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第三章 血に染まった令嬢は、悪魔の子と蔑まれる 1

 イシュミールがカインとともに社交界デビューした日から時は経ち、婚約式から2年の月日が経っていた。とうとうカインは15歳となりようやく待ちに待った結婚が可能な年齢となっていた。


 そのため、いよいよ結婚式が開かれることになった。




 イシュミールは、結婚式の前に一度アックァーノの領地に戻ることになった。

 式の前の大切な時期に、領地に戻ることになったことをカインに話したときだ。

 結婚の準備は王都で全て済ませているため、結婚前の里帰りにカインは不満げな顔をした。

 

 カインが指輪を贈ってから、イシュミールをデレデレに溺愛することに歯止めが効かなくなっていたのだ。

 カイン本人は必死に隠しているつもりだった。その努力のお陰で、甘やかされているイシュミールや、周囲の者たちにはまだ気が付かれていなかった。

 ただし、母親である王妃やイシュミールの守護騎士であるカーシュは、その分かりきった態度に毎回体内で生成された砂糖が口から出てしまうのをこらえるのが大変だったが、それを言ってカインが変にへそを曲げると大変だと、言わずに生ぬるい表情でそれを見守っていた。

 

 

 そんなデレデレなカインは、里帰りを快く思わなかった。しかし、イシュミールから領地にいるイシュタルが病気になりどうしてもイシュミールに会いたいと言っていたためだと聞いて、離れたくない気持ちを抑えて、それを見送ったのだった。


 イシュミールはカインに訳を話した後、急いで領地に戻ったのだった。

 領地に行くまでに、護衛として王宮の騎士が付くこととなった。

 イシュミールは、カーシュだけでいいと言ったが、カインがそれに納得せず、王宮の騎士が数人同行することとなったのだ。



 イシュミールが実家に急いで戻ると、イシュタルは風邪を引いたようでベッドで休んでいた。

 しかし、イシュミールが顔を見せると明るい笑顔を見せたのだが、それでも弱々しい声音で言った。


「姉様、今まですごく寂しかったのです。姉様が婚約される前は、何時も一緒にいたのに……。この2年と言ったら、離れ離れで……」


 大切な妹がそこまで寂しがっているとは気が付かなかったイシュミールは慌てて謝罪した。

 ベッドに横になる大切な妹の白く華奢な手を取り、包み込む様に握って言った。


「ごめんなさい。結婚しても、殿下に許可をもらって、里帰りします。だから、そんなに悲しまないで」


「姉様……。お願いがあるの……。これから結婚式の準備のために、すぐにでも戻られるでしょう?わたくしも一緒に連れて行って欲しいのです。本来は式に間に合うように領地を出ればいいのですが……。わたくし、少しでも姉様と一緒に居たいのです!!」


 大切な妹に懇願されたイシュミールは、この願いを受け入れることにした。

 ただ、イシュタルの体調が心配だと言って、出発を少し遅らせることにしたのだった。


 

 こうして数日間ではあるが、久しぶりの領地での生活で、自分がいかにここの使用人や両親には厭われているということを思い出させるものだった。


 しかし、一緒に来ていたカーシュが事あるごとに、イシュミールを庇ってくれたことでなんとか心の平穏を保つことが出来たのだ。

 婚約する前は、当たり前だった、使用人に嫌な顔をされたり、両親に無視されたりということが何故か苦しかったのだ。

 何故かと考えた時に、今は離れているカインのことと、タウンハウスに居る使用人たちの優しさを思い出したからだった。


(幸せに慣れてしまったから、前までは平気だったことが辛く感じるんだわ。でも、わたしはこの幸せな気持ちをくれるカイン様が大好きだから、もう何も辛くないわ)


 実家での久しぶりの扱いに、最初は辛く思っていたが、カインのことを考えると、心が暖かくなりつらい気持ちがなくなっていくのを感じた。

 しかし、敬愛するイシュミールの酷い扱いを知ったカーシュは事あるごとに両親や、使用人に注意を行っていた。

 イシュミールは、カーシュが自分を大切に思って行ってくれる行動が嬉しくて、常に笑顔で過ごすことができたのだった。


 そんなある日イシュミールは、カーシュがここまでしてくれることが不思議でどうしてここまで大切にしてくれるのかと尋ねた。

 


「ねえ?カーシュはどうしてわたしを何時も大切に守ってくれるの?」


 心底不思議だと言った表情で言ったイシュミールに、カーシュは少し困ったような表情で言った。


「俺は、精霊を信じているんです。そのためか、極稀にですが、精霊や妖精が見える時があるんです。それで、姫を初めて見た時に分かったんです。姫が希少な精霊眼の持ち主だと」


 カーシュの返答に驚きを隠せないイシュミールは、言葉が出ずに何度も瞬いた。


 精霊眼とは、精霊や妖精がはっきりと見ることが出来る希少な瞳のことだ。この瞳の持ち主は、精霊や妖精に好かれる性質を持っており、精霊からの祝福を生涯のうちに一度だけ受けることがあると言われていた。そのため、周囲の者に安易に知られてはいけないと幼い頃に、精霊たちに言われてイシュミールは誰にも、大切な妹にも言っていない秘密だったのだ。


 それを見たカーシュが、イシュミールの疑問を先回りして答えたのだ。


「俺にはわかるんですよ。姫は隠しているようだったので、俺も敢えて言いませんでした。でも、ご実家での暮らしぶりを見ていて、姫にはお伝えしたほうがいいと俺が判断しました」


 そう言って、跪きイシュミールのドレスの裾にキスをして改めて忠誠の誓いをしたのだった。

 

「姫、改めて俺は誓います。この身は姫の盾となり剣になると」


「カーシュ……。気持ちはとても嬉しいです。でも、自分のことも大事にしてね。あまり無茶をしないでね」


「善処します」


 そう言ったカーシュだったが、イシュミールの身に危機が迫れば、その身を犠牲にしてでも守ると心のなかで誓ったのだった。




 数日後イシュタルの体調も万全だと判断し王都に戻るために馬車に乗って領地を出た。

 カーシュは、馬で並走しイシュミールたちの乗る馬車を護衛していた。

 その他にも、王家から派遣されている騎士達が旅路を守っていたのだった。


 旅は順調で、王都まで後半日の距離に来た時に事件は起きた。

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