あの色を留めたい
絵筆を握って何時間になるのだろう。下書きは順調にいったのに、いざ色をのせようとしたら、思った色が作れない。
あの紅の色が欲しいのに……。
何度もパレットに赤い絵の具を出して、これに少し黄色を加えたり、青を加えたりして、色の調節をする。それでも気にいった色が出来上がらない。
ひらり
目の端に一枚の花弁が落ちていくのが見えた。
あら、いつの間にか曼珠沙華は花弁が萎れてきていたわ。色もくすんで少し黒っぽくなってきていたの。これでは私が描きたい色ではないわね。
私は萎れてしまった花を持つと、扉を開けて庭へと降りたった。そこには今を盛りと曼珠沙華が咲いている。
そのそばに近寄った私は、花を見て首を傾げた。
違う。
私が描きたいのはこの色の曼珠沙華じゃない。
そう、あの日に見た鮮やかな紅。
ウフフッ
そうだわ、なんで気がつかなかったのかしら。もう一度あの日と同じようにすればいいじゃない。
切り付けられたあの人の首からほとばしる、真っ赤な鮮血。その血を浴びて艶やかに咲き誇る曼珠沙華。
切り付けた姉様も返り血に染まって、とても綺麗だった。
ああ~。思い出しただけでゾクゾクするわ。
あの日の再現をするのなら、やはり恋人同士でなくてはダメね。
ウフフッ
そうだわ。あの二人にしましょう。あの二人なら思い合っているのですもの。
私は萎れた曼珠沙華を、咲き誇っている曼珠沙華の奥の方にポイッと投げ捨てた。
そして、曼珠沙華に笑いかけた。
待っていてね。すぐに去年と同じにしてあげる。そして綺麗なあなたたちを描いてあげるわね。
曼珠沙華に背を向けて歩き出した私の後ろで、風もないのにザワザワと曼珠沙華が揺れたのだった。