」

「謝らないの。すずめは、あたしの妹なんだから」

 優しく微笑み、さらに強く抱きしめてくれた。

 それからしばらく同じような日が続いた。相変わらず蓮は現れず、柚希と圭麻も残念そうな表情が多くなっていく。すずめも申し訳ないと罪悪感が生まれた。

「柚希くん、圭麻くん。ごめんね。もう探さなくていいよ」

 すずめの言葉に、二人とも衝撃を受けた。

「え? 何で?」

「探さなかったら見つからないぞ?」

「だって、これ以上頑張っても再会するのは無理だよ。大体、告白したって恋人同士になれるわけないし。仕方ないよ」

「すずめちゃん、だめだよ。せっかく高篠くんが好きだって気づいたのに」

「そうだよ。蓮を愛してるんだろ? 告白したいんだろ? 俺たちはヒナコの願いを叶えてあげたいんだ」

「だけど、迷惑かけるのが辛くて。お願いだよ。もう探すのはやめて。これからは、あたしが一人で探すよ」

 切ない口調に、柚希の瞼には涙が浮かんでいた。圭麻は小さくため息を吐き、がっくりと項垂れた。逆にすずめは心が軽くなり笑顔になった。ぺこりと頭を下げて感謝を告げた。

 家に帰って、どうしようもない悩みに苦しむ。誰も助けてくれない。真っ暗闇の中を恐る恐る歩いている感じだ。やがて独り言が漏れた。

「……やっぱり、マンションに行くしかないか……。マンションなら、蓮くんはいるもんな……」

 なぜさっさとマンションに行かなかったのかは、自分でもよくわからない。蓮の態度や言葉が怖かったというのもあるし、もし会っても告白する自信がなかったというのもある。柚希と圭麻はすずめが傷つかないよう接してくれるが、蓮はそういう性格ではないからだ。

「……よし。当たって砕けろだ。あたし……。頑張るぞ……」

 ぐっと拳を作る。みんなが応援してくれているのだから逃げてはいけない。覚悟を決め、崩れそうな心を強くした。




 土曜日にマンションに向かった。何度も後ろを振り向き、戻ろうかどうしようかと迷って三時間以上かけてドアの前に辿り着いた。深呼吸をしてから震える指でインターフォンを押す。しかし蓮は現れなかった。

「あれ?」

 聞こえなかったのかとまた押してみたが、やはり反応はない。というか、中で人が動く気配がしなかった。

「れ……蓮くん……。寝てるの? ちょっと用があるんだけど」

 ドンドンとドアを叩いても同じだ。首を傾げて黙っていると、代わりに横のドアが開いた。中年の男性がじろりと睨みつけてくる。

「うるさいなあ。あんた誰ですか? 大声出さないでくださいよ」

「す、すみません……。あの、この部屋に住んでる蓮……じゃなくて高篠くん、いないんですか?」

「え? ああ、全然しゃべらない高校生? そういや最近会わないなあ。もしかして引っ越したのかな?」

「引っ越し?」

 ぎくりと冷や汗が流れた。勢いよく男性の腕を掴む。

「引っ越しって? まさかアメリカですか?」

「アメリカ? 知りませんよ。俺に聞かないでください」

「だ……。だって……」

 ショックを受けるすずめを無視し、男性はドアを閉めてしまった。へなへなと座り込み、荒い息を整える。

「嘘……でしょ……。蓮くん、アメリカに引っ越しちゃったの……? 告白する……前に……」

 もたもたしていたせいで、告白のチャンスを逃した。おまけにすずめはパスポートも持っていなければ英語だって話せない。二度と蓮の姿を見ることはできないのだ。

「そんな……。そんなあっ……」

 うわあああっと号泣した。涙が後から後から零れていく。我慢ができず大声で叫び、マンションから走り去った。地獄の底へ突き落された。いつの間にこんな状況になっていたとは。現実の残酷さに体が引き裂かれそうだった。


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