クリラプ1話
ー1話
JR名古屋駅の新幹線を降りると、乗換改札と通常改札が有る。
コウタは通常改札を通って、太閤通り口の雑踏の中に出た。
改札の右に行って、エスカレーターで地下街に降りる。
ジングルベルが流れている。
学生から20代30代はおろか、熟年、じいさんばあさんカップルまで、行きかっっている。
仮装大会のようだ。
降りると、さらに右に行く。
しばらく行くとT路になっていて、そこにハンチングを被ったコートの男が立っていた。
足下にブラックボードがイーゼルに立っている。
「クリスマスイブに予定のない近藤ファン小林ファンの集い」
コウタに気づいた男は言った。
「近藤ファンか小林ファンの方ですか?」
けっこうなオッサンだった。
「そうです。近藤ファンです」
「クリスマスイブの予定はないですね?」
「はい」
「参加資格を満たしてますので、他の方をお待ち下さい」
時間は集合時間にまだ1時間有る17時ジャストだった。
「どちらから?」
「大坂からです。コウタって言います」
「ようこそ!岐阜のタケガミです」
毛深い右手が出てきた。
握手する。
「どれくらい来るんですかね?」
「参加表明無しなので、今のところ一人です。予想外でした」
「予想外…?」
「誰も来ないと思ってました」
コウタは嫌な顔をした。
「なんで。そんな。イベントやるんですか?」
「そんな。クリスマスイブに予定が無い人なんか居ない方が良い。誰も来なくて良かった~って近藤さんと小林くんに報告しようと思ってましたが……残念です」
タケガミは残念そうな顔をして見せた。
「そんな。僕は楽しみにして来たのに。ひどいな」
タケガミは笑った。
「近藤さんも小林さんも喜んでくれますよ!クリボッチキターって」
「そう言うタケガミさんもクリボッチじゃないですか?」
「そうだ。君は仲間だ。もう一回握手しよう」
手を引っ込める前に、手をつかまれた。
「もし、あと誰も来なかったらどうするんですか?」
「君と僕で相談する。君との共通点は、近藤ファンで有る事だ。君の帰る時間まで、近藤春菜を熱く語ろう!」
「ここで?」
「18時59分までは、ここに居なければならない。過ぎたら!」
変な所で話を切る人だ。
「過ぎたら?」
「どこに行くにも自由だ。時間内ならね」
「近藤さんの話なら、付き合いますよ」
「良いね!握手しよう!」
逃げようとしたが、不思議に捕まってしまった。
「コウタくんは握手が好きだね!」
「タケガミさんがやってるんです」
「逃げないじゃないか?恥ずかしがり屋だな」
また、握手させられた。
まぁ良い。
ユリ子がマサキとデートしてる夜だ。このオッサンと絡んでれば、くよくよ考えずに済む。