第5話
「さて、まず何から聞こうかしら?」
朝、普通に起きて支度して、街に向かって歩き出してから暫くたった頃・・・思い出したようにそう言って歩きながら私の顔を見てくるケイナ。
うん、夜の間にモンスターが近づいてきたりとか、そういったハプニング一切なしでちょっと暇だなぁと思ってたところだったんだ。
「・・・ん?」
「まずは・・・、あなたいくつなの?」
「そっちかいっ!・・・で、イイのかな?」
見た目や今までの多少の会話からしてそういったボケはかまさないように見えていたんだが、どうやら違ったらしい・・・。
「ん、ただのツッコミね。じゃぁその調子で、あなたギルドへ法定登録する為に行くのでしょう?」
でも私のツッコミは平凡過ぎてあまりお気に召さなかったのかニコリともせずに次の質問。
・・・何か反応が欲しいものです。
「・・・どうだろう?旅の途中でそう聞いて、行けと言われたからココまで来てる」
「ふぅん、・・・あなたどこから来たの?」
「ん〜、どこからでしょうね?」
早速答えずらい質問がきて、ちょっと困ったけどそこは大いなる意思・・・ズラァ〜っと検索して適当な村を探す。
質問攻めされるのは分かってたんだから昨日の内にある程度調べておけば良かった・・・と後になって気付いたが、多分異世界召喚なんて事があって気付かない内にストレスと疲労が溜まっていたのだろうと自分で折り合いをつけてみる。
「・・・真面目に答えなさいよ、それとも話せないのかしら?」
そう言うと急に剣に手をかけ臨戦態勢になる私の・・・連れ?
連れでいいよなぁ?うん、いいんだうんうん・・・なんて考えてたら独り暮らし必修スキル第2弾のフムフム首肯をやってたらしく、次の瞬間には剣を抜かれ剣先は私の首筋にピッタリと。
私、こんな事されるような事何かしましたっけ?
「・・・何の冗談?」
「はっ、冗談ですって・・・あんた何者!?」
ん〜完全に本気です・・・どうやら不法入国者とかそんな感じに受け取られている様です・・・。
この世界で私はそんな罪人などに見える外見なのでしょうか・・・?
「何者と言われてもねぇ・・・ぁ、人間の男22歳です」
ボケてみた。
「そう、この状態でも余裕ってわけ・・・昨日の大群はあんたの仕業か!?」
ぁ、モンスター扱い・・・しかも確定でもないのに首筋にある剣を突き立ててきましたよこの人!
殺る気十分っぽいです!!
しかも初めの質問に答えたのにスルーですスルー。
「うわっ!?」
咄嗟に飛び退いて後ろに下がったけどチクっと微かに刺さった所から一筋の血が垂れてます・・・ちょっと痛いです・・・。
「ぇ!赤い!!?」
「・・・・・・」
一定の距離を下がって、大いなる意思に検索をかけてみる。
ヒット、人型のモンスター居ますね・・・
魔物・魔族は血液の色か正体を現した時の瞳で判断、と・・・普通にしてたら分からないって事か?
「・・・人間だと言いましたが?」
これ以上何かされない為に距離をとったまま様子を見る。
無論、これ以上されない為の対策として警戒態勢は取りつつ。
「ぁ・・・、あなたね!さっきのような時に冗談は止めて下さる!!?お陰であたし人殺しになりかけたじゃないのよ!」
「・・・・・・」
「ぅ・・・」
私が欲しいのはそんな言葉ではなくて、一言の謝罪。
そう意思を込めてケイナを見つめ続けます。
「・・・すみませんでした、あたしの早とちりで怪我を負わせ申し訳ありません・・・」
「はい、許します」
「・・・あなたねぇ・・・」
瞬殺で許されたのが意外だったのかガクッと崩れて、上目使いで恨めしそうに睨まれちゃってます。
そして睨むのも飽きたのか剣を鞘に戻して疲れたように歩き出す私の連れ。
その間に怪我の手当をして、ちょっと警戒しながらも一緒に歩き出す。
まぁ、別にいいんですけどね・・・
私が左手人差し指を首筋に当てただけで即癒えた傷をみてちょっと目を見開いたものの、今までもそうか・・・みたいな感じで諦めたように歩きながらため息してる。
「はぁ〜・・・で、あなたホントに何者なの?」
「ん〜タッワオ村って知ってるか?」
ビクッ
「ぉ!?・・・知ってるみたいだな・・・」
・・・、知ってるなんて予想外です!
ヤバイです!
事の次第によっては考えた嘘が通りません!!
内心ガクブルしながら様子を伺うと、・・・物凄く後悔して傷付いたような、顔。
あまりに素直に顔に出ていて、正直見てる私の方が辛くなります。
こんな感情、元居た世界ではありませんね。
逆にコレが人の情かと、ちょっと不謹慎にも感心してしまいそうです・・・。
「・・・・・・」
「ん?どうしたんだ?」
「・・・そう、あなたあそこの出身なの・・・」
・・・別の意味でヤバイです、何やら思い詰めてますよこの人!
