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終章

 人を好きになるとは、どういうことなのだろうとシーナは考えていた。

 両親が好き、双子の兄が好き。

 友達が好き。

 

 好きに種類があることは知っていた。

 だが、シーナにはその違いが分からなかった。

 

 クリストフから好きだと言われたが、それが自分が彼に対して感じている友達としての好きと何が違うのか考えた。

 

 しかし、シーナには分からなかった。

 彼の言ってた「自分のことなのに、自分で制御出来ない気持ち」ということがシーナには理解できなかった。

 いや、儘ならない気持ちは理解できる。

 しかし、それと好きがどう繋がるのかが分からなかった。

 

 シーナの中での恋愛は、イシュミールが感じていたものが全てだった。

 

 ふわふわしていて、楽しくて、愛おしくて。

 会えると嬉しい。

 会えない期間が長いと寂しい。

 声が聞きたい。

 笑顔が見たい。

 

 

 そんな、イシュミールの抱いていた優しい気持ちが好きという感情なのだとシーナは思っていた。

 イシュミールがそう思う相手は、婚約者のカインだけだった。

 

 双子の妹で、最後には裏切られてしまったが、そんなイシュタルのことも大切に思っていたが、明確にカインに寄せる思いとは違っていた。

 

 だから、恋とは温かくて優しくて、甘くて少しだけ寂しくて。

 いつも側にいたいと思う人。触れて、その温もりを感じたいと思う人。

 その思いをたった一人の大切な人に向ける暖かな陽だまりのような気持ち。

 それが恋なのだと。

 

 

 シエテにも両親にも友達にも。

 みんなに対して温かい気持ちを抱いていた。

 

 だが、たった一人だけ。温かい気持ちだけではなく、時折別の感情が湧き起こる人が、たった一人だけいた。

 

 それは、領主のカインだった。

 初めて会ったときは、汚いおっさんだと思った。

 次に会ったときは、無職のダメ人間だと思った。

 でも、あの濁ったような暗い金色の瞳を見ると、何故か叫び出したい気持ちになった。

 王都から帰ってきたときの窶れて、目の下に隈を作った顔を見ると悲しくなった。

 時折だったが名前を呼ばれると、無性に逃げたくなる時があった。

 

 イシュミールに気が付かずにいた、ひどい人だから気になるのだと思っていた。

 だが、シーナは見てしまった。

 カインの涙を。

 聞いてしまった。

 許しを請うような苦しげな声を。

 懺悔するかのような愛の言葉を。

 

 

 シーナは自分の気持が分からなかった。

 カインに対するこの思いが何なのかと、自分に問いかけたが答えは返っては来なかった。

 そして、シーナは決めた。

 

 

 こんな、訳の分からない気持ちなんて持っていても仕方がないと。

 だから、全てをなかったことにした。

 あの日、シーナは何も見なかったし、聞かなかったと。

 

 あの日あった出来事を心の奥底に封印し、何もなかったように過ごすことでシーナは自らの心と、イシュミールの気持ちを守ることに決めたのだ。

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