第2話
んで、2日前。
気が付けばはっきりと自覚できる、完全に自分が行った事も見た事もない世界が周りに広がっていたと。
「・・・・・・・・・。」
ぐるーっと周りを見渡してみると、まず正面に森。
人の手なんて一切入ってない事を窺わせる、鬱蒼とした、森。
右、・・・森。
人の手なんて一切入ってない事を窺わせる、以下略。
左、・・・森。
人の手・・・以下略。
後ろ、・・・以下略。
見た事もないような樹木や刺々しいまでに色鮮やかな草花・・・。
「・・・何処だよここはっ!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いかんいかん、冷静になれ冷静に。第一こんな所じゃやまびこが返ってくるだけで誰も返事はしてくれん。」
強制的に社会人にされたあの師匠の教えを思い出しとりあえず心を鎮める為に古武術にあった呼吸法を実践する。
「フゥ〜・・・さてと・・・どうしたもんかな。」
落ち着いたのはいいがさっきと変わったのは内心だけで、五感から入ってくる情報には一切の差異がない。
「・・・・・・・・・、・・・やまびこか、じゃぁ近くに見晴らしの良い所があるはずだから行ってみるか・・・。」
中学生3年の夏から独り暮らしをしている私はその長さから極自然と身についてしまったスキル、独り言を喋りつつ周りをよく見渡す。
「ぉ、こっちは遠くの樹木が少ない。」
ぐるっと360度見て、ほぼ後ろを向いた時に新たに認識した事に従って歩を進める。
こんな森の中で距離感覚なんて無意味だろうからあまり記憶してなかったが多分300m程進んだ所で森が途切れ始め、500m程歩いた所で目の前には長大な渓谷が広がっていた。
「・・・画像で見た北米連邦のグランドキャニオン並だなこの壮大さは・・・。って、マジ・・・ですか。」
開けた場所に出た事で辺りの地形と共に太陽を拝む事ができて、一安心すると共に超然とした新事実を見せ付けられ瞠目する。
「太陽?が3つもある・・・」
大きさも大中小と3種類で一番大きな太陽?(コレが一番見覚えある太陽に近い)は地平線のすぐ上にまるで日の入りのような赤い感じで存在し、存在を思い出した腕時計の時間から今が元世界の日の入りとほぼ同じ18時33分頃ではないかと推測する。
しかし中程の太陽は17時ぐらいのところにあるし、一番小さい太陽にいたってはまるで日の出後の様な位置に存在していた。
あの球との会話時間とかからして19時を回ってるはずなのになぁと思いつつその日の出の様に出てきてる変な太陽?を観察してる私。
それらがちょうど渓谷の裂け目の端と端にある様に存在していた。
方位をそのままここに当て嵌めると東西にはしった渓谷のようだ。
と、今見てる時計の文字盤の隅にある日付を見て驚いた。
「あれ?1日経ってるし・・・それに月、にしてもおかしいか・・・」
丸24時間経ってる事にも驚いたが、目の前の事象である月?に驚いてて・・・あり得ないほどの姿形と明るさを持っているソレをじっと見つめて・・・と、そこである驚愕の事実に気付いた私。
「・・・ってマジで異世界?ってかあの糞球の言ってた事が事実!?それにあの空間の中ってどういう時間の進み方してんのっ!!?」
今更な気がさっきからぷんぷんしてたはずなのに今頃になって気付いた私・・・。
「ってか、不可思議な事の連続だったからなぁ・・・脳が処理を遅らせてやがったか?」
変な球にそこから向けられてたあの視線、真っ暗な部屋、その部屋での変な会話、そしてココ・・・
「・・・なるほど、処理が追いついてきて初めてあの会話の中身を思い出した、か。」
