第4話
そうして今から、近くの街に向かおうとしているわけだが・・・
非常に困った事態になってるんだこれが。
「あんた本当に着の身着のままで何も持ってないわよねぇ・・・」
現在地から街までは普通に移動して約1日、しかも出会った時点で夕方日の入りの時間帯。
当然森を抜けた辺りで野宿となるわけだが・・・
ケイナの言う通り、私はさっき創造した装備以外何も持っていない。
「全く、どうやってココまで来たのかしら?」
「ん〜ほら、私には類稀なる障壁術や結界術があるから?」
「・・・とってつけたような理由の言い方ねぇ」
物凄い疑ってる目で私を見てますこの人。
まぁ確かに、こんな返し方をされたら私でもそんな反応するし、真実を暴露したところでやっぱり頭おかしい人か!となるのがオチ、と・・・
「それじゃ実演しますよ、・・・[完全遮断結界]」
仕方がないので、そう言って今考えた術を行使する。
「ぇ!?消えた!!何処いったのよ!!?」
一瞬だけ術を発動させて、驚いたところで解除する。
「私は一歩も動いてないから。姿・音・気配・術波動とか、人や獣が気付く要素を全部結界に閉じ込めただけです」
ぁ〜また、かわいいより綺麗な子がポカンと口を開けて呆けている様は・・・ちょっと、いただけないですね。
「・・・クチ、開いてますよ?」
「・・・ぁ!?あ・ああ・・あんた、・・・はぁ〜もう何も言う気が起きないわ・・・」
まさかこんな男が法定登録だったなんて・・・とかブツブツと独り言にしては大きい声で言いながら自分の野宿装備を広げている。
分からないでもないんですけどね、今の術は完全に上級術ですから。
「ん、後は結界ね。・・・物理結界も必要かしら?」
なんて気を取り直したのかこちらを警戒したように呟いて、それでいて値踏みするように見つめてくるコノ人。
申し訳ないがその手の冗談にノる私ではないのですよ。
「・・・無駄です。私の得意術をお忘れですか?」
そう言って、逆に意味ありげに見つめてさし上げました。
ノりはしませんが、斜め上を目指すのが私です。
ココに来る前はよくそれで知り合いに言われました・・・
ちょっとだけ前世界の事を思い出しながらケイナを見てみると、頬を引き攣らせ苦笑いのような・・・何ともいえない複雑な表情で私を見ていました。
「もちろん、初対面の女性を襲うなんて不埒な真似は誘われない限りしませんよ」
「ぇ・えぇ・・・そうよね。誘われない限り・・・ね・・・うん」
少しだけ間を開けてから自分ではにっこりとした笑みを浮かべ、安心してもらうよう心掛ける。
その笑みを受けてか全面的な信用はされていないでしょうが、それでも一定の信用は得たらしく1つ肯くと背嚢から術道具らしき物を取り出していた。
「・・・ところで、それ使い捨ての簡易結界ですね・・・良かったら私が張りますよ」
そう言って、さっきのとほぼ同じ術を今度は半径5mの円形に張る。
それからその結界を維持させる為に人工力石を作って術を安定させる。
結界術は習えばほぼ誰にでも出来る術だけど、道具として結界術を作ろうとするととても難しくてとても高価なものでもある。
だから余裕の有り余る人は大体今のように自分で術をかけて、自作の人工力石に刻み込んで必要な時間安定させる。
人工力石を作るのも障壁・結界術と同じで属性関係なし(その人の属性石にはなる)だけど、かなりの消費量だったりするから本当に余裕が有り余ってないと出来ない。
「・・・へぇ〜、ガラスみたいね・・・って、しかも出られるの!!?」
「ん?はい、張る時に入ってた人は出入り自由にしておきました・・・その方が貴方も何かと安心でしょ?」
さっきのとはまた微妙に違う結界を張った事でまた驚いたのか、ケイナは疲れたようにため息をついて今度は携帯食料と調理道具を背嚢から出し始めた。
「・・・疲れたわ、早く食べて早く寝ましょ・・・」
そう言って準備を進めていくケイナ。
何気に私の分もあるようで、二人分の食事を作ってくれている。
が、私はちょっとドキドキしていた。
