【プロローグ】 鉄砲玉、死す?
拙い文章でしょうが、楽しんでいただけると幸いです。
禁酒法時代アメリカ、ある裏路地にて
「クソッタレがアアアアアァァァ!!!!」
クシャッとした真っ黒い髪の青年は、美しい蒼い目を醜く歪ませ、絶叫していた。警察、敵組織、または恨みを買ってきた雑魚連中、とにかく、彼の存在を良しとしないもの全てがそこにいた。正面、背後、建物の屋上に窓、あらゆる場所から彼に銃口を向ける。状況は絶望的、既に出血多量、常人なら息絶えるところ、
「くたばりやがれ、クソ共オオオオ!!!」
なんたるしぶとさ見苦しさ!彼は未だ生きることを諦めていない。発狂しながら手元のサブマシンガンを乱射する。下手な鉄砲かずうちゃ当たるとはよく言ったもの、激痛に喘ぐ声が10かそこらあがる。しかしただそれだけ。敵の数は適当に撃って命中するほどなのだ。
「てめえもここまでだなあ?アンドレぇ」
いかにも卑しそうな、気持ちの悪い声。それはアンドレにとって、もっとも許し難い存在のものだ。
「うるせえ!裏切り者がア!口を聞くなボケェ!」
ボロボロになった衣服に乱れた髪、吹き出た血が月光にぬらりと光る。それが吠える様はまさに手負いの獣。その惨烈たるや、取り囲んだ、言わば圧倒的に優勢な者たちがおののき、ひるむ程である。
「ケッ、弾切れかよ」
武器を二連式ショットガンに持ち替え、先程声のした方へ適当に撃ち込んだ。
「ぐうぅ!」
「どうしたよ!あァ!?出てこいよ臆病者!ケツの穴のちいせえ奴だ!1つこさえて____」
1発の銃声。裏切り者、臆病者と罵られたものが撃った。それはやけくそ気味に放たれたもので、命中することはなかったが、それが引き金となり轟音が響いた。ピストル、ライフル、ショットガンにマシンガン、あらゆる銃声が重なったそれは破壊の音と共に街を駆け抜ける。アンドレの体はバラバラに______
「ドン、すまねえ…」
(ああ、恩返しも出来なかったな)
_______ならなかった。それどころか、全ての傷が消えていたのである。不思議はそれに留まらず、
(……………どこだ?)
彼は見知らぬ場所にいた。なんだか夢のような…浮動感を覚える場所である。
「やあ、アンドレくん」
振り返るとそこには初老の、顔の整った男性が鎮座している。
「誰だ」
「いやあ、愉快だったよ」
男性はアンドレの顔を見ると、失礼にも笑いだした。
「あァ?」
「裏切り者を町中追い回す。それも乱射しながら!そんなことをすればみんな集まってくるだろうに!前から君をよく見ていたけど、ははっ、やはり面白い!」
「誰だっつってんだろうがァ!」
アンドレは激昂した。無視されたこと、自分の「忠義」を嘲されたことに。
「傷つくなあ、毎週あってるじゃないか、教会で。意外かもしれないけど、ちゃんと見てるんだよ?」
______毎週、教会で?神父か?いやまさか…………
「神様、なのか?」
「ああ、やっと気づいてくれた、そうそう、君たちが神と呼ぶものだよ」
開いた口が塞がらない。自分のようなアウトローが神の奇跡など、体験できるとは思えなかった、いや今でも思っていないのだ。
「君は割かし敬虔で…………いや、単に面白くてずっと見たいたいんだよ。だから君を、変えられ消えてしまう前に別の世界に送らせてもらうね。今の君の世界よりも神秘の力が満ちているところだから、もしかしたらなんやかんやまたこの世界に来れるかもしれない。ただ、管理者が変わる。私はただ見ることしか出来ないから、加護なんかは期待しないでね」
「何を勝手に_」
「それじゃあ、行ってらっしゃい」
そこでアンドレの視界は暗転した。
目を開けると、そこはだだっ広い草原。車も、喧騒も、ジャンキー共もいない、草原。かつていた場所では到底ありえない風景。アンドレは、本当に来てしまったのである。
「異世界……」
鳥も、花も、彼の知っているものとよく似ているが、
「な~んか、変だな」
細かい色合いだろうか。どこか違和感を覚える。
美しい風景をよそに、アンドレは泥のように横たわる。
(この世界には、ドンがいない)
ドンはアンドレにとって最も大切な人であり、彼に仕え彼の為に働くことこそが全てだった。それがなくなった今、彼は抜け殻だった。
しばし、放心していると
「旅の方ですかな?」
前時代的な馬車に乗った、行商人風の男が話しかけてきた。100年か200年かは知らないが、どうやらもといた場所よりも遥か前の時代のようだ。
「いや、別にそういう訳じゃ……」
「でしょうねぇ、明らかに荷がありませんし。ルラシオンの方ですかな?私もこれから向かうのですが、どうでしょう、旅は道連れと言いますし、短い間ですが乗ってきます?」
どうやらそのルラシオンとかいう場所に連れていってくれるようだ。
アンドレは立ち上がり、
「ああ、よろしく頼むよ」
好意を受け取ることにした。
それからしばらくして、アンドレは顔には似合うが人格的に到底浮かべえない、愛想笑いをしていた。というのも
「それにしてもお客さんの服、ボロボロですねえ。野党に襲われましたかな?それとも虫食いにでもあいましたか!なーんて」
といった調子で、お客さんなどとよばれ、つまらない(理解できない)冗談を聞かされていたのだ。道をすれ違うのは巡回と思わしきもののみで、会話に飢えているのを察せられたし、なにより好意を受けた相手を黙らせるなど、以ての外である。碌でなしなりに、気を使っているのだ。それに、そのマシンガントークに救われているのもまた事実。故に、愛想笑い。
ふと、懐のナイフに触れる。ドンのこと、ファミリーの皆のことを思い出す。
(あいてえなあ……ん?)
神の言葉を思い出す。この世界には神秘が満ち、なんやかんや帰れるかもしれない。
その時、アンドレの体に生気が宿った。
(帰れるかもしれねえ!だったら、やるしかねえよなあ!)
ギラギラした目に邪悪な笑み。それが戻る瞬間、偶然にも行商人は彼の方を横目に見ていた。
「なるほど、それがあなたの本性というわけですな。その服は襲われたのではなく、闘争の痕跡だったと。さて、この馬車をどうするつもりですかな?」
「ハッ!余裕しゃくしゃくだな。襲われない自信でもあるのか?それとも負けない自信か?まあそれはいい。別に乗っ取ろうなんざ考えてやしねえよ」
アンドレは遠い目をして
「どうせなら、派手にやるさ」
と付け加えた。
「ええそうでしょうとも。私が感じる限りあなたは大物の器。……期待していますよ?」
そんな戯言を聞き流しながら強く思った。
(俺は絶対にファミリーのもとへ帰る!)
これが、彼の戦いの始まりである。
短いですが、プロローグということで一度切らせて頂きます。すぐに次を投稿します。