第12話
その日の午後。
「・・・暇だ」
ケイナとカロリアさんは買い出し、クフトは装備の調整だとかで出かけた。
私は午前中にギルド登録もしたし武器屋・道具屋をまわって装備も揃え終わっている。
「散歩、ぐらいしかない・・・か」
散歩していればもしかしたらお約束に出会えるかもしれない、と心の隅で思いながら宿を出る。
宿の前の道は州都中央部に割と近く、ファスゴトに東西南北4本あるメインストリートの南通から1本外れた所にある適度に賑やかで適度に静かな場所。
今でこそ大陸では名の知れた大国であるリーロン王国だが、スタット大陸では建国時期が周辺諸国よりも・・・というか一番新しい。
それはちょうどリーロン王国の国境線=大陸を東から中東南部そこから大陸南部へと連なっているとても険しい山脈が理由として挙げられる。
歴史的に見て人はチュート大陸から来たかスタット大陸の中西部で発祥したとされており、そちらの方でよく遺跡などが発見されていて。
リーロン王国の国土はそんな地形的要因があって長らく放置されてきた土地であったのだ。
そこに目をつけたのが王族の先祖達で、恐らくおかしな術を使うなど有象無象の迫害から逃れて来た人達と思われ今のリーロン王国が術大国である事からも推測される。
そんな先祖だからであろうか、王都や4大州・辺境10州の州都全てが防衛力の高い街の創られ方をしており強固な壁が人口の増加と共に幾重にもあって、一定距離毎に90度折れて曲がっているメインストリート、王都は中央部に街全体を見通せる塔と堀・城壁と城、州都は中央部から少しだけ王都側に近い場所にある塔と堀・城壁と城。
国全体を1つの防衛装置として創られている。
ここファスゴトは南側が多少緩やかな崖を伴った低地なので外からの防衛力は更に強いだろう。
だが同じ様に創ってあると言う事は王都や他の州都の地理が明るくなくとも何とかなるという事で・・・
「お陰で迷子にはなりにくいけどね・・・」
そんなある意味どうでもいい事を考えながら州都城に向かって散歩をしていると午前中に世話になった雑貨店の店主が店から出てきたところに出くわした。
「と、先程はどうも」
「おや、先程はありがとうございます。すみませんがこの荷物を急いで届けなければならないので失礼を・・・又ご贔屓に!それではまた」
急いでいたようでサラッと挨拶して歩いていってしまった。
「ん〜一人でやってるのか。・・・それにしても、暇だ」
店主が居なくなった雑貨店を見ると、店主不在の札が掛けられており中には他に誰も居ない様子。
仕方なく又当ても無い散歩を再開しようと歩き出した途端・・・
「っていう展開は無し、・・・っと」
気付けば折り返し地点にと思っていた州都城正門前に着いてしまい他人には聞こえない様な小さな声で愚痴をこぼす。
そこはちょっとした広場になっていて、門番に不審に思われない程度に観光客的な風体で周りを見渡すと三角形の広場になっていた。
無論・・・ここにも防衛という色が見受けられ広場に通じる道は全て道幅が細くなっている部分があって段差があり、周りの建物も篭って戦える様に堅牢に創ってある。
「ふむ・・・」
だが今は戦争中でもないので広場にあるものと言えば数店の食べ物や土産物の屋台に街の人々、それに観光客の姿。
「・・・ぐるっと城を一周して帰るか」
屋台で果物を使ったジュースを買い喉を潤しながらまだある暇な時間を潰す為に歩き出す。
ココまで来るのに約1時間、後4時間は暇を潰さないと大体夕食の時間である3つ時半(18時30分)にはならない。
周りの風景や建物を見たり露店の商品をひやかしたりしながらもう1時間、州都城を4分の3回って東のメインストリートの東通を少し過ぎた辺りだった。
「ぉーぃ、ケイー!」
後ろから呼ばれて振り返ると50Mぐらい離れた東通の角からこちらを見て手を振っているケイナ・・・。
と、ケイナと私を何事か?と見つめる観光客やら通行人が約10名・・・。
正直、勘弁してほしい。
周りから生暖かい目や冷やかしの目、果ては妬みや嫉妬の目。
流石に声を掛けてひやかしてくる者は居なかったがこの注目は出来れば敬遠したい類の物だ。
ケイナもムスッとした私の機嫌に気が付いたのかちょっとだけご機嫌窺い気味に近寄ってきた。
「ぇっと・・・?」
「私はあぁいった注目のされ方がとても嫌いです」
そのまま二人で歩き出して話しかける。
「・・・、・・・ん???」
あぁ、全くもって気付いてない・・・
こんな所はやはり王女様、注目される事に良くも悪くも慣れ過ぎているわけだ。
「もし、この辺りに理由はどうあれ私やケイナ、もしくは私達を狙っている輩が居たらどうなります?」
「ぁー・・・なるほど。」
「まぁ私は別の理由で嫌いなんですけどね・・・ところでカロリアさんはどうしました?一緒に出掛けたんですよね?」
「っ!・・・カロリアなら買出しの荷物持って先に宿に帰ったわよっ」
オチをつけられいい様に遊ばれた事に気付いて多少不機嫌になったっぽいけど、質問にはきちんと答えるケイナを見て微苦笑する。
「・・・なんなのよ?」
「いや、別に」
暫らく無言で歩き、州都城の正門前広場まで戻ってきた時だった。
「ところでさぁ〜」
「隊長職でも却下です」
