異世界召喚の真実
いつも通り起きて、いつも通り学校に行って、帰ってきた後なんとなくテレビを見ていた時のことだった。
テレビが光り出したのだ。
どういう現象があり得るのかと、やばさが天元突破して、逃げられないなあと、一周回って冷静になったのでそんな考察をしているうちに意識を失った。
痛みはなかった。
痛みはなかった。
本当によかった。
爆発オチなんてサイテーと言わないですんだ。
本当によかった。
「あっ起きましたね」
ここはどこだろうか、見覚えはないが普通にどこの豪邸の一室だろうか。
「端的に言ってあなたは召喚されました」
こちらが混乱しているのにお構いなく話は進んだ。あっそうですか。
開き直って状況に流されよう。
「召喚っていうと、昨今あちこちで流行ってるあれですか」
「そうですね最近は話が随分と早くなりました」
それが流行ってものですよね。
「ははは、あれですかチートとか適当に着けてなにして来いって感じですか」
「そうですねチートとか適当に着けるので、魔王倒して来いって感じですね」
「神様超親しみやすいですね」
「ありがとうございます」
「ところでお名前は?私は知っているかもしれないですけど佐々木健太って言います」
「ご丁寧に、ルーティーンという惑星で神をやっているリインフォースと言います」
どこかで聞いたことある名前だなと思わなくもなかった。
それは別にどうでもいいけれど、ただちょっと呼びにくいなと思った。
「リインフォース様お話があります」
「ああ、嫌なら帰れますよ」
「マジですか」
「マジです。三時間以内でお願いしますね」
マジらしい。融通ききすぎだな。
「召喚の条件って何ですか?」
「勇者になりたいことです」
「勇者?えっとそんなこと特に思ったことないような」
「えっ?」
「いや、無双ゲーとか、RPGの主人公やってみたいなみたいなことはそりゃ思いますけど、勇者とかいまどきなりたいと思うようなのいるんですかね?小学生とかなら分かりますけど、そもそも最近の作品に勇者ポジションはいても、勇者ってあんまりいませんし」
「ではなぜ」
「神様にもわからないんですか、なんかいい加減な選出方法ですね」
「そうかもしれませんね。今度調べておきます」
「それがいいと思います」
なんとなく言葉が止まってしまった。しかし言いたいことはまだある。
「異世界って、今ピンチなんですか?」
「まあ、魔王は放置しておくと生物大体滅びますね。たまに現地人だけで何とかすることもありますけど、そんなの天文学的な確率ですよ」
「やばいですね。というか魔王ってなんなんですか」
「魔法とかある世界線だと発生する魔力のよどみの集合体ですね。大体マイナスエネルギー主体で誕生するので基本的に破壊活動します」
「魔法とかなくていいんじゃないですかね」
「まあ、私もそう思いますけど、魔法ないと知的生命体がなかなか増えないんで安直に手を出す神が多いです。知的生命体の信仰によって神は存在が安定しますから」
「地球とかはぶっちゃけどうなんですかね」
「あれはもう十分育ったので。神は新しい世界を作っていたりしますね。十分すぎる力を蓄えて、なおかつ放置しておいても自動で信仰エネルギー入ってきますから。弱い神は新しい世界に引っ越したりしないと信仰値が減るばかりなのでたいてい逃げだしてますね」
「神様がいっぱいいるのって変じゃないですか?」
「すでに、よそに信者がいっぱいいる世界の創造神が、まだ弱い神に場所貨してたり、適当な偶像崇拝で新しい神が生まれたりするので、そうでもないですよ」
なるほどそんな裏事情が。
「ところで話は戻りますが、わざわざ異世界から呼んだりしないで、現地の人間に力を与えて魔王倒させたらいいんじゃないですかね」
「まあ、それでもいいんですが、異世界召喚した方がコストパフォーマンスがいいので」
「それはまたなんで?」
「魔王倒せるぐらい強化するのは非常に力を使うことは理解できるでしょう」
「そうかもしれません」
「そして現地人には、私の力ですでに強化が施されていますというか、生きとし生きるもの全部私の力が入ってます」
「はあ」
「つまり魔王にも入ります」
「え?」
理解はできるけども、できるけども、ええ?
