第8話
店を出て、ギルドへ歩き出して暫くした時にフト気付いた。
「服と武器が合わないな・・・」
気付く元となったのが他の通行人で、すれ違う人すれ違う人がみんな変な目で私を見ていたからだったけど・・・
仕方がないので人気のない所を探して寄り道をする。
すいすいっと狭い路地を選んで歩き、ちょうどいいスペースを見つけて服装を変える。
「コレでよしと」
今度は中世ヨーロッパの軍服をデフォルメしたもので、その上に日本の羽織をこれまた加工したものを合わせた。
羽織を伸ばして風を孕む様がちょっとお気に入り。
色は黒と赤を基調として、服装と刀を合わせて全体的に見ても違和感はない感じ。
まぁ、この世界の人から見るとちょっと粋がった新進気鋭のハンター・・・っぽいかな?と思う。
その服に満足して、来た道を戻る。
「・・・ん?」
戻ろうとしたのだが・・・
というありがちなパターンをちょっと期待してみたんだけど・・・なぁ・・・
「何事もなく・・・か・・・」
普通に人と会う事もなくさっきの通りへ出てきてしまってちょっとつまらない。
今度は変な目で見られる事はなく、というか皆が避けて通るので別の意味で見られているのかもしれないが・・・。
「まぁ、いいか」
そのまま放置してギルドに着いた時にちょっと納得した。
自分でも粋がった新進気鋭のハンターっぽいとかなとは思ってたけど、予想通りに近かったようでプライド高そうな人達しかそういった見た目は居なかった。
大体は小汚いいかにもと言った感じの人や見た目に拘らない実力主義っぽい人達。
それに納得して中に入ると・・・まぁー皆さんが皆さん綺麗な統一意識で私の事を見て、品定めをしていく。
それこそ実力主義っぽい人達も使えるかどうか最低限の見極めしてるっぽいし。
そのままそういった人達を無視してカウンターに近づき、そこに居た二十歳ぐらいの女性従業員に声をかける。
「あのー」
「あ、ようこそ国営ギルドへ・・・、・・・・・・オーダーですか?エントリーですか?・・・オファーでしょうか?」
彼女的には苦渋の回答だったらしく、書類を書いてて見てなかった自分を悔やんでそうだ・・・。
彼女の頭があがってパッと私を見て、知らない顔→この地方に居るギルドメンバーじゃない?→じゃぁ登録者?→服装や装備から見てありえない→まさかの依頼者?・・・と考えたのがよく分かる。
「・・・ぁー、エントリーだ」
周りに居た他のメンバー達も似たような考えだったのだろう・・・
「ぶはっエントリーかよっ!」
とか・・・
「見た目から入りすぎっ!」
とか・・・
「ぉいぉいぉい・・・」
みたいな声がココまで聞こえてるよ・・・
「ぁ・・・はい、エントリーですね・・・ではこちらの用紙に記入をお願いします」
そう言って渡された1枚の紙。
よく見ると初心者もコレで安心みたいな親切文面、なわけもなく。
「これって、名前とか住所とか書きたくなかったり無くなってたりしたらどうするの?」
「基本的にきっちりとお願いします」
「私の住所は2週間程前に無くなったんですけど・・・」
「っ!!!で・・・では今住んでいる所を・・・」
「宿?」
「あ〜ぁ〜・・・そうですよね・・・すみません・・・ぇーと・・・」
ん、かなーりテンパっていらっしゃる。
ホントこの人は顔に出て分かりやすい・・・。
今もぁーこの人あそこの出身なのねーとかいけない事聞いちゃったーとかあぁそんな事気付けよ私とかちゃんと答えないとーって考えてるのがよく分かる。
逆に私はこれでやっていけるのかと心配してしまいそうだ・・・。
「後から変更が出来るのなら白紙で・・・それと名前ってフルネームじゃないとダメ?」