「ハァ・・・先読みされ過ぎて会話にならないわ」
そうやって少しばかりケイナを弄りながら歩いていた私は前から歩いてくる2人組みに注目する。
「おい、あれ・・・」
「おぉ、イクか?」
二人は会話をしながらこちらに向かってきていたがその視線はケイナに固定されていた。
多分、この辺りや王都の出身ではなくケイナの事を知らないのだろう。
先程ケイナに声をかけられ注目していた人の内2・3人、ケイナの事を分かっている節があったので、ファスゴトやこの辺りでもケイナの知名度はソコソコあると思われる。
その冒険者風情の二人はそれなりの自信が持てる程にはやっていけているらしく
装備も揃って見た目だけは小奇麗にしている感じ。
「おゃ姉ちゃん、イイ所で会った。ちょいと俺らと遊ぼうや」
顔やナンパの仕方については・・・甘ーーく見積もっても30点以下の赤点だろう。
二人してケイナの前方両脇を挟み隣に居た私は完全に無視されて蚊帳の外。
「おぉ!お約束出たーっ」
なんて、小さく喜んで傍観者に徹してみるとケイナは不機嫌丸出しで私を睨んでいる。
「・・・ちょっと」
「なぁいいじゃんこんなのよりよっぽど俺達の方が楽しいって」
「そうそう、あっちにさ新しく店できたんだ〜行ってみようぜ?」
バカなナンパ男2人がまともに喋れたのはここまで、1人がケイナの肩に手を置いた瞬間までだった。
「触るなクズ共っ!」
そして1秒後にはケイナの両手から発せられた小さな火属性術の直撃を食らって3M程吹っ飛ばされ転がっているバカ2人。
「・・・っ、てめぇ」
「あーぁ、やっちゃった・・・」
「ケイッ!あんた私の護衛に雇われてるんでしょうがっ!!」
ボソッと言った私の言葉がケイナの耳に届いたのか元々そうしようと思ってたのか、バカ2人には目もくれず詰め寄ってくるケイナ。
その目と怒気は一国の王女にあるまじき苛烈さ、一般人なら気絶しそう・・・イヤするだろう。
「明日からな」
ピキッ!というか、ピシッ!・・・というか、そんな擬音が聞こえそうな程青筋を立てて固まるケイナを横目に見つつバカ2人を見るとほんの少しふらつきながらも立ち上がって今にも襲い掛かってきそうな雰囲気。
「てめぇら、いい度胸してんな・・・」
「俺らドレン傭兵団に楯突いてタダで済むと思うなよ・・・」
なんて、言いながら自らの得物を構えるバカ2人。
こいつらココがどんな場所だか分かっているのだろうか・・・?
州都城は目の前、衛兵も門番も居る。
「お前らがタダでは済まぬわっ」
「君達、大丈夫かね?」
騒ぎが大きくなる前に誰かがしてくれた通報によって・・・というか見ていたのだろう衛兵4人がバカ2人を取り囲み、武器を取り上げられて御用となる。
「待てよ兵隊さん、先に手ぇ出してきたのこいつらだぜ!?」
「捕まえるんならこいつらだろ兵隊さんよぉ」
「愚か者っ!ワシ等が見ていないとでも思ったか!!」
リーダーらしき衛兵が一喝し、残りの3人がテキパキと捕縛しバカ2人を連行していった。
「てめぇら今度会ったら覚えとけよっ!!」
「俺等敵にまわして逃げられると思うなっ!」
そんな、お約束をかましてくれながら連行されていくのを見つつチラッと横目でリーダーらしき衛兵を見る。
バカ2人と衛兵3人はもう行ったんだけど・・・
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
なぜかリーダーらしき衛兵がこの場に留まり何かを待っている、というかケイナを見、私を観察している。
私見だが彼はケイナの事を知っているようだ。
「・・・なにかな?」
仕方なくケイナがタメ息混じりに聞くとビシッと敬礼する衛兵。
ケイナの事を知っているで確定ですね。
「ハッ、この者は・・・ご友人か何かでございますか?」
まぁ確かに、私は一切手出ししていないからな・・・武器は持っているが持っているだけの旅人とかそんな風に解釈した様子。
でも彼にも腑に落ちていない様でチラチラと私を観察している。
「いや、護衛・・・だけど明日、からの契約なのよ」
ケイナの発言と視線が棘の様にチクチクと私を刺し・・・衛兵が憤怒とも呆れとも取れる様な微妙な表情でケイナと共に私を見ている。
「・・・別に助けてやっても良かったんだが、手出しした事で事情聴取とか気に入らない暇潰しはしたくない。それにこれだけ門が近ければ衛兵が出てくる事は分かっていた。ならば事は穏便に済ますのが一番でしょう」
仕方ないので一応の弁明はしておく。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
やはり一応の弁明、納得してはくれないようだ。
「なるほど・・・ね」
「ぁ・・・・・・そうか、では私も任務がありますので」
ケイナができるだけ身分を明かさない事を思い出した様子の衛兵は色々と慮ってか、少しだけ逡巡した後チラリと私を見つつ敬礼して持ち場に戻っていった。
「・・・なるほど、ね」
「・・・・・・」
その後、宿に着くまで微妙な空気が続き・・・
「なるほど、ね・・・?」
クフトとカロリアさんと合流するまで機嫌は直らなかった。
・・・更新速度、頑張りますなどとほざきましてすみませんすみませんすみませんorz