あの胡散臭さ最高Lvの球との会話を思い出した私は意識して“この世界”を視てみる。
「ふぅん・・・」
時間経過とか金銭単位とか言語とか、コロッと替えられても“世界”にはさほど影響が少ないものは私がここに神として来た事で私の常識に替わってる、のか?それとも元から?・・・でも影響が大きい魔法の有無や時代背景など骨格的なものはは上手く残しつつ私に馴染みやすい様になってる感じからして私が来たから替わったと考えるのが妥当か・・・時代的には産業革命以前って感じだな。
1日は24時間だし1000ドンで1エル(1エルが正暦2000年ごろの1万円ぐらい)だし其々(それぞれ)の国の言語はあるけど世界共通言語が日本語で、・・・盗賊やら山賊とかも普通に居るしモンスターも出る・・・と。
魔法は3種類あって1つは人の生命エネルギーと空気中のエネルギーを使ったオーソドックスな魔術、1つは自然界に須らく居る精霊との“契約”による精霊術、1つは神・・・私か・・・への信仰を力に変えた神想力・・・か。
その3種類の魔法にもやっぱり属性があって、人はどう足掻いても1つのみ、魔術と精霊術は生まれた時にどちらかかと扱える属性も契約できる属性も決まってるし、神想力のみそれ自体が1つの属性・・・か。
という事は神想力を使える人だけは、生まれた時に決まった属性と神想力の2つ属性を持てるって事だな。
生まれた時に神への信仰なんてあるわけないし。
まぁ、私は何でもオッケーなんだけど。
後、其々の力を極め一定水準に達するとその人専用の固有装備が神(私)より下賜される。
この辺は多分“大いなる意思”が勝手にその人に合った装備を下賜しているのだろう・・・。
魔術か精霊術と、神想力を極めた2属性持ちの人は2つ固有装備が・・・ぁ〜歴史上ほとんど居ないのな。
んで、今現在の固有装備持ちは・・・15人、その内2属性持ちの人は3人、か。
世界人口が15億人程の世界で、15人か・・・。
それはそうと2属性持ちが3人とも女性ってどうなの?1人はもう婆さんだし・・・と思いながら他の事も吸収していく。
これが“大いなる意思”なのかその世界の事が、まるでずっと前から知っていたかの様に、すんなりと頭の中に入ってきてしっかりすっぽりと脳ミソに収まっていく。
まるで今まで空いてた空間にパズルのピースが嵌っていく様なその感覚に、知らず神経が昂ぶっていく・・・。
「ふん、しょうがない・・・帰り方も分からないし帰らなければいけない様な大切な物(そもそも“世界”を視た感じその世界から消えればその物が無かった事になるみたいだから)もないし、やってやるかっ!まずは・・・街か村を探さないとな?」
と、後ろを振り返って硬直。
「探すまでもないんだっけ・・・」
我ながらアホな発言に独りしか周りに居ないのに頭をポリポリと掻いて照れてみる。
探さなくても“大いなる意思”に検索をかければ分かるのだ。
無意味に一頻り照れた後で“大いなる意思”を使って一番近くの人里を“検索”してみる・・・と同時に人里に行くのならと自らの服装を“この世界”がよく知る物へと変える様に念じてみる。
「・・・ハハ、ホントに出来ると驚きを通り越して呆れ笑いしか出てこない・・・。」
人里の場所も分かり、服装もRPGゲームにありそうな旅人の服っぽいのに変わった。
「街まで歩くと丸一日以上かかるのか・・・それにしてもこの世界に合わせた旅人っぽい服装を念じたけど、なんだかビミョウに動きにくい・・・それに武器とか防具とかどうするかなぁ〜」
・・・ん?
