第6話
「もう一度言う、武器を下ろせ・・・不快だ」
「クフト、控えなさい」
「ハッ・・・」
同じ事を口調を変えて繰り返した事で伝わったのだろう、ケイナが命令して騎士が槍を収めた。
「・・・しかし姫様、何故このような誰とも知れぬ下賎の輩と?」
それでも自分が咎められたのが不服なようで。
言うに事欠いて下賎ですか・・・
「クフト、失礼ですよ・・・」
「しかし・・・」
ケイナに止められてなおも上から目線を止めないこのクフトとか言う男・・・
全くもって不愉快だがケイナも持て余しているのかため息を吐いてる。
「はぁ〜・・・ところでカロリアは?」
「はい、彼女は既に終えてファスゴトに向かっております」
「そう・・・」
「・・・じゃぁ、そういう事で」
そう言いつつ街に向かって独り歩き出した私。
この二人には仕事があって、待ってる人も居るわけだから私の事は・・・と思っての行動だったんだけど・・・数歩も歩かない内にアッサリとケイナに首根っこを抑えられてグエッとひどい声をあげそうになった。
「ついでだから一緒に行けばいいじゃない?」
そう言って、クフトが降りた馬に乗り歩かせ始めた王女様。
なるほど、しっかりきっかり主従の関係は崩さないっと。
「姫様っ」
クフトはまだ不満なのか異議を申し立て・・・
「いや、ねぇ・・・仕事の邪魔じゃないかなぁと・・・」
クフトとやらの視線も痛いし私もやんわりと断りを入れる。
「姫様、このような輩と同行など・・・」
無論クフトにも思うところはあったようで先程よりはマシな発言だったが同行は避けたいと思っているのは明らかだった。
「ん?だって明らかにあなたより役に立つし?」
そして投下された爆弾。
いや、その爆弾・・・このタイミングだと核弾頭並みですよ?
「な・・・んですと・・・」
「ぁ〜、ケイナ?」
「それにあたしの事を知ってても対等に居てくれるし?」
あのー・・・漫画風だとクフトにお怒りマークが頭部より巨大に描写されてますけど・・・
わざわざ人間関係を崩すような発言をする困った王女様とその部下のクフトの二人を困ったように見つめているとクフトからの意見・・・というか要望・・・。
「・・・分かりました、姫様がそこまでおっしゃるのならばソコソコ使える人物なのでしょう・・・ですが小官にも納得させていただける場を設けて頂きたいと存じます」
「はいはい、平たく言えばボコらせろや・・・って事でしょ。全く、その口調どうにかならないわけ?あたしはギルドからの依頼を受けたハンターとしてここに居るわけ。場に合った会話してくれないと困るわけよ」
そりゃそうだ、ケイナは王女様・・・政治的にも重要な位置に立つお方であるからして。
そういう方面の輩が色々と画策するのはどこに行っても変わらない世の理というものである。
「ま、確かに・・・部下の失言で上司が窮地に立たされたら目も当てられない」
「くっ・・・」
ぁ〜失敗、不用意な発言でお怒り度数が飛躍的に伸びてしまいました・・・。
ま、やめる気なんて更々(さらさら)ないんだけどね。
「小官とて状況は選んでおります」
「・・・周りに人が居ないのは分かってるけど、音を遠くで聞く術が無いわけじゃない」
「そういう事」
ケイナも止める気どころかニヤニヤと私を見ながら煽ってるし。
「・・・平民如きが知ったような事をっ」
「知ってても出来ない貴族はどうしようもないよね」
チャッ
「キサマ言わせておけば・・・」
「あらあら・・・」
我慢の限界を越えたようで装備してる槍を突きつけてくるこのクフトとかいう人。
それに対して面白くなってきた様子のケイナ。
ぁ〜何気に私もイライラしてたようで・・・さっきから自制しようという気が起きないな・・・
「・・・・・・」
突きつけられた槍を見て、少しばかり目を細めてクフトを見てみるとやはりというか自制なんて言葉を忘れてるこの人。
ちょっと面白そうだから物理結界を一枚、形や大きさを合わせて適度に穴を開けながらクフトの身体をなぞる様に張って身動きを取れなくし、少し先に行っているケイナの方へ歩き出す。
まるで眼中にないという意思表示して・・・
流石に護衛っぽいだけあって型がしっかり、微動だにしなかったので非常に張りやすかった。
「ケイナさぁ、人選はしっかりしないとー」
ガン
「なっ!!?」
私が背を向けた事でプチンといったのか攻撃しようとしたみたいだけど、さっき張った物理結界に阻まれ・・・漸く閉じ込められた事に気付いたようだ。
「はい、アンタの負けー」
「あらら〜親衛隊の名が泣くわねぇ・・・人選はあたしの所為じゃないもの」
「おのれ!この程度の結界・・・」
いやいやこの程度じゃないんだけどね?
