【IF】ざまぁ、滅亡END 1
イシュミールは、不衛生な塔の最上階に幽閉されてどのくらいの時が過ぎたのかも分からなくなっていた。
大切に思っていた妹に、居場所と愛する人を奪われた。
愛する人が、自分に気がついてくれない惨めさ。
自分を大切にしてくれた人を巻き込んで死なせてしまったことへの罪悪感。
閉鎖空間でイシュミールは、いつもそんな事を考えていた。
いつしかその無垢なる心は、黒く澱んでいった。
次第に意識も薄れていった。
そんな中、イシュミールに呼びかける声が聞こえたのだ。
最初は聞き取ることも出来ないほど小さな声だったが、イシュミールの心が黒く澱んでいくほどその声は明瞭なものとなっていった。
ある日、その声がはっきりとした言葉としてイシュミールの耳に届いたのだ。
【ねぇ、悔しくはないの?復讐したくないの?こんなにされて、まだいい子でいるの?】
そんな声が聞こえてきたのだ。
イシュミールは、すでに何も考えられなくなっていた頭で、言われるままに考えた。
こんな辛いことから、楽になる方法をだ。
【ねぇ、もう楽におなりよ?心のままに生きるっていうのはとても気持ちのいいものなんだよ?】
(心のままに生きる?)
【そうそう、とっても気持ちいいよ?何にも縛られない自由な心!!】
(自由な心?)
【ああ、そうさ。自由に生きることは誰にでも与えられた権利なんだ!!さぁ、求めるんだ!!自由を、自分にこんな酷いことをした奴らに復讐するんだ!!】
(自由、権利?求める?わたしに酷いことをした人?)
イシュミールは、謎の声に言われるまま考える。自由とは何か、酷いこととは何かを。
次第に、イシュミールの心から黒い思いがドロドロと溢れそうになっていた。
しかし、イシュミールはその心が溢れてしまうことに恐怖を覚えていた。
もし、この思いが溢れたら大変なことになるとなんとなく分かってしまったのだ。
だから、最後の力でそのドロドロをしまおうと必死になったのだ。
しかし、そんなイシュミールを嘲笑うかのように、謎の声は言ったのだ。
【どうしてそんなに頑張るのかな?だって、みんな君を裏切ったんだよ?】
(裏切る?みんな?)
【そうさ、妹も。愛していた王子も。家族も、みんなみんな!!】
(王子……。カイン様……、会いたい。貴方に会いたい……)
謎の声の言葉から、イシュミールはカインのことを考えて、会いたくなったのだ。
イシュミールは、カインのことを信じたかった。
何か理由があるのだと。
しかし、そんなイシュミールを嘲笑うかのように謎の声は言ったのだ。
【おかしいな?何か理由があるなら、何故王子はこないんだ?それって、君はもう彼に捨てられてるっとことだよ?ふふふ、あはははは!!】
謎の声の言葉に、イシュミールの疲弊した心は音を立てて砕けるのが分かった。
信じたかったのに、何故会いに来てくれないのかと、イシュミールも何度もその事を考えてしまっていたのだ。
考えたくなかったことを、謎の声に言われてしまったイシュミールの心は限界を超えてバラバラに砕けていた。
その言葉の凶器が致命傷となったのだ。イシュミールの命の火は急激に細くなり、風が吹けば消えてしまうほどになっていたのだ。
それを知ってか、謎の声はさらに続けて言ったのだ。
【あはははは!!あの王子様は、君じゃなく、君を裏切った妹を選んだんだよ!!今頃、二人でよろしくやってるよ。君の惨めな姿を笑いながらね!!】
その言葉が、刃となりイシュミールの消えそうだった命の火を吹き消したのだった。
事切れたイシュミールの体は、何処からともなく現れた謎の黒い影に取り込まれていき、その場には何も残らなかった。
イシュミールを取り込んだ黒い影は、狂ったように大声で笑った。
【あはははは!!精霊眼が手に入った!!これで、ここを抜け出せる!!苦しかった、苦しかった!!】
そう言った後、その黒い影は、易易と空に飛んでいったのだ。
窓を越える際、「パチンッ」と金属が爆ぜるような音がしたが、黒い影は気にすることもなく空に消えていったのだった。




