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【後日談】シエテの憂鬱

 シーナが結婚した後、シエテは家業の手伝いの傍らある仕事をすることになった。

 それは辺境騎士団の第二班の隊長という面倒極まりない役職を義理の弟となったカインから押し付けられたのだ。

 最初は断ろうとしたシエテだったが、シーナのキラキラと輝く瞳で尊敬するような眼差しの前に断ることが出来なかったのだ。

 シーナ曰く、「騎士団の制服姿のにーに、格好いい!!」とのことだったので、まんざらでもなかったシエテだった。

 しかし、家業の傍らの任務は多忙を極めていた。

 カインからは、「義父(ちち)上と義母(はは)上の手伝いの空いてる時間でいいので、騎士たちに稽古を付けてやってほしい」とのことだったのだ。

 シエテの中では、屋敷に住むようになったシーナと会えるチャンスだという思惑もあって引き受けたのだが、気がつけば最初の思惑とは別方向にズレ始めていたのだ。

 

 初めの頃は、シエテの訓練中にシーナが差し入れを持って見学に来ていたのだ。

 しかし、可愛いシーナの見守る中の訓練は、まだ若い連中が集まった第二班には目の毒だった。

 シエテが、騎士たちに指導をしている姿を見学しながら、兄の格好いい姿に頬を染めるシーナの姿は騎士たちの間で「天使たん」と言われるようになっていったのだ。

 シエテのシスコンが強烈過ぎて周りは気が付いていなかったが、シーナも十分ブラコンだったのだ。

 栗色の短い髪を揺らして、剣を振るシエテの姿にシーナは頬を染めて、胸元で手を握りしめて見つめる姿はまるで恋人を見つめるかのような熱い眼差しだったのだ。

 そんな姿を見た騎士たちは、まるで自分を見つめてくれているような錯覚に陥っていた。

 その効果なのか、訓練に参加する騎士たちの士気は日々うなぎ登りに上昇していたのだ。

 可愛いシーナに見つめられるのは嬉しかったシエテだったが、騎士たちがシーナにデレデレになる姿を見るのは複雑な心境だったのだ。

 シエテ的には、可愛いシーナを自慢したい気持ちと、独り占めしたい気持ちで複雑な思いをしていたのだ。

 

 そんなある日、シーナの見学にカインも付いてきたのだ。

 カインは、普段は書類仕事に明け暮れているが、手が空いた時は騎士たちの訓練に参加することもあったのだ。

 結婚後、初めて訓練に参加するカインを見たシーナはその出で立ちにうっとりした表情をしていたのだ。

 訓練場に現れたカインは、カイン専用の騎士服に身を包んでいたのだ。通常の制服よりも訓練用の略式の物だったが、青を基調とした騎士服を着たカインに見惚れていたのだ。

 

 シエテのときも、シーナは心から喜んでくれていたのだが、カインに向けるうっとりとした表情はとても気に入らなかったのだ。

 だからシエテは意地になっていたのだ。

 カインをボロカスに負かせば、カインの格好は形だけだとがっかりするはずだと。

 以前、王都で決闘した時は侮りもあって不覚を取ったシエテだったが、ある程度の実力を踏まえた上で最初から全力でぶつかれば、余裕で勝てる自信があったのだ。

 しかし、その時のカインはシーナの「カイン様、頑張って」という、応援というバフを受けたためなのか、実力以上の動きを見せたのだ。

 結果は、僅差でシエテの勝ちだった。

 シエテが勝ったにも関わらず、シーナはカインに駆け寄り、手に持ったタオルをカインに差し出して言ったのだ。


「カイン様!凄く格好良かったです!!やっぱりカイン様は素敵です」


「いや、義兄(あに)上には勝てなかったよ。義兄上は流石だな。騎士団に参加してもらってよかったよ」


「はい。にーにはすごいんです!」


「ははは、シーナは義兄上が本当に大好きだね」


「はい!にーにのこと大好きです」


「俺は、シーナが一番好きだけどね」


「っ!!カイン様の意地悪……。にーには家族として大好きですけど、カイン様はにーにとは別の大好きなんです!!」


「くくっ、俺のこと大好きなんだ?それってどのくらいかな?」


「世界一大好きです!!」


「ふっ、俺もシーナのこと世界で一番大好きで、愛してるよ」


「あっ、カイン様ずるいです。私もカイン様のこと世界一愛してます!!」


 そう言って、気がつけばイチャイチャしだす最愛の妹と義弟の砂糖を吐きそうな姿に胸焼けがしていたシエテは、がっくりと肩を落としていた。

 

 そして、その場にいた騎士たちは全員が心の中で毒づいていた。

 

 ―――リヤ充爆発しろ!!!!!!

 

 そんなこともあり、シエテは苦渋の選択としてシーナに言ったのだ。

 

「シーたん。騎士たちの精神面の問題なんだけど、可愛いシーたんが見ていると、彼女のいない騎士たちが精神的なダメージを受けるから、見学の回数を少し減らしてほしいかも……。俺は、シーたんに見てて欲しいんだけど、領主様とのイチャイチャ……、いや、なんでもない。兎に角、見学の回数を少し減らしてほしいんだ……。シーたん、ごめんね」


 シエテがそう言うと、シーナは残念そうにしながらも頷いてくれたのだ。

 しかし、それからはシーナの訪れが減り、その代わりに、指導していた騎士達が何故かシエテのことを「兄貴!!」と呼ぶようになり、シエテの精神はガリガリと日々削られていくのだった。

 

 

 

【後日談】シエテの憂鬱 おわり

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