【IF】カーシュ生存ルート
馬車の横を馬で並走していたカーシュがイシュミールに馬車の外から声をかけた。
「姫、このペースで行けば夕方前には王都に入れます。一度休憩にしてはどうですか?」
「そうですね。騎士の皆さんも馬も疲れているでしょうし、一度休憩にしましょう。どこかいい休憩場所があればいいのですか」
「それでしたら、もう少し行ったところに小川があります。そこで、休憩にしましょう」
「分かりました」
こうして、王都に入る前に休憩を取ることとなった。
カーシュから提案された小川で馬車を止めて、騎士たちと馬を休めることにした。
イシュミールも休憩のため馬車から出て、外の空気を吸っていた。
イシュタルは、騎士たちを労うと言ってイシュミールから離れていた。
イシュミールのすぐ近くにはカーシュが控えていて、安心した気持ちでのんびりと気持ちのいい日差しを浴びていた。
そんなのんきな気分で、小川の水を美味しそう飲む馬たちをのんびりと眺めていたイシュミールだったが、直ぐ側に控えていたカーシュが剣の柄に手を伸ばして、低い声で言った言葉を聞いて、周囲を警戒するように周りを眺めた。
「姫、賊のようです。数人ですが、足音を消す歩き方から腕が立つと思われます。護衛の騎士たちと合流しましょう」
そう言ってから、動き出そうとしたタイミングで茂みから弓矢が飛んできた。それをカーシュは剣で弾いて凌いだ。
「姫!!走って!!」
イシュミールは、言われるままに走った。
相手があらかた弓矢を使い果たしたのか、しばらくすると弓矢での攻撃がやんだ。
しかし、今度は茂みから剣を持った数人の暴漢が襲ってきたのだ。
相手の剣を受け止めながら、カーシュとイシュミールは驚きの声を上げた。
なんと、襲ってきた暴漢は今まで護衛をしていた騎士たちだったからだ。
カーシュは怒りを露わにして、相手の剣を弾きながら怒鳴った。
「何故だ!!何故護衛のお前たちが姫を襲う!!」
しかし、護衛から一転暴漢へと変わった男達は、一切答えようとはしなかった。
ただ、様子が可怪しいことだけは分かったカーシュだったが、同僚とイシュミールの命を秤にかけた時、イシュミールの命の重さのほうが重要だと判断したカーシュは、襲ってくる騎士たちを躊躇なく斬り捨てた。
驚き、小さく悲鳴を上げるイシュミールに見せるには残酷なシーンにカーシュは苦虫を噛み潰したような表情をしたが、何もよりも大切な存在であるイシュミールの命を優先した。
イシュミールは、躊躇なく騎士たちを斬り捨てるカーシュの姿にショックを受け気絶していた。
カーシュは、そんなイシュミールの事を何よりも大切そうに木の下に横たえてから、自分の上着を掛けた。
そして、頬にかかるストロベリーブロンドを優しく横に流してから熱のこもった瞳で見つめて言った。
「姫……。貴方の障害になるものは全て俺が排除します。だから今は、少しだけ眠っていてくださいね。起きたときには、全てを終わらせておきますから」
そう言ってから、近くに潜んでいた男たちも次々と斬っていった。
そして、男たちに命令をしていたイシュタルを見つけたカーシュは、無言で近づきイシュタルが何かを言うよりも早く、その首を切り落としたのだった。
カーシュは、この旅路で気が付いてしまったのだ。
イシュタルの異様な力に。
何事もなければそれでいいと考えていたが、イシュタルは自分の欲望を満たすために動いたのだ。
イシュタルが何を思って、イシュミールを襲おうとしたのか分からなかったが、理由などどうでも良かったのだ。
ただ、敬愛するイシュミールの安全だけがカーシュにとって重要だった。
だから、何も聞かずに元凶のイシュタルを殺したのだ。
殺すことに何の躊躇もなかった。
ただ、首をはねた時、長年イシュミールを苦しめていただろう存在が消えることに微かな喜びが湧いたのだ。
その後カーシュは、気を失うイシュミールを連れて王都を離れた。
王都から遠く離れた、カシオリア聖王国に逃げたのだ。
あの日から、イシュミールは眠ったまま目を覚まさなかったが、カーシュはそれで良かった。
眠ったままの、美しい妖精のような自分だけの主の世話をすることに暗い喜びを覚えていたからだ。
その後、追手を避けるべく、各地を転々とする生活が続いた。
そんな中、カーシュは遂に見つけたのだ。
灯台下暗しとはこのことだと、歓喜したのだ。
逃げ回った末に、アメジシスト王国のとある森に安住の地を見つけたのだ。
その森は、精霊に愛された人間でなければ暮らすことの出来ないような場所だったのだ。
その森に、小さな家を建て、畑を耕し日々を暮らした。
未だに眠り続けるイシュミールの世話をしながらカーシュは、二人きりの暮らしを幸せに送ったのだった。
【IF】カーシュ生存ルート BADEND 完




