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第七章 二度目の恋と最後の愛 1

 その後、屋敷の様子見に行った使用人が戻ってきたことで、無理やり混乱状態を収めたカインだった。

 使用人が声を掛けなければ、カインは本当に大切なものを失っていたかもしれない事を考えると、いいタイミングで戻ってきた使用人に感謝の念を送ったのだった。

 使用人の報告によると、地下室のあった区画以外はまったく被害がなかったということだった。

 しかし、地下室のあった区画は二階部分と一階部分が瓦礫と化していて、地下に至っては瓦礫に埋まって状況の確認すらできないとのことだった。

 ミュルエナの生存は絶望的に思われたが、カインはあの図太いメイドなら生きていそうだと確信していた。

 屋敷の殆どの部分は無事だったため、使用人たちには各々の部屋に戻るように指示を出した。

 そして、夜も遅い時間になっていたため、シーナ、シエテ、クリストフ、フェルエルタの四人は屋敷に泊めることにしたのだった。

 しかし、ここでも問題が起きた。

 あまりのショックに、シエテが未だにおかしくなったままだったのだ。

 気を失っていたシーナは、カインの腕に抱かれた状態で客間のベッドに移動させられていたが、シエテはクリストフに支えられてやっと歩いていると言った状態だった。

 最初は、乾いた笑いを浮かべていたが、現在は泣き出してしまっていた。

 

「シーたん、シーたんが、お嫁に行っちゃうよーー!!うわーーーーーん!!シーたん!!」


 シエテの扱いに困っていると、寝かせたはずのシーナが眠そうに目をこすりながらリビングに現れたのだ。

 そして、なんでも無いように泣きじゃくるシエテに近づき、優しく額にキスをしたのだ。

 そして、半分眠ったような声音で、「にーに、今日はもう寝よう?」と言った後に、シエテと手を繋いで与えられていた客間に戻っていったのだった。

 

 そんな双子の様子を呆気にとられた様な表情で、カインとクリストフは見送ったのだった。

 唯一、フェルエルタだけは通常運転だった。

 眠そうなシーナの姿を見て、「シーちゃんのおネムな顔、可愛い……」と言っていたのだった。

 こうして、リビングには微妙な空気だけが残されたのだった。

 しかし、フェルエルタは、先程までの「シーちゃんハァハァ」状態を感じさせないほどの真剣な表情でカインに言った。

 

「領主様……。シーちゃんのこと本気で妻にするの?もし、あの場限りの言葉だったら許さない」


 フェルエルタの問いにカインは、真剣な表情で言葉を返した。

 

「俺は本気だ。周りには口出しさせない。それに、明日……、というかもう今日だが、真実を公表する準備も整った。特区の技術者には感謝している」


「分かった。領主様の言葉を信じる……。シーちゃんを絶対悲しませたり泣かせたりしないで……」


「ああ。必ず彼女を幸せにする」


「うん」


 カインとフェルエルタの間にはいつしか、シーナを大切に思い合う同士のような、絆めいたものが出来上がっていた。

 

 話は纏まったと、カインとフェルエルタはそれぞれリビングを出ていった。

 その場に残されたクリストフは、絶叫したのだった

 

「ちょっと!!俺って可哀相すぎないか!?初恋の女の子が目の前でイチャイチャする姿を見せつけられて、それにショックを受けたシエテの面倒を見て……。俺の方がショックで面倒見てほしいくらいなんですけどーーーー!!!誰か、俺を慰めてくれる人急募ーーーー!!!」


 しかし、その虚しいだけの叫びは誰の耳にも届いてはいなかったのだった。

 

 

 

 翌日、カインは朝早くに屋敷を出て王宮に向かっていた。

 屋敷を出る前に、ひと目シーナの顔を見たかったが起こしてしまっては可哀相だと考え直して、結局寝顔は見ることなく屋敷を出たのだった。

 

