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37、約束は破られる

 伝説の輝きと言われている“虹色の噴煙レインボーバースト”と呼ばれる技、とこの男は言った。

 だがその言葉は俺に覚えがあった。

 そこで寿也が、


「……俺、冗談のつもりだったんだ」

「大丈夫だ。俺も冗談だと思っていたから」


 そう寿也に俺は返しつつ、百合はというと、沈黙したままだった。

 やはりあの名前は百合にとっても予想外なのだろうと俺は思っているとそこで百合が、


「料理……伝説の技……さすがは異世界……」

「ゆ、百合、どうした?」

「どうした? ではないのです。伝説の技……そんなものが料理に付け加えられるなんて最高じゃないですか! 異世界、異世界ファンタジーは、こうでないと!」

「お、おう……」


 俺は若干引きながらそう百合に答えた。

 確か素材が光り輝いていた時は、目が死んでいたようだが、異世界のそういった伝説の技? だと分かるとそれはそれで百合の心を揺さぶる何かがあったらしい。

 とりあえず、そういうものかと俺が思っているとそこで……お味噌汁を飲み込んだグズダが、一滴残らずそれを飲み干してお椀を空高く放り投げて、


「認めん、認めんぞ……この俺が負けるなど……許さん。お前たち、この料理人を、倒せ! この町で一番の料理人は俺一人でじゅぶんだ!」


 そう俺たちに向かって宣言した。

 一斉に料理人達の数十人がこちらに向かって……包丁ではなく剣やら何やらを持ってこちらに向かってくる。

 この世界の料理人事情がどうなっているのか疑問を俺は持ったが、それどころではないとすぐに判断する。

 どうやら、


「約束は守るつもりはなかったようですね」


 俺の心を代弁したかのようなつぶやきとともに、どこからともなくサラが現れる。

 手には箒が握られていて、


「クレアお嬢様、皆様方は私の後ろに。犯罪者のお掃除も、メイドの業務の一つです。……私の専門はこちらですしね」


 そう告げるのを聞きながら俺は、


「お手伝いしますか?」

「……では、左の方をお願いします」


 サラにそう言われて俺は、“選択画面”を呼び出しながら百合に、


「わかりました。百合、敵の視界を頼む」

「は~い。どうせならあれをやってみようかな~」


 と言って百合は楽しそうに笑った。

 意外に好戦的であるらしい。

 そして寿也はとい言うと、


「寿也は攻撃ができないか。後ろに下がっていてくれ」

「……食べ物系でいけるなら、氷やお湯なんかは呼び出せるんじゃないのか?」

「……うまく範囲指定できるか? 後は形状も選択できるか?」

「……自信はない。やってみないと分からない」

「練習してからにしよう。それに、今は人数がこの程度だ。……能力探知を使おう。ここの料理人たちの能力が……これは、簡易評価の方にしておくか。体力と魔力だけ。ぽちっとな」


 そこで俺は魔法を選択した。

 俺を中心として周囲に光が走る。

 一斉に料理人たちとグズダの頭上に、体力と魔力が数字で表示される。


「な、なんだこれは」


 悲鳴のような声をグズダがあげる。

 だがその数値を一通り見てから俺は、


「グズダが一番体力と魔力が多いようだ」


 そう冷静に呟いたのだった。

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