第7話
それからしばらく、夕方頃に着いたファスゴト・・・。
一番近くの街にと思ってたら州都だった。
流石に州都なだけあって、街を囲む壁の高さも奥行きも、街自体の広さもそこそこある。
街が大きくなる度に街を壁で囲みなおして、新しい壁が出来ると古い壁を壊して家屋や道になり・・・ほぼ環状になった大きな市場が2つあった。
ギルドに行くのは翌日にしてぶらりとそんな街ファスゴトを散策し、ポケットの中でコッソリ作った1エル金貨で夕食を摂り宿に泊まる事にして、ケイナ達とは宿の前で別れた次の朝・・・
何気に異世界初のまともな居住スペースだった。
しかし朝とはいっても3つの太陽のお陰でこの世界に夜らしい夜はないので(白夜が年中みたいな感じ)変な感覚だが・・・。
「ふぁぁぁ・・・さてと・・・」
その内慣れるだろうと思いつつ漸く人心地がついて、これからの事を考えようとするが逆にこの数日をふり返ってしまった。
「ふぅ・・・」
ここ数日のとてつもなく波乱万丈すぎる事態に一区切りつき、一人タメ息なんぞついて・・・
「よいしょっと・・・」
何故かとてつもなく久しぶり感の漂うベッドを惜しみつつ着替えて部屋を出る。
昨日散歩したとはいっても手頃そうな宿だったココとギルドまでの道、その周辺だけ。
さてどうするかなぁと思いながら宿の1階にある朝昼は定食屋、夜は居酒屋なその名も[宿の1階]に入る。
私的にはこの名前を付けた人に何かしらしてあげたいと思うほど名前と店がピッタリだった。
宿の名前も一緒なので主人に聞いたら元はこの店だけをやってて、上の宿は別の人がやってたのを宿が廃業した時に買い取ったらしい。
宿の方は娘夫婦に任せているそうで。
既に店は開いていて宿の主人が朝メニューを客に給仕している。
「お、おはようさん。飯食べていくかい?」
私がこの宿を選んだ理由は手頃な価格と家族経営による親しみやすさ、それにここら辺では珍しい朝食込みの宿泊プランだった事。
「ん、運んでくれ」
「あいよ、おーい朝定一丁っ!」
「まいどーっ」
主人の奥さん・・・女将さんが奥のキッチンで作っているようだ。
15席しかない店内の空いた席に座って朝食を待つ。
今は8時でこの世界風に言うと鐘1つ時、朝の8時から4時間事に1日6回鐘が鳴る。
「へい、朝定おまちっ」
ボーっとしてる内に出来上がったようで目の前のテーブルにサラダ、ベーコンエッグらしきもの、ちょっと固そうだけど大きさはちょうどいいパンが2つにコーヒーっぽい湯気の出てる飲み物が載った盆が載せられる。
「ん、旨そうだ・・・」
「ぉう、旨いぞ。コーヒーはおかわり自由だからあそこで好きなだけ淹れてくれ」
「おまえさーん、朝定2つあがったよー」
「おう!じゃあな、何かあったら呼んでくれ」
やっぱり朝時、忙しいらしくさらっと会話して他の客の料理を取りに行ってしまった。
「ん、確かに旨い・・・」
一人食べながら店内を見ていると、どうやらテイクアウトもしているようで他の客や外から来た人が何か包みを持って出て行くのを何人か見た。
「ふぅ、ごちそうさん」
私にはちょうどいい量の朝食を食べ終わって、そのまま食後のコーヒーと洒落込んでいたらフト気付いた。
「ぁ、コーヒーは一緒なんだ・・・」
そのまま暫く・・・店には悪いのを承知で居座って主人が空くのを待った。
「主人、ちょっといいかな?」
「あいよ、何か用かい?」
まぁ、やはりというかこの世界の朝は早いようで、私は最後の方だったので主人が空いたのはコーヒーを1杯おかわりして飲み干した頃だったが。
「ん、ギルドに行きたいんだけどまだ開くまで時間あるだろ?だから暇潰せる所はないかなって」
「あん?おまえさんギルドに何の用があって?あぁ、依頼しに行くのか?」
旅の服装はしてるが荷物がないので近くの村から依頼しに来た人と思われてるようだ。
「・・・あぁ、登録しに行くんだ」
「登録!?お客さんこう言っちゃなんだがそんな風には見えねぇなぁ・・・武器も持ってないみたいだし・・・」
そう言って不躾にならない程度に私の事を上から下まで見る主人。
言われてこの世界の常識、武器も持たずに旅をするのは自殺行為を思い出した。
「そうだな、武器屋の場所を聞こうか」
「・・・武器屋ならこの通りを城の方へ行けば通り沿いにあるけど・・・あんた大丈夫かい?」
「あぁ、法定登録しに行くぐらいだからそこそこやれるだろう?」
予想通りというか・・・この世界の人から見ると荒事の全く出来なさそうな外見で心配された。
「っ!!!ホントかい!?そんな風には見えねぇけどなぁ・・・おっと、失礼」
「言われ慣れてるからイイよ・・・そのお陰でココまで来れたし、この外見で得をする事もあるからね」
苦笑しつつそう返し、主人が納得するのを待つ。
「なるほど、しかしまぁ・・・姫さんといいお前さんといい似合わねえ人が法定登録とはねぇ・・・」
ちょっと待て!
何故そこでケイナの事が出てくるっ!
「・・・姫さんって・・・?」
「あぁ、知らねぇのか?我らが第2王女ケイナ姫様はウチの常連なんだ。昨日もココに泊まっていったんだがなぁ・・・見なかったのかい?」
・・・・・・、常連かよっ!!
