第9話
「・・・ぇっと・・・」
ドアを開けた私に何とも殺風景な部屋の様子が飛び込んできて、ちょっと戸惑う。
もっとこう、何かしら装飾があっても良いんじゃないかと思うわけよ。
国営のギルドなんだから王様からの感謝状とか色々・・・
「ようこそ国営ギルドへ、早速だけどそこに座って・・・えぇと、ケイさんね」
6畳程の部屋に机と対面に椅子が一客ずつ。
机の上には何かの書類が数枚あって、私が入ってきたドアに向かって座りその書類を見ている・・・見た目むさいオッサン。
オッサンの後ろには窓が1つ。
左側の壁面にはもう1つドアがあり、そこからあの受付嬢が居たカウンターを経由して奥の事務所に繋がっているのだろう。
他に私の目に入ってくるのは木の壁と天井と床、部屋の情報はそれだけだった。
何も言いようがないので無言のまま言われた通り残っている椅子に座ると、驚いた事に机の上の書類が淡く発光して緩やかだがしっかりとした文字が書かれていった。
「おぉ〜」
まるで光の精霊がダンスをしている様な情景に感心しているとそんな私をチラリと見上げたむさいオッサンから一言。
「・・・ラクでしょ?道具だから嘘つけないし、初めて見る人は大体驚くんだよねぇ」
見た目はアレなのに喋る表情には知性というか・・・肉体派っぽいのに皮肉っぽい頭脳派のようなというか・・・
「・・・と、ぇ?・・・」
どういう構造でどうやってるのかなぁ?と思いつつも暫くすると光が収まって、書かれた文面を読み始めたオッサンの顔色がスー・・・っと、擬音が聞こえてきそうな程変わっていくのを静かーな気持ちで見つめる。
やはりと言うか・・・だってわかりきった事だし?
Zランク所持者の少ないこの世界、まさか自分がこの場に立ち会うなんて殆どの人間は考えてもいない事だろう。
「・・・ぁー、・・・ぇっと、・・・すまんが、王都の国営ギルド庁本部に行って、もらえませんか」
それでもギルド支部の人間、醜態は晒したくないのか表面上は平静を保とうとする節が垣間見えた。
「何故、と聞いても?」
分かってる事だけど、知らない振りしないといけないのがなぁ・・・
「・・・この検査装置が正しければあんた、いやあなたはZランク、です。・・・おそらく、おそらくですが神器を扱えるのでしょう?」
「・・・神器?」
「ぁ〜あなた個人にしか具現しないし扱えない装備の事ですが、固有装備や神からの贈り物とも呼ばれます」
「あぁこれの事ですか?」
そういって、初日に考えた固有装備・・・神器を、片方だけ具現化する。
何気に言葉遣いが変わっているのに気付くがあえて気付いてない振りをする。
というか今更すぎてツッコミ入れる気にもならない。
第一、ここまできてもなおこのむさいオッサンの名前すら知らない。
で、神器。
声に出さずに心の中で開放と念じ、具現化されていく様を期待の文字を顔に貼り付けたむさいオッサンと共に見つめた。
その開放の念は腕の周りを淡い光で包み込み、その光が集中していってガントレットの形態、剣も収納したままの状態で具現化された。
「そうそれ・・・Zランク確定ですね。って神器か・・・見るのは初めて、いや驚いた。っとと、失礼・・・Zランクの認定と登録は王都の本部のみですから、本部に行ってくださいという事です」
「なるほど・・・」
一つ首肯を返しながら神器を指輪に戻す。
それを名残惜しそうに見ながらこのオッサンが話の続きを話し始めた。
「それと、この紙を持って受付に渡してください、仮ですがギルド証+S+ランクが支給されます」
そう言いながら書類の2枚目を一部分切って渡してくる。
「そのギルド証は仮ですので王都のみで有効ですが、正規の物は身分証明及び国内全ての通行証となりますので失くさないように、お願いします」
了解の意思を告げその紙を受け取り立ち上がって、退室しようとドアに向かったところで声をかけられた。
「ぁ!そうそう、王都に行きながら1つ仕事をしていきませんか?」
「・・・は?」
突然の話に振り返り、むさいオッサンの顔を見つめると私が興味を持ったと勘違いしたのかその続きを話し始めた。
その顔はいい事を思いついたと言わんばかり。
「いや実はね、今朝早くに入った依頼なんですが生憎とメンバーが出払ってて困っていたんですよ」
「・・・・・・」
黙って聞いているとそのまま続きを喋りだすむさいオッサン。
「任務ランクはB+。任務内容はちょうど明日王都に向かう商団の護衛、報酬は準備金として5エルと成功報酬として45エルの合計50エル。どうです?」
「・・・・・・・・・・・・」
まだ黙っていると何を思ったのかその任務の背景なんて語りだして・・・まだあんたの名前も役職も知らないんだけどねぇ・・・。
