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林道《りんどう》充《みちる》

船の先から顔を出しながらある島を眺めながら呟く少年がいた。

「今日からあそこが俺の住む街か」

少年はキラキラした目で先程から島を眺めている。するとそこに髭を生やしたお爺さんがこちらに近づき話しかけてくる。

「おいおい坊主、そんなに顔を前に出したら海に落っこちてしまうぞ」

その声に気づいた少年は顔を引っ込めじいさんの方へ振り向き話しかける。

「あ、どうもすいません。あまりにも楽しみにしてたもんで、つい」

「楽しみにって、それは別に悪いことではないが落っこちる見にもなってみろ。いっとくが俺は助けたりなんかしないぞ。面倒事はごめんだ」

「そうですかっと、うおおおおおお、でっけーーー!」

そういうと少年はまたしても顔を前に付き出す。そんな少年にじいさんはため息を吐いた後自分がいた方へ戻ろうとする。最後に少年の方へ振り向き。

「じゃあな、俺は戻るがくれぐれも危ないって、おおおおおおおお!」

今まさにじいさんの目の前で海に落ちそうになっている少年の姿があった。直ぐ様じいさんは少年への方へ駆けつけて必死になりながら救出する。

「はあはあ、いやー、有り難うございます。お掛けで無事に助かりました」

少年はペコペコと頭を下げて先程助けてくれたじいさんにお礼を言う。

「ぜえぜえ、全く言った側から何をやっているんだお前さんは。はあ、心臓が止まるかと思ったわい」

「本当にすみません反省しています。それにしてもじいさん先程は助けないといってませんでしたっけ?」

「ふん、体が勝手に動いただけだわい。それにやすやすと見て見ぬふりをしていると娘に悲しまれるからな」

そういってじいさんはそっぽを向く。そんなじいさんに少年は本当は優しい心の持ち主だと思った。それにしても先程の娘がいることに興味を示す。

「じいさんに娘さんがいるのですか」

その言葉にじいさんは睨み付けて聞き返してくる。

「何だ、俺に娘がいることにそんなにも不思議か?」

「いえ、ただどんな娘か興味がありまして」

それを聞いてさらに顔を険しくなるじいさんにたじろぐ少年。

「まさか貴様はうちの娘に手を出そうとしているんではないだろうな」

ずいずいとじいさんの顔が少年の顔の方に近づいてくる。少年はあわてて言葉を発する。

「いやいや、手を出そうなんて滅相もないです」

「ああん、貴様は俺の娘が可愛く無いとでも言いたいのか!」

急に怒鳴り出したじいさんは少年の首辺りの服を掴み前に押し出しながら揺らす。そのせいで少年の体は海に付き出す形になってしまう。

「ちょ!じいさん!落ちる、落ちるってば!」

「ふんがーーー!」

全く聞こえてないのか興奮した状態で体がだんだんこちらに押し寄せてくる。このままだとじいさんまで海に落っこちてしまう。

「じいさん!いいんですか!このままだと娘が悲しまれてしまいますよ!」

娘の言葉に反応したのかピタリと体を揺らすのを止め少年の体を船の中へと引き出す。

「‥‥‥すまねえ、つい興奮しちまって」

「い、いえ、それほどまでに娘さんを大事にしているんですね」

「あたりまえだわい、母がいなくなってからは残されたのはただ一人、唯一の娘だけだからな」

「‥‥‥そうですか」

二人はお互いしんみりとしている。少年はじいさんの話を聞いて何か思うところがあるのだろう。つい悲しい顔をする少年だった。

「たく、戻るつもりが気づいたらお前とつい、話をしてしまったわい」

ぶっきらぼうに言うがどことなく表情は柔らかい。そんなじいさんに思わず笑ってしまいそれを見たじいさんが鋭い目で睨み付ける。これ以上笑ってしまうとまたじいさんが暴れそうなので止める事にした。

「それにしても坊主、この時期にあの島に行ってどうするんだ」

じいさんは目の視線をこれから行く島へと向け聞いてくる。

「坊主じゃありません俺には林道りんどうみちるという名前があります。あの島には色々事情があり住む事になったんです。実は父もあそこにいるんです」

「何だ父がそこに住んでるなら坊主は前は何処に住んでいたんだ」

「特に何も無い田舎の町ですよ。そこで母と二人で住んでいました」

少年はいつも以上にしんみりとしながら答える。

「‥‥‥そうか、では久しぶりに父と会うのか。母は心配してなかったのか?」

「‥‥‥大丈夫ですよ、ちゃんと許可は出ています」

こうしてあれこれ話している内に船は島へと到着する。

「俺はこちらの方だからこれでお別れだ」

じいさんはそう言うと充と別の道への方向へ向く。

「あ、はいこちらこそ色々とお世話になりました原水げんすいさん」

原水げんすい銀三郎ぎんざぶろうそれがじいさんの名前だ。

「ああ、そう言えば坊主はこれからこの街の学校に通る事になるんだな?」

「はい、急遽きゅうきょで通る事になったんですが。ちなみに前は中学三年生でした。三月が終わり四月に入れば学園設立高校で一年になります。通るのはもう少し後になりますが」

「ほう、なら俺の娘にも会うことになるかも知れないな。もうじき中学から卒業して高校になるからな」

「え、原水さんの娘さんも学園設立学校に通っているのですか?」

それを聞いて楽しみが増えた。一体どんな子なんだろうと思っていると原水が睨み付けながら言う。

「いっとくが少しでも娘に手を出してみろ、只じゃあ置かないぞ。分かったな」

「はい、気を付けます!」

充はビシ!っと背筋を伸ばし返事をする。

「なら良い、じゃあな坊主。道先に気をつけて行けよ」

それだけ言うと原水が去っていく。充は原水が見えなくなるまで手を振った後、これから行く先へと歩き進むのだった。

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