その服の感想とか動きやすいように少し弄ったりとかしてる内にフト、違和感に襲われて考えてみる。
「ぁ〜、そっか・・・武器や防具を当たり前の様に考えてたからか・・・。」
自分の体内時間ではほんの数十分前まで人や動物を相手にする武器や防具とは全く、全然、コレでもかという程縁のない世界に居た自分。
戦争や紛争といった人と人との殺し合いは、世界が3国にまで統一された事で全く無い訳ではないが無くなっていた。
それに確かに私は武術をやっているが、それは相手を“試合で倒す”事が前提で“殺し合いで斃す”事ではない。
それがいつの間にかフト自然に「どういうのにしようかな?」ぐらいに考えてる自分が居る事に半ば愕然と、半ば当然と理解する。
「・・・コレが神って事ね。意識も多少引っ張られるわけだ・・・」
グルルルルルルゥゥゥ
フムフム・・・と納得の首肯(独り暮らし必修スキル第2弾)をしていたらそんな鳴き声と共に四足の獣らしき動物が森の中から現れた。
目が3つもあって牙や爪もかなり切れそうな・・・狼?それが3匹も。
「ん〜君達、この私に逆らうって事がどういう事なのか分かってやっているのかね?」
崖間際の小さな空き地である私の位置は3m程後ろが崖、前4・5m程離れた場所に3匹の・・・多分モンスター。
妙に巨大で攻撃的な牙や爪だし目が3つて・・・ねぇ?
御丁寧に幅一杯、ほぼ等間隔に並んで逃げ道を塞ぐようにしている。
ビミョウに絶体絶命パターンっぽいし、崖を落ちたら流石に怖いので神らしい?威厳をもって引いてくれる様に促してみる。
もうこの時点では“神”をある程度理解しているので、例えあのモンスター共が襲ってきたとしても空を飛ぶなり何だって・・・と思ってはいる。
いるのだが、やっぱりというかまだ慣れていない内にそういったモノを見せ付けられると多少なりとも動揺してしまうのは元人間だから・・・と思いたい。
グガァァァ!
そして、それでもやっぱり襲ってくるのがモンスターというモノなんだろう・・・。
仕方がないので身体の手前10cm程の所に不可視の障壁を張ってモンスターを足止めする様に念じてみる。
無論、横から襲ってこない様に脇の地面一杯まで張る。
本来、普通の人なら多少なりともイメージを固める為に詠唱が必要な“魔術”なのだが、それこそ誰も居ない今は知った事じゃない。
何故そんな目と鼻の先に障壁を張るのかと聞かれれば「面白そうだから。」と冗談を言い、ホンネは一番油断してくれるから・・・と答えるだろう。
ドガッ ドゴッ ガンッ
予想通り、面白いように壁にぶつかる間抜けなモンスターちゃん。
2匹は鼻っ面から逝った様で前足で鼻っぽいところを押さえ悶えているし、1匹は足の爪だった様でこれまた悶えている。
一応痛覚はある様で、意味のまるでない安堵感を覚える。
「・・・自分でやっておいてなんだけど・・・なんかシュールだ・・・」
一頻り悶えたモンスターは烈火の如く怒り狂いながらも壁の存在を知り、穴が無いか壁の周りをウロウロしていたが私は私でソレをボーっと見ているだけではない。
「さて、どう片付けようかな・・・」
「ん?アレは・・・追い詰められてるわね・・・急がないと結構ピンチだわ」
目当ての獲物を探して森の中を探索・・・という名の遭難(煩いわね!)をしてたあたしは遠くにその獲物らしき影に追い詰められてる人影を発見し全力で走りだす。
今居る場所はあの長大な渓谷の中の小さな谷間を挟んだ狭い空き地なのでぐるりと回り込む様に行かなければならない。
何せあたしは今二重の意味でピンチなのだ。
「えぇい、間に合ってよぉ〜[ハイムーブ]!」
人影が斃されるピンチ、獲物が獲られるピンチ(こちらの方はあの状況なので心配はあまりしていない)があるので補助魔術をかけて最大速で走る。
「さて、どう片付けようかな・・・」