 王宮に向かう途中で、技術特区により依頼していたものを受け取りそのまま王宮に向かったのだった。

 事前の約束もなくやって来たカインだったが、意外にもあっさりと謁見の許可が出たのだ。

 謁見の間には、国王と王妃が揃っていた。

 カインは驚きはしたものの顔には出さずに、簡潔に挨拶をした後に本題に入ろうとした。

 しかし、それは王妃によって遮られたのだった。

 

「あらあら、カインったら……。なんですかそのだらしのない顔は?ふふふ。何かいいことでもあったのかしらね?そうね、例えば、好きな子と両思いになったとかね」


 そう言って、ニヤニヤと歪む口元を隠すように手に持っていた扇を広げた。

 それに対して、カインが唖然としていると今度は国王がニヤニヤした表情を隠すこともせずに言ったのだ。

 

「おいおい、からかわずに祝福すると決めたじゃないか……ぶっふ!!ククク、いや~あの初恋を拗らせておかしな方向に行きそうだった息子が戻ってきたと思うと……、ぶっ!!」


「貴方、わっ、笑った……、だめよ、ぷっ!!」


 まさか、両親に笑われるとは思っていなかったカインは目を白黒させていた。

 しかし、いつまでも吹き出し続ける両親に流石のカインも我慢の限界だった。

 

「父上!!母上!!一体何なんですか!!人の顔を見て吹き出して!!まったくどういうつもりですか!!俺は、真剣な話をしにきたんですよ!!」


 カインがそう言うと、目尻に溜まった涙を拭っていた王妃は、悪びれもなく言った。

 

「だって、貴方のその目……。あの日から、死んだ魚みたいな目をしてたのに、今は元の……、いいえ、前以上に甘ったるい色になってるから可笑しくって」


 そう言われたカインは、何のことだか分からなかった。

 確かに、イシュタルの魅了に抵抗した時から瞳の色は澱んだような暗い色になっていたことは分かっていたカインだったが、王妃の言う甘ったるい色には心当たりがなかったのだ。

 しかし、国王も王妃に同意したのだ。

 

「ああ、好きで堪らないとその目が言っておるわ。で、お前の惚れたご令嬢はどんな子だ?儂が予想するに、大きな青い目の美少女に違いない!!」


「まぁ、わたくしも予想しますね。そうねぇ、背は小さくて華奢で守ってあげたくなるような、小動物系かしら?」


「儂が考えるに、栗色の髪から、例えるなら」


「「子リスちゃん」」


 声をハモらせた両親にカインは引きつった表情で冷静を装って問いかけた。

 

「ちっ、父上?母上も……。何故、予想と言いつつそんなに具体的なのか聞いても?」


 カインの、一オクターブ低い声音に、やりすぎたと悟った国王と王妃はお互いを肘で突き合い、揉め始めた。

 しかし、王妃にキツく睨まれた国王はゴクリとツバを飲んでから少し青ざめた顔でカインに言ったのだ。

 

「すまん。ちょっと、お前が心配で素行調査を……」


まさかの発言にカインは、冷静さを保つことは出来ずにツッコんだ。


「はっ?素行調査!?は?理解できないのですが……」


 カインは、理解できないと言いつつもある程度の予想はできていたが、蟀谷をピクピクさせながらも、敢えて答えを聞くことにした。

 すると、国王は目を泳がせながらもぼそっと種明かしをしたのだった。

 

「だって、初恋を拗らせたお前が心配で心配で……。最初は、本の少し様子を探る程度だったんだぞ……。だが、ここ数年ちょっとおもしろ、じゃなくて、お前が元気になってきたみたいでな。それで、だな。その……お前の協力者だというメイド殿から……」


 両親に心配をかけた事は重々承知していたが、まさかの返答にカインはここが謁見の間だということも完全に忘れて絶叫したのだった。

 

「あ……の…………。クソメイド!!!」 

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