34、謎の現象
危なく異世界で起こってしまった謎現象に、“名前”がつけられてしまうところだったと俺は気づいた。
それを何とか阻止しながら煮干しの乾煎りを終了する。
相変わらず謎の光の粒が放出されているが、放出があまりされないうちに作った方が美味しかったりするのだろうかと俺は考えてしまう。
だがそれは杞憂に終わった。
ちょうど俺たちの食材などを見に来た審査員の人がぎょっとしてから、数秒間一通り俺たちの並べた材料を見て、
「そうですね、これならば問題ありません」
そう答えて去っていく。
あまりにもせわしない動きだと俺は思ったが、気づけばすでに人が集まってきていて、いつの間にか時間になっていたようだった。
そこで先ほどケンカを売ってきた敵のグズダが、
「時間になったぞ! ルールは簡単だ! ここにいる審査員を新たな世界にいざなうような、これまでとは違う変わった美味しいものを示す、それだけだ!」
そう叫んだグズダだがそこでクレアが、
「もちろん、審査員を買収していないでしょうね?」
「もちろんだとも。だが……こう見えても俺は料理の腕に自信があるのだよ? そんなどこぞの料理人とも言えなそうな少年たちとは格が違うのだよ」
「どうかしら。彼らの作る“新しい味”に貴方たちは対抗できるかしら」
「ふん、真の料理人が持つ“輝き”を一般人が持っているとは思えないが……いいだろう、始めるぞ!」
そこでグズダがそう声を上げる。
同時に爆竹が破裂するような音がして、“はじめ”という審査員らしき声が聞こえた。
だから早速俺たちは味噌汁を作り始めたのだった。
まず俺は鍋に水を入れて、昆布を入れる。
だがここで俺は奇妙な光景を目撃する。
「鍋に昆布を入れたら金色に光っているんだが」
「わ~綺麗だね」
百合がそう答えるのを聞きながら百合のほうを見ると、目がどことなく遠くを見るようなものになっている。
ちょうど彼女はナスを切っているようだったが、着るたびに切り口が青白く輝いていた。
なんだろうこれは、と俺が思っていると寿也が、
「異世界に俺たちのものを持ってくるとこうなるのかもしれない」
「……さすが異世界。魔法もあるしそういったことはありそうだな。……というか、もう昆布は水で大きく戻っているように見えるが」
「長時間つける手間が省けていいじゃないか」
「……そうだな。これに煮干しを入れて、過熱をして……」
といったようにだしを作っていく。
その間隣では百合が切ったナスを素揚げにしている。
そのたびに、白い光が花火のように小さく上がっているように見える。
超常現象か何かを見ているような気分を味わいながらそこで俺は、
「うん、綺麗だ」
「え!」
「あ、いや、花火みたいだから」
「う、うん、そうだね」
焦ったように答える百合。
どうしたのだろうと思っていると寿也が、
「ふむ、これぞ……青春」
「何がだ?」
「いや、みんなで料理を作るところがだ」
そう答える寿也。
確かに共同で作業をするのは青春だなと思いながら更にだしをとって、ネギなどを煮込み、なすを入れて、味噌を加えて味を調整する。
その間料理が輝きを増していくが、たぶん気のせいではない。
不安に思いつつも味を見ると、
「うん、普通の味噌汁の味がする。……これで大丈夫なのか?」
「変わったものと言っていたし、きっと何とかなるよ」
そう百合が言うので、うまくいくといいなと俺は答えてから……とりあえず、お椀にお味噌汁を盛り始めたのだった。
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