第三章 ちょっと待て、どこがゴリラだ!ゴリラ成分ZEROだろうが!! 3
黒髪の少年は、シエテに黙らされた後落ち着きを取り戻したようで、二人を店の中に案内した。
シエテは、用は済んだと帰ろうとしていたが、シーナから「帰っちゃうの?」と言った残念そうな視線を感じたため、渋々店の中に入っていった。
店の中は、シーナにとって珍しいもので溢れていた。
見たことのないような道具たちに、何かの素材たち。光る石に輝く液体。
瞳を輝かせて店の中の商品を見つめるシーナを見たシエテは、帰らなくてよかったと心底思っていた。
そこへ、少年がお茶とお菓子を勧めてきた。
「小りすちゃん。品物はゆっくり見ていいから、とりあえずお菓子でも食べてお話でもしようよ」
そう言われたシーナは、少し名残惜しくはあったが勧められるままにお菓子とお茶の用意されているテーブルの椅子に座った。
少年は、大人しく座ったシーナをニコニコしながら見つめていた。
用意されていたお茶からはとても甘い匂いがした。シーナは、カップを両手で持って湯気を立てるお茶にふーっと、息をかけて冷ましながら一口飲んだ。
その瞬間口の中に広がる、爽やかな甘さに驚きつつも、その美味しさからコクコクと続けて飲んだ。
心ゆくまで堪能したシーナは、カップから口を離してから、唇の端に残っていた甘さを舌でぺろりと舐めてから、ほっと息をついた。
「美味しい……」
「そっか、良かったよ。姉ちゃんが趣味でブレンドしてるお茶なんだよ。お菓子も食べてね」
「ありがとう」
お礼を言いつつ、ニコリと微笑むシーナにデレッとした表情を黒髪の少年がした途端、シエテが少年の足をテーブルの下で蹴りつけた。
痛がる黒髪の少年を無視してシエテはシーナに少年のことを改めて説明した。
「シーたん。こいつは、クリフだ。俺たちと同い年だから、タメ口でいいからな」
「クリフ?同い年なんだね」
同い年だと知ったシーナは、黒髪の少年をじっと見つめた。
黒髪の少年は大きな青い瞳にじっと見つめられて、慌てたように言った。
「おっ、俺!クリストフ・レイゼイだ!よ、よろしくな!」
「クリストフ?分かった。よろしくね。私は、シーナだよ」
「シーナちゃんだな!!シエテとはどんな関係なの?幼馴染とか?」
「違うよ?私とにーには双子の兄妹だよ」
クリストフは、シーナからシエテとは双子だと聞いた瞬間、目を見開いた。そして、それまで大人しくお茶を飲んでいたシエテに視線を向けて大声で言った。
「おっ、お前!!妹は、ゴリラじゃなかったのかよ!!」
「はっ?」
「えっ、だって……。前に、妹の話をしていたときに、俺がシエテに妹もお前に似てるのかって聞いたらそうだって!だから俺、妹もお前みたいに年の割に筋肉のあるゴリラ女だとばっかり……」
「そんなこと一言も言っていない。俺は、お前から妹と似ているかと聞かれたから、(栗色の髪の色は)似ているとしか言っていない」
「だって、妹は剣も弓も体術もできるって……。だから、てっきりムキムキのゴリゴリマッチョゴリラ女だと……」
「俺は、妹は(小柄で華奢な体つきだが)剣も弓も、体術もできるとしか言っていない」
「そっ、そんな……。お前の妹がこんなに可愛いって知っていたらもっと早くお知り合いになりたかったのに!!!」
打ちひしがれるクリストフを、冷めた目で見ていたシエテは心のなかで(誰がお前のような男に、可愛いシーたんを紹介するものか。今回は、俺が口を滑らせたせいで仕方なくだ……)と、心の狭いことを考えていた。
そこに、シーナの可愛らし声が割って入った。
「ねぇ?にーには、私のことゴリラ女って思わせるように、あえてクリストフに誤解を与えるように話していたってことかな?そうなのかな?それとも、にーにには、私が筋肉盛り盛りでゴリゴリマッチョな脳筋ゴリラ女に見えているのかな?返答次第では、にーにとの接し方が変わるかもしれないね?」
シーナのそんな言葉を聞かされたシエテは、いつかのように速攻で床に這いつくばり低姿勢で謝罪した。
「シーたん!!ごめんなさい。敢えて誤解させるように言いました!!だって、可愛いシーたんのことを知られると、クリフに興味を持たれると思ったから!!だから、敢えて誤解させました。シーたんのことは、可愛くて可愛くて、そのちっちゃい所とか、おっきなお目々とか、柔らかい髪とか、甘い匂いとか、すべすべな所とか、全部全部大好きで大好きです!!世界一可愛いよシーたん!!!」
シエテの謝罪に、シーナはとても恥ずかしくなり真赤になってしまった顔を隠すために俯いた。
クリストフは、いつもは冷静で少し冷たいところもあるシエテがここまでシスコンを拗らせていることに驚愕して声を出せずにいた。
傍から見ると、ものすごい構図になっていた。
可愛い美少女の足元に這いつくばり許しを請う、残念なイケメンというものすごい構図ができあがっていた。
そして、運悪くクリストフの姉が店に顔を出したのだ。
この異様な光景を目の当たりにしたクリストフの姉は、努めて冷静な声音で言ったのだ。
「お茶が冷めてるから、淹れ直してあげるよ」




