第七章 二度目の恋と最後の愛 2
「あ……の…………。クソメイド!!!」
カインは、まさかのミュルエナの行動を知り絶叫した。
「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ。そんなにイライラしていると禿げますよ?」
「誰のせいでイライラしていると……?って、は?えっ?なっ!?」
「リアクション芸人ですか?う~ん、ちょっとイマイチですよ?そんなんじゃ、あの美少女ちゃんには飽きられちゃいますよ?」
「リアクション芸人ってなんだよ!!シーナとのことは放っとけ!!って、そうじゃない!!どっ、どうしてお前……」
「はい?何のことです?」
絶叫したカインに、話しかけたのはカインのイライラの原因となっていたミュルエナだった。
然も当然と言わんばかりに、その場にいる爆発に巻き込まれたはずのメイドを見たカインは、目を白黒させていた。
ミュルエナはというと、混乱するカインの顔を見て口元をニヤニヤと歪めていた。
そして、未だにカインが発言してこないことをいいことに、国王たちにニヤニヤ顔で話しかけたのだった。
「時に陛下たち、最新の面白ニュースがあるんですが、これくらいでどうです?」
そう言って、指を五本国王に向けて見せた。
すると、国王は首を振って指を二本ミュルエナに見せた。
対するミュルエナは、さらに首を振って指を四本見せると、国王は指を三本に増やしていた。
それを見たミュルエナは、「商談成立です」と言ってから、昨日の屋敷の外で起きた騒動や、カインとシーナのイチャイチャ話をし始めたのだ。
これには、流石のカインも驚きはしたが直ぐに止めに入った。
「ちょっ、おまっ!!」
しかし、ミュルエナはひらりひらりとカインの事を躱し、シーナを気絶させたところまで話し終えてしまったのだった。
そして、カインに真顔になったミュルエナはあることを言った。
「旦那様、目、元に戻ってよかったですね。これも、あの美少女ちゃんの愛のなせる業なのでしょうか?」
「目?」
「はい。あの女の魅了に掛かった時から目が死んだ魚みたいに濁っていたじゃないですか?いまは、昔のような色に戻ってますよ?美少女ちゃんが、旦那さまの瞼にちゅっちゅしてくれたお陰ですね~」
「ちゅっちゅって……」
カインは、そう言って赤面したのだった。しかし、良い年したおっさんであるカインの赤面など見たくもないミュルエナは、そんなカインを鼻で笑った。
「ぷっ、今更純情ぶってもキモいだけですよ?人目のある場所で、あんなに激しいキスをあんなに小さい美少女ちゃんにぶちかますなんて、流石ケダモノですね!!」
「おっ、お前!!事実ではあるが誤解を招くような言い方をするな!!」
「ぷぷぷっ!!そう言えば、旦那様はあっちの経験は済ませてますが、そっちはまだですよね?」
ミュルエナの含みのある言い方にカインは首を傾げた。
「おい、そっちて何のことだ?んん?!!!まっ、まさか!!」
一つだけ心当たりがあったが、それを知るのは自分だけのはずだと否定しつつも事実であれば口に出されるのは屈辱だとミュルエナを止めようとしたが遅かった。
「ぶっふっ!!げほげほ!!そっ、そんな訳で、ファーストキスは是非いいムードの中で、二人きりのシチュエーションの中でお願いしますよ」
そういって、ミュルエナはカインの秘密を暴露して一人爆笑した。
ひとしきり笑った後に、軽い口調でカインと国王に向かって言いたいことだけ言って、風のように去って行こうとしたのだ。
「んじゃ、ここに来た本題だけど、旦那様あたし、メイドやめるからよろしく。私物とかは既に撤収済みなので残ってるものは処分していいから。それと、陛下、いつもの口座によろしくね~」
しかし、カインは改めて自分の協力者だったメイドの正体について考える必要があったのだ。
身を翻したミュルエナをカインは全力で止めた。
「待て待て待て!!お前、どうやって!!」
「え~、面倒です」
「いやいやいや、お前の好きにさせたんだ、それくらい聞いてもいいだろう!!」
カインがそう言うと、ミュルエナは「仕方ないですね」とかインに説明した。
それはもう、簡潔過ぎる説明をしたのだった。
「えっと、もう気づいていると思いますが、部屋中に見えていた炎はフェイクです。ついでに煙も。で、旦那様が結界を張るまでに、思う存分ごうも、じゃなくて復讐して、制限時間になったので、仕掛けた爆薬に火を付けましたがなにか?」
「ええええ!!それだけ?」
「はい。それだけですが?まぁ、爆薬に火を付けた後は、直ぐに用意していた脱出口から逃げて、集まった人集りに混じって旦那様のこと詰ったり、野次ったりしてましたよ」
「は!?」
「だって、あの面倒くさい状況の中出ていくの億劫だったので。ということで、ズバッと色々分かったと思うので、今度こそ―――」
「待て待て!!もう一つ、結局お前は一体何だったんだ?俺は、お前のことただのメイドだと思っていたが、今回のことや、それ以前のことでも今思うとお前は手際が良すぎた。それに、易易と王宮に忍び込めるのも今思うと謎でしか無い……」
「あああぁ……。まっ、いっか。あたし、昔は裏の世界で仕事してたんだよね。色々あって足を洗ったんだけど、あの女に復讐するって色々しているうちに、また裏の世界に戻ったんだよね~。だから、闇討ち、暗殺、工作とか結構得意なんだよね~って、ことであたしの話は終わりね!!」
そう言って、今度こそミュルエナは、風のように去っていったのだった。
ミュルエナの去った謁見の間は、嵐の後の様に静まり返っていた。
しかし、その空気は呆れたような国王の言葉によって破られたのだった。
「カインよ。お前は、本当に運がいい。メイド殿はああ言っていたが、実際は現在裏社会を仕切っている女ボスだからな……。彼女が本気で復讐していたらこの国……、いや、大陸全土が焦土と化していたかもしれん……。お前が、彼女と手を組んでくれたお陰で、被害はお前の屋敷がほんの少し壊れる程度で済んだんだ…………。ああ、本当に運が良かったぞ。それに、彼女に隠し事など出来るはずもない。彼女の持つ諜報能力は、大陸一だからな……」
今更ながらに、とんでもないメイドを味方に付けていたことに頬を引きつらせたカインだった。