普通結界をそんなに細かく加工出来ませんて・・・
しかも対処方法が力の解放による完全な力技・・・出迎えは完璧ですよ。
「ぁ〜ムリムリ、空気穴開けてあるからそんな事しても壊れないって・・・ホントに親衛隊?」
己の持つ力を解放させてもヒビ一つ入らない結界に愕然としているクフトを振り返って冷めた目で見つめる。
「くそっ!」
どうにか結界を破ろうと殆ど身動きできない結界の中でまだもがいているクフト・・・。
「はぁ〜・・・クフト、分かったでしょう?・・・ケイ、解いてやってよ・・・」
言われたとおり術を解いてやると、流石に頭が冷えたのかつかつかとこちらに歩いてくる。
しかしまぁ、私に対する敵対心・・・いや憎悪かな?は増したようで射殺すように私を睨んでいる。
「・・・確かに、使える人材のようですね。ぁ、ひめいやケイナはこやこいつも雇うのでか?」
ぅわ・・・
「はぁ〜〜〜ぁ」
ここまで酷いと逆にかわいそうになってくる・・・
クフトもクフトで自分が仕える姫様にまで深いため息を吐かれて相当・・・いやそれなりにか、凹んでいるようだ・・・。
この事から見るにクフトは選民意識に凝り固まった屑貴族ではないようだ。
ただ単に多少行き過ぎた選民意識と己のプライドと、育てられた環境で王家に対する絶対的な忠誠がこうさせていると推測してみる。
「クフトは王都から出るのもコレが初めてだから、全部完璧にしなさいとは言わないけど・・・」
ケイナもケイナでここまで酷いとは思っていなかったらしく、どうしたもんかこの問題児を・・・みたいな感じだ。
「はぁぁ、で・・・ケイ、あんたあたしに雇われる気はない?」
「ない」
「うんうん、即答で了承・・・じゃない!?即答で拒否!!?」
まさか拒否、しかも即答されるとは思っていなかったのか頭の上にガーン!の文字が浮かびそうなほど驚いている。
話題の転換を図ったのにこれではケイナも堪えるだろう・・・けど。
「おいキサマっ姫様御自らの打診ぞっ!」
「そこはおいテメェ、ケイナが誘ってんのに断んのかっ!が正解だ」
「ぐっ・・・」
「・・・はぁクフト、いいわ。ケイ、理由を知りたいわね」
理由・・・ん〜私神だからとは言えないし・・・
「ん〜特に理由っていう理由はないんだけど、私は権力には迎合しない・・・故に器を見るし、クフト如きを御せぬケイナに私が使えるとも思えない」
「・・・そういうのを立派な理由って言うんだけど・・・」
「如きだと・・・」
ケイナはケイナで呆れつつ痛い所を突かれたなぁって顔だし、クフトは言わずもがな。
「という事で、私は当初の予定通りギルドに行く・・・そもそも組織は苦手というか嫌いだし登録せねば捕まるのなら出来るだけ自由な方が良い」
「そういう事なら、しょうがないか・・・もったいないなぁ〜掘り出し物見つけたと思ったのに・・・」
場面場面はこういうシーンいいなぁとか思うけど(思うだけ)、その間のつなぎが・・・難しいorz