さっきの2つの術、上級術を殆どタイムラグ無しに行使していたからで、大いなる意思による知識で上級術はそこそこ長い詠唱を必要とし発動まで時間がかかる事を知っていたから。
別に女性の手料理が初めてだからとかそういうのではない・・・
・・・気を取り直して、さて気付くかなぁと思いながら相槌を打つ。
「あ、私の分まですみませんね・・・」
「いいわよ別に、一人だけ食べたって気分悪いもの・・・」
そう言いながらテキパキと調理し、あっという間に完成・・・。
手渡された即席の皿には干し肉と木の実の入ったシチュー・・・のようなお粥・・・のようなもの。
シチューのルー・・・ケチュシーは携帯食料の中でも割と優秀でルーはもちろん、塩などの調味料や米に似たメコアと呼ばれる穀物も一緒になっている。
それを液体で戻して他に何か具を入れてちょっと煮込む、とメコアが炊けて何倍にもなるので実はケチュシーだけでも十分美味しくてお腹は膨れる。
全部大いなる意思からの情報だけど。
検索をかけつつ手馴れてるなぁと思いその事を聞いてみる。
「ずいぶん手馴れてますけど、もうこの稼業長いんですか?」
「そうねぇ・・・16の時からだから約2年ってところかしら?」
はい、今度は私が口を開けてポカーンとする番でした。
「ぇ・・・今18歳!!?若っ!!」
「・・・ちょっと、それは一体どういう意味なのかしら・・・説明してもらえる?」
ん、確実に地雷を踏んでましたねぇ・・・多少自覚のある事なのかこちらを見るケイナの顔がとてつもなく怖いです・・・。
「えぇと、18に見えないほど綺麗で大人な雰囲気を持ってたんで私と同じぐらいかと思ってたって事ですよ」
「・・・ふぅん、話を聞いてると片田舎から来たみたいだけど・・・そんな処世術を何処で学んだのかしら?」
好転はしたものの追及の手はまだなくならず、逆に増えてるよ・・・
「・・・処世術?どこが?」
「・・・素、なのかしら・・・まぁいいわ、食べたらさっさと空いた皿を寄越しなさいよ」
ブツブツ言いながら手を出して皿を要求するコノ人。
なんだかなぁと思いつつ、追及の手を逃れきった事に安堵して空いた皿を渡す。
「ごちそうさま、美味しかったよ・・・さてと」
「そりゃどうも、って何処に行くのよ?」
片づけをしながら徐に立ち上がった私を見て問いかけてきたのでもう1つ驚かせてみる事にする。
「ん、私が結界範囲から出たら力石にケイナの力を込めてみなさい」
「?・・・わかったわ、・・・ん・・・これでイイ?」
少しふざけて上から目線で指示を出してみたんだけど、私が今度は何をするのかが気になったのかあっさりと素直に行動されてちょっと・・・つまらない。
「・・・うん、じゃぁおやすみ・・・明日の朝になったら自分でその力石を破棄してね」
「??・・・いったいなんなの?」
やはりというか理解できないようなのでヒント代わりに結界を叩いてみる。
「ぁ・・・」
「うん、私の張った結界だけどケイナの力で変質させた・・・それで私も入れませんから安心して寝なさい」
ん、またポカーン顔を見られて満足満足。
今度は割りと早く立ち直ったみたいだけど、その顔がどうやって?と物語っていた。
「・・・君は結構知識欲が強いみたいだからちょっと説明すると、その結界の物理障壁の部分だけをケイナの力で変質させてる。だから術行使者の私にも声は通るしケイナの姿も見えてる・・・その結界を張ったのは私だが変質した事によって、その時中に居たケイナにしか解除は出来ない」
「・・・・・・。」
「まだ聞きたい事ある?」
「あ、うん・・・いえ、無いわ・・・」
「どっち?」
「あるけど、無い。聞いたら聞いたで眠れなくなりそうだから・・・おやすみ!」
くふふ・・・強制終了パターンですか。
明日は質問攻めを覚悟しなければいけないかもしれません・・・。
それでも、近くの木に登って寝る準備をしながらこう思う自分が居るのでした。
中々楽しいじゃないか・・・と。
設定集作ったらそちらばかり熱中・・・全部使えるかな・・・orz