しかも昨日も泊まっていった!!?
「・・・マジ?」
「おう、マジよっ。姫さんわざわざココまで来て登録していったんだぜ?なんでも王都でやると色々煩いとかで・・・そん時にウチに泊まって、それ以来の常連さんだ」
主人にとってそれはとても誇らしい事なのだろう、微かに頬が色づいている。
「おまえさーん、いつまでも油売ってないで片付け手伝ってよっ」
「おっといけねぇ、じゃぁおまえさんも頑張ってな」
手をヒラヒラさせて主人を見送り私も席を立つ。
ケイナがココの常連だったのは意外を通り越して驚きだったがそこまでの事。
主人と女将さんに挨拶をして宿を出て、さっき聞いた武器屋を目指す。
言われた武器屋はすぐに分かった。
なんせ店先に高さ3m程の剣のモニュメントがあったから。
店の脇から奥へと続く小道があって、奥からはトンカンと槌の音が響いてる事からして工房で作られた物を売っているのだろう・・・。
入ってみて驚く。
まだ開店間もないようで他の客は居なかったが、入ってすぐのところに一振りの日本刀が立てかけてあったからだ。
でも見た目はそこまで日本刀してなくて、少し細身な上に鞘にもグリップのような物が巻かれ柄と鞘がくっつきそうな機構もあった。
でもそれは店内を見渡す限り他に刀と呼ばれる物はなくて片手剣や両手剣、槍やメイスなどだったので店内でポツンと浮き異質すぎる代物だった。
「ぅぉ!?」
値札を見たらもう一度驚いた。
[この剣を持ち上げて鞘から抜けた方に差し上げます]だし。
「らっしゃい、あんたも試してみるかい?」
店の主人が声をかけてきたが私はそれどころじゃない・・・。
文字が書いてある値札の下の方に[使え!]と私の世界の言語で書いてあったから。
「主人・・・いや、おやっさんだな。この刀と値札おやっさんが?」
「あん?あぁ違うぜ・・・これと値札は置かせてくれと頼んできた変な旅の人が置いてったんだ」
怪し過ぎる・・・
「その客は、変な人でなぁ・・・店に来て剣を見てるのかと思ったら他の客が居なくなった途端に話しかけてきてな、10エルやるからコレを置いてくれっていきなり頼んできやがったわけよ」
「・・・因みにいつ頃の話?」
「ん〜10日ぐらい前だったかなぁ?」
あははははは・・・あの野郎だ。
その後も疑われない程度に人相やら聞いてみるとあの野郎以外ありえないって程だった。
「これな、武器だって事は聞いたんだが・・・俺にゃぁ分かんねぇんだけどなんか惹かれてな」
流石工房の親方、職人気質な風貌通り良し悪しを見る目を持っているのだろう・・・
「んじゃ、試してみますか」
持てて抜けると分かってて、でもそれじゃぁ面白くないって事で知らない振りを決め込む。
ィン
すんなりと持てた事にまず驚いた振りをして、おやっさんは目をまん丸にしてるけど・・・
抜いてみると、あぁ・・・いい刀だった。
そうとしか言えないほど、いい刀だった・・・音も良いし。
そして使い方も頭に入ってくる。
「おぉぉお!!抜きやがった・・・」
「ん、抜けちゃった、ねぇ・・・まさかのビックリ・・・」
知らない振り知らない振り・・・
「抜けたんなら、それはお前さんのもんだからな好きに使うといい」
やっぱり職人なのか、変に金よこせとかそういった事は一切なくすんなりと所有権を渡してくる。
それに甘えるべきなのだろうが・・・ちょっと、あの野郎の差し金だって事が気に入らない。
「いいのかなぁ・・・こんないい刀・・・」
「ぁ〜ちょっと見させてもらってもいいか?いやね、気にはなってたんだ」
すんなり渡してくれたおやっさんもこの刀には興味津々だったようで、見せてくれと手を差し出してくるが・・・それは出来ない。
「おやっさん、私が持ってるからその間見てくれ・・・手渡した途端肩外されちゃ困るんだろ?」
この刀は使う人を選ぶ、・・・つまり私しか使えない。
刀も鞘も、私が触れていなければ1mmも動かせない・・・
そして鞘にもグリップが巻かれていて、刀の柄に付けて回すと固定されて長巻になる。
長巻とは太刀の派生形で柄の部分がとても長く薙刀と少し似ている武器だ。
柄がとても長いだけで、使い方は普通の刀と一緒・・・ただリーチが伸びるだけだ。
だけど予想通りというか・・・力を込めれば込める程切れ味が上がる所に異世界ぶりが発揮されている。
「ほぅ・・・えらく斬れそうだが、こんな細くちゃすぐに折れちまうな・・・」
「いや、この刀は私の故国の古代武器でな、馬鹿な使い方をしない限りそうそう折れないしなやかさを持っている、肉や骨を斬る事に特化された武器だし・・・達人が使えば剣も斬れる」
「ほぉぉ、おまえさんの国の武器かぁ・・・それに剣も斬れるってそりゃいくらなんでも・・・」
「達人が使えば、だ」
興味深そうに色んな角度から刀を見てたおやっさんだが満足したのか鞘に戻していいと言ってきたので戻し、腰に佩く。
「お、まいどっ」
他の客が来た事も一因だったのだろう。
「スローインダガーが欲しいのだが・・・」
「あいよ、それだったらこっちの棚だ」
おやっさんは今来た客の接客に行ったし、私もここに留まる理由がないのでおやっさんが気付くように手を振って店を出る。
おやっさんはまだ技術的未練があったようだが、ギルドもそろそろ開く時間だ・・・お暇させていただこう・・・