【IF】クリストフルート 4
それは、本当に偶然だった。シエテのやつが、珍しく店に忘れ物をしていったのだ。
次に合う時に渡してもいいと思ったが、なんとなく届けてやろうと思ったのだ。
急いで追いかけると、数軒先にあるカフェに入っていくところが見えた。
俺はシエテを追いかけるようにして、カフェに入った。
店内を見回すと、一番奥の席にシエテが案内されて座るのが見えた。
店員の女性に、知り合いがいると言って案内を断ってから、シエテのいる席に向かって歩き出した。
誰かと待ち合わせなのか、シエテは一人でソワソワしながら窓の外を見ていたので、俺の接近にはまったく気が付いていなかった。
俺は、シエテの忘れていったハンカチを届けるだけなので、さっさと渡して店を出ようとしたのだ。
俺の存在に気がついていないシエテに声を掛けて、ハンカチをテーブルに置いた。
「ほら、忘れてたぞ」
シエテは、テーブルに置かれたハンカチと俺を見比べるかのように視線を行き来させてから、焦った様子で珍しく礼を言った。
「おっ……、あー、その、悪いな……。今度、礼をするよ」
「別に、気が向いただけだ」
「そうか……」
そう言いつつも、シエテのやつの視線は窓の外を向いていた。どうも、シエテは俺に早くこの場を去って欲しそうだったのだ。
そこで、俺はピンときてしまった。
「待ち合わせ……」
「!!」
シエテを試すように、小声で言ってみると奴は、分かりやすいくらい動揺したのが見えた。
そんなシエテを見た俺は、ニヤリとした表情をしていたと思う。
「そっか、そっか。お礼は、ここでのお茶を奢ってもらうってことでいいぞ」
俺が、突然そんなことを言い出したのでシエテのやつは血相を変えていた。
「はっ?駄目だ!お礼は今度必ずするから、今は帰れ!!」
「いいからいいから」
「駄目だ!!本当に!!頼むから早くこの場を去れ!!ここに居たら危険なんだ!!」
シエテの見たこともないような焦り具合に俺は、ますます何かがあると感じた。
しかし、ここまでシエテが焦るのも珍しいな?
そんなに、待ち合わせの相手と俺を鉢合わせさせたくないってことか?
となると、相手は十中八九シエテの溺愛するゴリラ女子の妹ちゃんってことだろうな。
ふむ、ここはなんとしてでも居残って妹ちゃんとの対面を果たそう。
俺がそんなことを考えていると、業を煮やしたシエテが立ち上がって俺の背を押し始めた。
「本当に、今は無理なんだ。頼むから、帰ってくれ」
グイグイと俺の背を押して頼み込むシエテの様子が、本当に鬼気迫る感じでここに居残ることに少し罪悪感が芽生え始めた。
だからなのか、俺は……。
▷a俄然居残りたくなった。
▷bシエテに悪いと思ってすぐに店を出た。