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第七章 二度目の恋と最後の愛 5

 ミュルエナが普通にいることにカインは唖然とした表情をした後で、わなわなと震えだした。

 そして、全力でツッコんだのだった。

 

「どうしてお前がここにいる!!」


 カインのツッコミに、ミュルエナはどうでも良さそうな調子で答えた。その視線はイチャイチャし続ける双子に向かっていた。

 

「えっと、忘れ物?的な?用事を思い出しまして、そのついでに、みなさんのお世話などを少々」


「は?」


「ファーストk―――」


 ミュルエナがそこまで言いかけたところで、カインは光の速度でその口を塞ぎに掛かった。

 王宮での事を踏まえて、口を塞ぎに掛かったようにフェイントをした上で、護身用の短剣を投擲した。

 ミュルエナは、飛んでくる短剣を軽く避けたが、口から出た言葉は途中で止まってしまった。

 そのことで、カインのことをニヤニヤした表情で一瞬見た後に、表情を元に戻してから、カインにだけ聞こえるような小声で言った。

 

「旦那様は、学習されましたね。王宮であたしの動きを止められなかったことから、フェイントからの投擲なんて冴えてます!そうそう、先程言いかけた話なのですが、ファーストキスのことです。美少女ちゃんもきっと、唇へのキスは初めてだと思われるので、ムードのある雰囲気の中で最初は軽めのチューの方が良いですよ。旦那様のことだから、ヤワヤワなお口を吸った瞬間ベロとか入れそうで心配になったので忠告に来ました!!」


 ミュルエナの余計なお世話な心配事をもう一本の短剣の投擲で黙らせたカインは、蟀谷をピクピクとさせながら低い声で言い放ったのだった。

 

「自重くらい出来るわ!!」


 カインの雄叫びを聞いたミュルエナは、疑わし気な目で見てからため息を盛大に吐いて、肩を竦めながら言った。

 

「分かりました。もし、初チューで、あたしの言った通りの行動をとった場合は……、そうですね~。おしおきだべぇ~ってことで!!あ~、楽しみ~」


 ルンルン気分のミュルエナにソファーにあったクッションを投げつけるカインだったが、簡単に避けられてしまい舌打ちをしたのだった。

 

 そして、疲れ切った表情でもう一方にもツッコミにかかった。

 

お兄様(・・・)?いい加減、離れてくれませんか?俺の(・・)シーナから」


 そう、カインがミュルエナとやり合っている間も、シエテは眼中にないと言わんばかりに、ただひたすらシーナを構い倒していたのだ。

 そんなシエテは、カインから言われた一言に蟀谷をビキビキといわせながらもまったく笑っていない目で、口元だけを弧を描くようにしてからこれまた低い声で言った。

 ただし、シーナに聞こえないように、その耳を塞いでからだが。

 

「おい、ロリコン伯。お前にお兄様と呼ばれる筋合いはない。それに、シーたんはロリコン伯のものではない。俺の(・・)大切な妹だ」


 そう言って、二人は睨み合い火花を散らせたのだった。

 それを止めたのは、状況をまったく理解していないシーナだった。

 

「にーに?どうしたの?それに、カイン様も……。もしかして……、このお菓子……食べちゃ駄目だった?どうしようにーに、もう殆ど残ってないよ……。ごめんなさい、悪いのは私なんです!だから、にーにを怒らないで」


 そう言って、少し涙目になりながらも必死にシエテを庇い、謝ってくるシーナの勘違いに、毒気を抜かれたカインとシエテは、視線だけで会話を成立させた。

 

(ここは一時休戦だ)


(分かりました。シーたんのためです)


 視線で休戦を互いに約束した二人は、まるで打ち合わせでもしたかのような連携プレイでシーナの杞憂を必死で払ったのだった。

 

「違うぞシーナ、その菓子はお前が全部食べてもいいんだぞ」


「そうだぞ、シーたん。全然食べて大丈夫だぞ!!ただ、そう、領主様は腹が減ってたみたいで!」


「そうそう、小腹が空いてつい、美味そうに食べていたから気になったんだ!」


 二人があたふたと言い訳をしていると、シーナはそれを鵜呑みにして、納得したとばかりに笑顔を取り戻していた。

 しかし、シエテは痛恨のミスを犯していたのだ。

 苦し紛れの言い訳に、カインが腹が減っていると言ったばかりにだ。

 

 シーナは、素直にカインの空腹を心配してシエテの膝から降りてから、カインにお菓子を片手に近づき言ったのだ。

 

「はい、カイン様。あーん」


 クッキーを華奢な指で摘んで、カインの口元に持ってきたシーナにカインは胸が高鳴った。

 背の高いカインに届くように精一杯背伸びをして、少しプルプルと震えながらも一生懸命にクッキーを食べさせようとしてくれるそのシーナの姿に、カインは目眩がした。

 

(くっ!!なんだこの可愛い生き物は!!)


 シーナをいつまでも待たせるわけにはいかないと、カインはドキドキしながら屈んで差し出されたクッキーを食べたのだ。

 口に入れた瞬間、一瞬だけシーナの指が唇に触れた。

 カインは、無意識にシーナの手首を掴み逃げられないようにしてから、指先についたクッキーのカスを舐め取った。

 たまにお茶請けとして出される平凡なクッキーが、世界一美味なクッキーになったようにカインには思えてならなかった。

 指先を舐められたシーナは、思ってもいなかったカインの行動に顔を真赤にさせているのが目に入った。

 その初心な反応を見たカインは、もっと恥ずかしがるシーナが見たくなってしまい、見せつけるように指を舐めてからワザと「ちゅっ」と音をさせてからシーナの華奢な指を解放したのだった。

 

 羞恥で真っ赤にさせた顔が可愛くて仕方がないという表情でシーナを見ているカインは、後ろからの衝撃に気が付いたときには意識が遠くなっていったのだった。

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