第七章 二度目の恋と最後の愛 8
アメリは、そう言ってから次にシエテたちのことを見た後に頭を下げた。
シーナが不思議に思っていると、クリストフが引きつった表情で事情を説明してくだたのだ。
「あぁ~、シーナちゃん。俺から説明するよ。あの後、シーナちゃんが走って行っちゃった後に、俺たちも追いかけたんだよ。で、途中でシーナちゃんを見失って、シエテと姉ちゃんが発狂していたところで、スリ男と偶然遭遇してな……。それで、シエテと姉ちゃんが、スリ男に君の居場所を、あ~、ちょっと?乱暴な方法で聞き出したんだよね。でも、言われた場所に君はいなくて。仕方なく、財布を詰め所に届けてから特区に戻ったというわけだ」
クリストフは、そう言ったが実際にはさらに過激な出来事があった。
スリ男を見つけたシエテとフェルエルタは、男に詰め寄り出会い頭に一発入れていた。
そして、ドスの利いた声で「俺の可愛いシーたんは何処だ?さっさと吐け」と言って、脅したのだ。
脅されたスリ男は、最初は余裕ぶっていたのだ。
「あん?誰だそれ?あ~、俺がぶん殴ったあの粋がったガキか」
スリ男が、何気なくそう言った瞬間、その男はボロ雑巾のようになっていた。
クリストフが慌てて止めなければ、シエテとフェルエルタは、しょっ引かれていただろう。いや、確実に暴行罪で捕まっていた。
しかし、そのスリ男は常習犯の上か弱い女性だけをターゲットにするあくどい手口でリスト入りしていた男だったこともあり、捕まることはなんとか免れたのだった。
クリストフから簡単な経緯を聞いたシーナは、花のような輝く笑顔をアメリに見せた。
「そっか、良かった。私途中で逃げられちゃって……。でも、にーにたちが捕まえて届けてくれたんだね。良かった!!」
真正面からシーナの笑顔を見たアメリは、鼻血を吹いて倒れた。
そして、血に塗れた顔を笑顔にしてサムズアップしてみせたのだ。
「フェルの報告通りの天使たん……。最高オブ最高……。妄想だけの存在だった天使たんが、今私の目の前に……。精霊様……ありがとう……ガク」
そう言って、気を失ったのだった。
倒れたアメリに慌てたクリストフが駆け寄った。
「おい!アメリしっかりしろ!!死ぬな!!」
「逝かせてあげな……。アメリ、幸せな最後だった」
フェルエルタは、クリストフの肩に手を置いて首を横に振って言った。
その茶番を呆れたような表情でシエテは見ていたが、シーナは驚きの声を上げた。
「えっ?えっ?大変!!お医者様!!カイン様、お医者様を呼んでください!!」
慌てるシーナの優しさにカインは、蕩けるような表情になっていた。自然と腕の中に閉じ込めて、柔らかい髪を撫でながら冷静な声で言った。
「大丈夫だ。全部茶番だ。アメリ嬢は死んではいない。直ぐに起きるさ」
「でも、クリストフが死ぬなって……」
「全て茶番だから大丈夫だ。それよりも、明日のデートで行きたい場所があればリクエストを聞こう」
「えっ?えっ?でも、でも」
まったくアメリの事を心配していないカインにシーナは戸惑っていたが、気が付くといつの間にか鼻血まみれのアメリが起き上がり、謎の四角い箱を片手にシーナの周りを「いいよ!」「かー、最高!!」「はぁ、まじで天使」といいながらぐるぐる回っていたのだった。
意外に元気そうだったため、シーナは安堵の息を吐いた。
その間も、「パシャッ!」「パシャッパシャッ!!」という謎の音は鳴り響いていた。
シーナは、後から知ったことだったが、実はアメリとレイゼイ姉弟は以前からの友人だったという。何度か手紙や魔導通信のやり取りで、シーナの事を話していたということだった。
アメリが元気になった事を見たシーナは、カインに連れられるままにリビングを出てカインの私室に向かったのだった。
部屋を出る時に、中からシエテとフェルエルタの謎の奇声が聞こえてきたがシーナはただそれに首を傾げるだけだった。
「頼む!!それを譲ってくれ!!シーたんをいつでも眺めることが出来るなんて最高だ!!」
「アメリ、グッジョブ。可愛いシーナちゃんを永遠に保存。最高」