「ちょっと前からなんですけどね、ココから王都に向かう街道沿いの山に賊が陣を構えたらしくて・・・王都にはこちらの余剰戦力がない事と合わせて討伐要請を出したんですけどそれっきりまるで音沙汰がない・・・支部としてもメンバーを派遣したいのですが最近のアレで今の現状を維持する事で手一杯なんですよ。仕方なく商団の護衛を斡旋して対応している現状でして・・・受けてもらえませんかね?」
「そしてZランクだと思われるから、あわよくば討伐してしまうだろう・・・と?」
外見はともかくとして、あの喋り方からこのオッサンの思惑を推測して言ってみたんだけど・・・
「・・・・・・いやぁあははは。」
図星だったらしい。
冷や汗ダラダラとまではいかないものの、それなりに図星を突かれるとは思っていなかったらしく慌てている。
喋り方が知性的だったのは仕事上のスキル、という事か・・・。
「・・・そもそも、予想はつきますけどあなたが何者かも知らないのにそんな話をマトモに受けると思います?」
「ぁ・・・そうでしたね、大変失礼しました。私はこの国営ギルド、ファスゴト支部の支部長マッコイ・アルフォマと申します」
さらに慌てて自己紹介してくれたマッコイさんだったが、フト気付くと横の壁を見てため息をつく私の横顔を期待するような目で見ている。
「・・・で、受けてくれませんか?と?」
「出来れば、是非に」
「・・・はぁ」
もう一度ため息をつきつつ考えてみる。
まず、護衛の仕事は何事もなかったかの様にすんなりと終わるだろう。
というか、すんなりといかなかったらそれはそれで問題。
それと、別にがめついわけではないが報酬は討伐も含めると明らかに少ない。
ここは今から交渉しないと怪しまれるかもしれない。
今の私は田舎から出てきたばかり、ギルドメンバーにもなったばかりだ。
田舎者だとはいえ私のギルドランクから推測できる強さで多少の金は持っているだろうし、そうなると相場というものもある程度理解しているって事に行き着く。
もし怪しまれなかったとしても、どんだけ田舎者なんだと侮られてしまうだろう。
それに本部からの音沙汰がない事から考えても、ある程度戦力を整えたい・・・それほど梃子摺る相手である可能性が高い。
まぁ、護衛任務が何事もなく終わって賊と出会わなければ討伐のしようがないか・・・。
だとするのなら、討伐依頼の方はもし遭遇し成功したらの事後依頼受諾にしてもらわないと。
「・・・伺いたいのですが?」
「はい、なんでしょう?」
「賊の討伐はやった後からでも報酬は貰えますか?」
「あぁ、はい。その場合は証明出来る物を持参して頂くという事になります」
「証明できる物、ですか・・・」
証明できる物・・・として一番に思いついてしまったのが生首とグロい物だった。
そんな物だったら正直やりたくはない。
そう思ったのが顔に出たのかどうなのか・・・
「・・・別に身体の一部を持って来いとは言いません、A+ランクからの高ランクギルド証には記録機能が付いています。記録開始時に登録された名前や通り名を声に出して頂ければ記録を開始し、終了時には記録停止と言って頂ければ停止します」
「・・・なるほど、じゃぁ+S+の私のも?」
「はい、仮ギルド証ですがそれはあくまでZランク認定を貰い登録されるまでの仮という意味で実際には+S+ランクとして認定登録されています。先程申した王都までの通行証という限定以外は正規の+S+ランクギルド証に則った物になります」
「なるほど、A+ランク以上のメンバーは依頼を受ける、現地に赴き依頼を遂行しギルド証にその記録を記録する、帰ってきてその記録を見せてから報酬を受け取ると」
「はい、その様な流れになっております」
・・・一定の理解を私が示した事で期待が膨らんだのか、先程よりも期待のこもった笑顔で答えられてしまった。
「・・・では、」
「はい」
相槌はやっ
「・・・、護衛中に遭遇して討伐し記録したとする、その後王都で賊討伐の依頼を受けてそのまま記録を見せ護衛の報酬とは別に討伐依頼の報酬を貰う・・・という事であればその依頼、受けましょう?」
ちょっとだけ、私を騙そうなんて無謀ですよ的な顔をしながら答えたらマッコイさん、しまったと言わんばかりの顔で弁明を始めた。
「ぁ、すみません・・・先程のお話は護衛報酬のみで討伐もさせてしまおうというわけではなかったんですよ、討伐の方は護衛とは別に依頼が出されていますので、ご安心下さい」
「そういう事にしておきましょうか」
捨て台詞的にそう呟いてその飾りの一切ない部屋を出た。
少し空いてしまいました・・・ちょっと前に10日ぐらいに1話ペースですねぇなんてココに書いてたのに^^;