でもまぁ、ケイナの反応からある程度の事は分かった、と思う。
大いなる意思によると、私がここに降り立つ2週間ぐらい前にリーロン王国の聖地で最高峰のトッゴ山の麓にあったタッワオ村は山に棲むモンスターの襲撃を受け壊滅したとの事。
たまに起きるこの襲撃、今までは事前に山の恵が急激に減る前触れがあって、その対処に中央や4大州から増援が送られていたので何とかなっていた。
が、今回は何かが起きて増援が間に合わなかったかして、その結果が門を管理する村の全滅と周囲に散らばった魔物達・・・と。
おそらくケイナはその増援隊の一員で今まで散らばった魔物達の対処をしていたのだろう・・・。
因みに首都ラーセンからトッゴ山までは道が険しく、距離的にはそれ程でもないものの時間的に遠くて首都から南のファスゴト州を通り抜けその南の辺境州コロッテの西の方・・・最速でも2週間程、ファスゴト州の州都からでも10日はかかる。
連絡手段だけは軍事的・政治的意味もあって村単位にまで通信施設が整っているので多分、そんな類の話なのだろう・・・。
「まぁ気にするな、私にとってあの村は一番近い人里だったという事だ」
「そう・・・、でも知り合いぐらいは居たんでしょう?」
「まぁな、・・・でもどちらかというと村からは疎外されてたから別に悲しいとか遅過ぎた対応とかを恨む気はないな」
「・・・ふぅん、そうなんだ・・・」
「うん、そう・・・私が住んでいたのは聖地の中だからねぇ・・・罰当りなとかよく言われてたし」
ん、またですよポカーン顔。
「・・・口クチ」
「ぁ・・・はあぁぁぁぁぁ、あなたですものねぇ」
大きなため息と共に吐かれるその言葉。
「その納得の仕方、ちょっと不愉快なんですけど?」
「仕方がないと思いません?あなたですから・・・が一番しっくりとするのですから」
「・・・・・・」
そのあまりに不条理過ぎる反応に閉口していると、フト何かに気付いたようにケイナがこちらを注視して。
「ちょっと待って!聖地の中に住んでたって・・・よく生きていられたわね・・・?」
と驚愕の文字を顔に貼り付けた一声。
・・・聖地。
聖地とはよく言ったもので、その実山の頂上から発生する膨大な力によって出現する大量の強力なモンスターに辟易した人間達がそれらを閉じ込める為に作った封鎖地域の事。
山の恵みもいいけれど、質量共に他より勝るモンスターの為その中に住む事が出来る人間はほぼ皆無、正規一個小隊規模以下で中に入ろうとするのはある意味自殺行為でもある。
「ぁ、あぁ・・・だからこその障壁術と結界術。元々は師匠がそこに住んでて、弟子として連れてこられなんだがな」
「なるほどねぇ・・・」
そうして歩き続けてお昼も過ぎ、そろそろ街が見えてくるかと思い始めた時間になった頃だった。
「・・・前から騎馬が一騎」
ふと気付いた私がそう独り言を言ったのだがケイナにも聞こえたらしく私を振り返って、ちょっとすると1km程先の低い丘の向こうから馬に乗った騎士風情がこちらに駆けてくるところだった。
「ん?・・・、・・・あらホント」
道自体は石畳などでの舗装こそされていないものの、そこそこ道幅もあるのでそのまま歩いていたのだが・・・
「げ・・・」
近づいてきて、その騎士風情を見たケイナの珍しい反応。
「・・・知り合い?」
「ぅ・・・知り合い、と言えなくもない・・・かも」
「あ!姫様ーーーっ!!」
歯切れの悪い反応にどうしたものかと思っていると、騎士の方からの多分ケイナを呼ぶ叫び声。
「ふぅん・・・姫様ねぇ・・・」
「・・・あの、馬鹿っ!」
悪態を吐きつつも足を緩めないケイナに、多分・・・驚く一言を言ってみる。
「いや、知ってるし」
「!!・・・何故!?」
やっぱり驚いた・・・多分知らずに名前だけ言っていればバレないとでも思っていたんだろう・・・
その痴態にそこそこ満足してネタをばらす。
「・・・民は敬意を込めて王族の名前を自分の子供に付けない、だからその王族より年上なら同名が存在するけど、年下には居ない」
「・・・そ・そんな・・・じゃぁ今まであたしが名乗った者は、全て・・・」
「知ってて普通に付き合ってくれた・・・が大半、と」
ガーーン!!
この効果音そのままという顔でビックリされていらっしゃるケイナ様。
「さてケイナ、ご機嫌麗しゅう御座いますか?とか言った方がいい?」
「やめてっ気持ち悪い・・・どこでそんな言い回し覚えたのよっ?」
クククッ・・・一生懸命爆笑を堪えながら内心で大爆笑していると馬に乗った騎士が私達の所まで辿り着いた。
「姫様っ、・・・この者は?」
その騎士は何をどう思ったのか私とケイナの間に馬を滑り込ませ、・・・持っていた槍をこちらに向けて・・・汚物を見る目で私を見ている。
「・・・・・・、不快ですね」
10日に1話ぐらいのペースかなぁ・・・話の骨格すら作ってない完全にその時の思い付きですから(汗