「つまり現地人を強化するとは、津波を水鉄砲を超強化して何とかさせるということです。属性が同じなので物量で何とかさせるしかありません」
「異世界の人だと?」
「別の神の力を、私の力で強化して送り出すのでとっても省エネ。津波を原子爆弾で蒸発させるようなものです」
例えはいまいちわからないけど、倒した後も被害が大きそうなあたりどっちがいいともいえない気が。
しかし、一つ言いたい。
「神様良いですか?一応救おうという世界を救わせるために私のような人間は召喚してはいけません。救われる世界の人がかわいそうです」
「はあ」
「私は自分がクズだとは思っています。が、属性悪であっても悪人ではない」
まだ。
「しかし、力とか超欲しいです。与えられたとしましょう。あっさり道を踏み外します。かろうじて悪人でないロードを歩いている私は。ええ、自信を持って言えますとも」
「それ、自信を持って言うことなんですか」
「言うことでしょう。自己分析できてるってことですからね」
そこでまたしても、言葉が止まった。
今度口を開いたのは神さまでした。
「あなたは随分とまともですね」
「はい?」
「昔は良かった。この条件で呼び出せば無条件で善人だったというのに」
「えっ?」
何か話がおかしな方向へ進みだしたことを感じました。
「最近は娯楽が発展しすぎて、勇者になりたいとか軽い気持ちで言い過ぎ!力とかあっても普通につらい役目だから!家族と引き離されるんですよ!そこんとこ本当にわかってますかー!」
「いや勇者とか別に」
「だまらっしゃい!昔は良かった……。異世界の人困ってるんだろ?家族に会えなくなるのは残念だけどさ、何とかしに行ってくるよ。そう目じりに涙を浮かべて言った勇者はいずこに!だいたい、もっとチートくれとかこっちはすでに限界まで出してましたー。容量決まってるから、能力要求するたびに一個当たりの能力値が減るんですー!結果的に負けるとか馬鹿じゃないの!よけいな出費だったよ!死んだら多少減ってもほとんど帰ってくるんですけどー!」
「あの」
「だからこっちも最近は期待なんかしてませんー!ちゃかちゃか行って魔王倒して暗殺されて来いよ!神とか言っても倫理観割と信者基準なんですー!NTRとか強姦とかまじやめろよ!商売女で我慢しとけよ!」
「じゃあ、もちっとちゃんと選べよ!?自動抽出のくせに何言ってんの!?」
「人類どんだけいると思ってんだ選んでられるか!」
「いや、見つかるまで探すだけだから運が良ければ一発で見つかるんじゃ?」
「あほか!見てわかるか!」
「神だろ何とかしろよ!」
「神さまだってなできることとできないことがあるんだよ!むしろ、できねえよ!」
「おいぃ神ぃぃぃぃ!」
「けっ」
「ダメだこの神やさぐれてやがる」
「そんなに言うならてめえが決めろよ」
「ふむ、私ぶっちゃけ根っからの善人キモイと感じる派なので、ギブアンドテイクできそうな奴ら探せばいいんじゃない。あっ童貞はやめとけパトス迸るとどうなるかわからん」
「というと?」
「法律系の一流大学とかねらい目だな。善人はいなくとも努力はできるし腹黒そうだし、あんまり恨まれない程度にはどうにかやるだろ。あとなんか適当に死ぬ瞬間を狙うべきだな。で、気に入らなければ死ねと言って送り返す」
「採用!死ねと言って送り返すところが得に良いって、お前なに飲んでんの?」
「えっなんか酒が飲みたいなというか、しらふで話してられるかってなったら手元にあったぞ」
「そうなのか。まあいいや。わたしにもくれ」
「自分で出せよ。まあいいや。ほらいっぱい」
「おとと」
「いやー神様まで世知辛いとか世の中まじで死んでるよな!」
「はっはっは。マジな!」
そうして酒盛りをしている間に、帰還時間は過ぎていて、結局ちょっと魔王を倒してくることになるのだった。
そして、それからというもの、非常に低い確率で生まれる真の善人を除いて、異世界召喚は神のおもちゃの選定として神々の間で流行するのであった。