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41、戦闘前

 魔族だと誰かが叫ぶのが聞こえた。

 逃げろ、といった声と悲鳴も聞こえた。

 本来ならば俺達にとっても危険な状況で、今すぐ逃げるべきなのかもしれない。


 けれど俺は……動けなかった。

 否、目の前の“敵”からは逃げられない音気づいていたのかもしれない。

 この敵を倒さない限り“終わり”だと本能的に気付いていたのかもしれない。


 そこでクレアの声が聞こえた。


「い、急いで、町の兵を……いえ……ここでまず、食い止めなければ……」

「お供します、お嬢様」


 サラがそう言っていてそこでクレアが、


「ではお父様、援軍を呼んできてください。ここでは私も戦力になります。お父様よりも、私の方が力が強いですし」

「だが……」

「早く、一刻も早く!」


 クレアのその言葉にクレアの父親が走っていく音が聞こえる。

 その間に目の前が縦に切れたかと思うと、今度はその上下の線の端から横に水平に線が伸びていく。

 そして、そのまま四角く剥がれ落ちるように空間が砕けていく。


 代わりに現れたのは、黒い液体のようなものだ。

 どろりとした粘性の液体。

 黒い絵の具のようなそれが、ちぎれてぼとりと音を立てて地面に落ちる。


 それがいくつも積み重なってだんだんに地面に立つように何かを作り上げようとする。

 吐き気をもよおすような邪悪というべき感覚を俺は味わってすぐに、自身の能力をもって“選択画面”を呼び出す。

 何しろ今、目の前にあるのはゲームではなく現実だ。


 だから戦闘が始まる間しか能力が使えないといった制約はなく、イベントシーンによって状況説明的な何かがあるわけではない。

 それならば、“先手”を打つのみ。


「“白亜の鎖”」


 自分の中で知っている拘束系の魔法を呼び出す。

 真っ先に思い付いたものがそれだったから、それを選んだ。

 ゲーム内ではそういった敵を拘束して動けないようにして、こちらに攻撃をしてこれないような効果とともに、これは特別なゲーム内での能力として……分裂するタイプの敵を拘束するのにもつかわれた。


 そして俺はこの形を作っているこの怪物は分裂しそうだと思ったのだ。

 ほとんど勘だった。

 どのみちその場にとどめておくだけでも意味がある。


 そう思っているとそこでその怪物である“魔族”の足元で白い光が走る。

 そしてそこから光の鎖が伸びていきその“魔族”を拘束していく。

 “魔族”はよけるそぶりがない。


 この状態ではまだ動けないのか、それともこの程度の拘束ならば簡単に壊せると思っているのか。

 後者ならばさらに用心が必要だ。

 俺たちは戦闘を主として連れてこられたわけではないと聞いていた。


 だが遭遇してしまった以上、戦わずにはいられない。

 死してこちらの被害をできるだけ弱める必要がある。

 初めての戦闘。


 冷汗が俺に額に浮かぶ。

 用心しすぎてしすぎることはない。

 まだ“敵”は完全な力を持っていない。


 まずはこの“魔族”の攻撃を弱くするような魔法を使う。

 属性攻撃も含めて幾つもだ。

 その間にも“魔族”が形作っている。


 まだ何かを忘れている気がしてそこで気づいた。


「魔力などの残量を表示させよう。……能力も表示が可能か……それは今は無理と出ているな。魔力だけでもだすか」


 そう俺は呟いて、魔族の魔力と俺たちの魔力残量を表示させたのだった。 



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