まだ諦めきれないのか、障壁の向こう側でウロウロしているモンスターの片付け方を考えていたらその後ろから人間らしき人影が猛烈な勢いで走ってくるのが見えた。
「ん、あれに任せようかな。」
あの人間ヤメてる速度で走ってくる人間に任せれば多分大丈夫だろう、と私は私で自分の装備に関してどうするか考え始める。
一方モンスターの方もその人に気付いたようであちらに襲い掛かっているからちょうど良いだろう。
「・・・大丈夫!?今助けるからっ!・・・ハァッ!」
やっぱりというかその人間・・・女だった事にというか少女だった事に多少?驚いたが、1つ首肯を返したのみで考えをグルグル歩き回りながら纏める。
やはり剣は必須だな・・・その上で・・・ぁ〜ガントレットにしよう。
で、近接戦闘時はガントレットから剣が伸びて装着されてる状態、持たなくてもイイから指弾も撃てるし戦術に幅が出るし、なにより剣を弾かれて取り落とす事もない。
出現時は剣がガントレットの中に収納され普通の盾付きガントレットで・・・盾の部分は戦闘中随意で肩の近くに浮き最大8つに分裂して防御する、そのまま盾でもいい・・・うん、イイねぇ〜
で、私は神想力を極めし者(神だし当たり前)だからソレが2つで両腕に装備と。
隠し玉として神想力を弾に変換して撃つ魔銃にもなると・・・イイ・・・イイよそれっ!
ぁ、それと剣を出した状態で魔銃を撃とうとすると剣やガントレットが変形してスナイパーライフルみたいになって射程=視界の長距離射撃が可能・・・良過ぎるだろソレ・・・
近接から長距離まで完全網羅、しかも防御も完璧・・・後、平時には何かアクセ・・・両手中指に指輪としておくか。
とりあえず、そこまで考えて目の前の女性から見えないように身体の後ろで具現化しておく。
「・・・っと!・・・聞こえてるの!?ねぇってばっ!!」
「・・・何?あぁ、終わったの?ありがとう、助かったよ。」
「・・・全然御礼言われてる気分にならないのはどうして・・・?」
半分以上トリップした状態になってしまっていたが私の障壁をガンガン叩きながら吼えてる人間?の煩い声で意識が戻ってくる。
どうやら歩き回ってる内に障壁から離れていたらしく、彼女も障壁にぶつかった様で顔を抑えながら多少機嫌が悪そうにこちらを見ている。
そして斃してくれた事に御礼を述べたのだがあまり伝わらなかったようで、不機嫌そうに憮然とした感じだ・・・。
「・・・ま・まぁとりあえず、怪我は無いようね?何であんたこんな所に居るのよ?武器も持たずに・・・自殺志願者?」
目の前の女性はそう言って胡散臭げに私を見ている。
この世界において武器も持たずに街の外に出るという事がどういう事なのかは“世界を視た”時に学習したのでこういう反応は理解できる、理解できるが納得はしない。
誰だって正常だと思っている自分に向かって頭ごなしに破綻者と言われれば・・・ねぇ?
「・・・自殺志願者ではない。」
「あっそ、じゃぁ何でこんな場所にモンスターに囲まれて・・・居たわけ?」
必要最低限の返事しかしてないわけだがあっさりとスルーされて内心のみでコケて更なるボケ?をかましてみる。
「ん〜追われて?」
「何故疑問系・・・まぁいいわ。仕事も終わったし、このまま放置じゃ後味悪いから街まで一緒に戻ります。」
しかしスルー、しかも勝手に自己完結、且つ強制連行ときた。
いつの間にか倒したモンスターから必要なものは回収していたらしい。
「ぁ〜・・・ま、いっか・・・」
言いたい事を言ってさっと身を翻し歩き始めたその女性について歩き出した私。
まだ名前も聞いてないんだけどな・・・色々と諦めて後をついていく。。
そうして街に向かって歩き出したのが・・・運の尽き、だったのかもしれない。
ふぅ・・・覚悟も何もなしにただなんとなくで始めたけど・・・・難しいのなんのって・・・プロットなんて作ってないから修整修正また修整^^;