「ぁーぅー・・・変更は営業時間内か更新の時にも出来ますのでもう白紙でいいです、名前は先程も言ったように基本的にきっちりで・・・」
「基本的にって事は・・・ん、コレでいいわけだ、職業は・・・結界術師、ハンター希望と・・・あれ?」
ちょっと悪戯心で追い立てるように会話して、読みながら聞きながら記入してたんだけど、ちょっと失敗したかもしれない。
用紙の上半分が書き込んで提出する所、下半分は上と同じ番号が書かれた控えみたいな物でどうやらそれを持ってランク判定とかギルドメンバー証明カードとの引換券にするみたいだけど・・・調べる事とかが全部Eランクになってる・・・。
「ぁ〜もしかしてだけど・・・これって初心者用の用紙?」
私は法定登録をしに、ココに来てるわけだからほぼ確実にランク判定しなければいけないんだと思う。
「はい?そうですよ、・・・・・・あっ!・・・もしかして・・・」
「うん、もしかしなくても法定登録に来たんだけど」
とそこで、まだ聞き耳をたててたっぽい奴や聞こえてしまった奴が驚いて仲間らしき人に話してるのが視界の隅に入ってしまった。
「ぉい、あいつ法登(法定登録の略)らしいぞ」
「・・・マジで!?あいつが?」
「やっぱりなぁ〜俺はそう思ってたんだ」
とか・・・何もしなくてもギルド中に広まるって・・・
「ぁ、すみません、そうでしたか・・・(そうならそうといってよっ!)」
受付の女性はこれまた分かりやすい顔で法定登録用の用紙を出し、私との会話が面倒になったのか自分で書き写し始めた。
「・・・、名前はケイ・・・はい、コレ渡しておくわね。それじゃぁそこのドアから入って、居る人間にその紙の項目埋めてもらってください。」
渡してもらった紙を持って言われたドアの方に歩いていると・・・どうやらココではお約束を体験出来るらしい。
妙にニヤニヤした、法定登録がギルド中に広まった後ギルドに来た3人組がそのドアの前で私を見ている。
わざわざドアの近くに陣取って、退かさないと中に入れない。
他の人間も、今から起こる事に何かしらの期待を抱いているようで・・・見てないふうを装いながらこちらに注意を払っている。
受付の女まで・・・今まで女性って言ってたけど、この行為でただの女呼ばわり決定。
その中を私はドアに向かって歩き・・・
「・・・そこ、ジャマ」
逆に挑発してみる。
「あぁん?躾のなってねぇガキだなぁ〜、先輩に向かってなんだその口の聞き方はぁ?」
「あはは、そう後輩を苛めるなよ、泣いちゃうじゃないか」
「がははは、ちげぇねぇ〜」
ん、予想通りの反応。
逆に予想通り過ぎてあまり面白くない・・・というか、元世界の旧日本人が年齢より若く見えるのはこの異世界でも同じらしい・・・ケイナもそんな感じだったし。
「はぁぁぁぁ・・・どこにでも居るんだなぁ〜こういうどうしようもない人間は・・・」
「んだとガキがっ!」
「ん?苛められたいガキだったのか・・・」
「身包み剥がされてぇんじゃねぇ?」
三者三様に一言言って戦闘態勢に入るこの人達。
予定調和ながらも乱闘になるのかとニヤニヤしてたり面白そうにこちらを見ている他の人。
ギルドの受付嬢はまたか的な雰囲気で一瞥をくれた後自分の書類仕事に戻っている。
「さてと、今からお兄さん達が世間を知らないお子様に躾をしてやるから、大人しく躾けられろ?」
と言いながら右フックで殴りかかってきた真ん中の・・・便宜的にクズA。
それに対応するように左ミドルキックの体制になる向かって右側のクズB。
多分、殴られて右側に吹っ飛んだ所を蹴ってクズCの方へまた吹き飛ばし・・・クズCが待ち構えていると言った寸法だろう・・・
ガツッ!
大人しく殴られてみたが、ただ普通に殴られるような事は痛いからするわけもなく。
「っ!痛えっ!」
皮膚表面ギリギリに障壁を張って微動だにせずに防ぐ。
吹っ飛んできた所を狙って放つつもりであったろうクズBの左ミドルキックは繰り出せぬまま構えただけに終わり、クズCは微妙にたたらを踏んでいる。
「・・・で?」
そして私は、そのまま一切動かず動かされずそこに立っているわけで。
「こ、この糞ガキがぁっ!」
クズAは痛めた右手をかばったのか今度は左ストレート。
ガッ!ポキッ
無論、先程と同じ結果になる。
ハズだったんだけど・・・
「ぐわっ!・・・お・折れっ!?」
それじゃぁ面白くないからって障壁の面を加工して人差し指から小指まで4本折ってみました。
「おい!?てめぇっ!!」
「このやろうっ!!」
指の折れたクズAを目の当たりにしてクズBが蹴りかかってクズCが殴りかかってくる。
ギルドの中、規定で武器の所持は認められているけど使用は禁じている。
入り口真正面の壁にデカデカと武器・攻性術を使ったら即免停、相手の状態によっては即取り消し&捕縛と書いてあった。
このクズ達のような血の気の多過ぎる輩がソコソコ居るからの対処だろう。
だからこのクズABCは徒手だし、私も防御術しか使っていない。
そうしてる間にクズBとCも障壁に骨を折られ、痛みに悶えつつ私から距離をとってきた。
「・・・物理障壁を殴ったぐらいで骨折れるなんて・・・弱いねあんた達」
「くそっ・・・おい受付のねーちゃんっ、こいつ絶対攻性術使ったぞっ!」
痛みに耐えつつそんな事をのたまったクズA。
「いいえー、ギルド内で攻性術が発動されればアレが点いて鳴るのはご存知でしょう?」
聞くに堪えない負け惜しみをそう言ってある一点を指差しながら一蹴する受付嬢。
アレ、と受付嬢に指差された物を見てみると・・・受付から見やすい柱にくくりつけられた台に載った一本の火の点いてない蝋燭?
「術加工された蝋燭か・・・」
多分、攻性術の術波動を検知して発動するタイプなのだろう・・・
そこから視線をクズ共に戻し、さらに挑発。
「・・・さて、まだやるのか?クズABC・・・?」
「・・・この糞ガキっ、ぶっころすっ!!!」
頭のネジが何本か飛んでいってしまったのか・・・左手の指を折られたクズAがキレて、佩いていたグラディウスっぽい剣を抜いて斬りかかってきた。
「ぁ、免停・・・」
「ぅ・・・」
ボソっと独り言を言ったんだけどクズAにも聞こえたようで、振りかぶった所で動きが止まった。
なんかかわいそうになってきた・・・
「はぁぁ、あんた達・・・折れたところ見せな」
そう言って半ば無理やり折れたところをつかんで抵抗出来ないようにして治癒術をかける。
「・・・終わり、次・・・次・・・よし、まだくっついたばかりだ。3日ぐらいはあまり動かさず大人しくしていろ?」
「あ・・・あぁ、分かった・・・すまん」
「ぁ〜・・・すまなかった・・・」
「す・すまんなぁ・・・」
ほぼ無理やり捕まえ、痛みで押さえつけながら治癒術をかけたのに素直に謝ってくるクズABCを少しばかり訝しげに見て・・・あぁと合点がいった。
治癒術を扱える人材、それはどこの国でも貴重な存在だ。
医術の発達している国でも、やはり需要は尽きない為にそれなりの処遇を受けている。
扱える人材の乏しい国ではそれこそ貴族並の待遇を受ける事もあるのだ。
それに戦闘中など、その場で傷を癒せるのは治癒術を使える人だけ。
よく使われる薬ではどんなに良い物でもせいぜい鎮痛剤か止血程度、術薬なら骨折も治せるだろうがとても高価。
術が使えるかどうかは術資質の量などには限らず、完全に素質に支配されているから少ない。
その事をほぼ一番良く知ってる[ギルド]のメンバー、だからこその反応だろう・・・。
ケイナも私の首筋の傷を治した時に目を見開いて驚いてたし。
「ん、じゃ退いてくれる?」
お約束を味わってみた私は普通とは違う自己流のお約束の終わり方に満足して、ドアを開けた。
あけましておめでとうございます。
年、明けての初投稿です。