異世界の神様はロリババアでした…
街へ初デートに行くことが決まった俺たちは早速、家を出て歩き始めた。今の身体能力で走れば一瞬で街へ着くにも関わらず、敢えて走らずにゆっくり歩いているのは当然、イチャイチャしたいからだ。だがこれを提案したのは実は俺ではない。そう、リリアなのだ。
正直これを提案された時は驚きでいっぱいだった。だが提案してきた時のリリアの赤く染まった顔や、「……ダメ、かな?」という少し悲しみの入った声を聞いてしまったら、もう断るわけにはいかないだろう。まあ元々断るつもりなんてなかったわけだけど。
そうして今、家から歩き始めて1時間ほどが経った。この頃になると俺もリリアも、わざわざ歩いて街へ向かおうとしていることを後悔し始めてくる。
「チートのおかげで疲れないのは良いんだが、こうも景色が変わらないとなあ…」
そう、問題は全く景色が変わらない事だ。景色が多少なりとも変われば、それを話題としてリリアと会話を弾ませ、時間を潰すことができる。だが、辺りは一面草しかない。こんなのでどうやって時間を潰せというのか。
「確かに初めは楽しかったけど、流石にそろそろ僕も飽きてきちゃったよ…。あっ、そうだ!この間にコウキ君、スキルでも選べば?」
「ああ、そういえばすっかり忘れてたな。」
そんな中リリアが言い出したのは、スキル選択についてだった。確かにこの世界に来た日以降は、これについて全く考えていなかった。だがそうだよな、よくよく考えればスキルは引き篭もり用しかとってないから、ポイントはかなり余ったままなんだ。
そう思ってスキル選択画面を開いてみるも、そこに映るのはズラッと並んだスキル達。さてはこれを全部確認してそこから選ばなければいけないというのか。確かに時間は潰せるが、流石に面倒すぎるな。
「なんかオススメとかってある?」
「うーん、僕も一応地球の神だからあんまり詳しくないんだよねー。とりあえず剣に関するスキルでもとってみれば?せっかく僕のあげた剣があるわけだし。」
「ああ、これやっぱりお前がくれた剣だったのか。良い趣味してるな。」
「ふふ、でしょ?それ、見た目だけじゃなく性能も凄いからね?」
これまた完全に存在を忘れていたがそういえば青い剣を持っているんだったな。この如何にも強そうで、かつかなりかっこいいこの剣。しかしどうやら見た目だけでは無いようだ。
「それはどんなに硬いものでも切れるんだよ。しかも絶対に壊れることもないから、修理がいらないんだ。」
「おいおい最強かよ。マジでスキルなくても無双できそうなレベルだな、それ。」
「まあでも剣が一流でも扱う人間が三流なら、力を存分に発揮できないしね。」
「それもそうだな。じゃあひとまずこの剣技スキルをレベル5でとることにしようか。」
まあそんな感じでその後もリリアと色々と話し合い、結局ポイントを全て使ってスキルと魔法をとることにした。おかげで時間を有効活用でき、それが終わる頃には街まであと少しのところまで来ることができた。
ちなみに俺がとったスキルは以下。()はレベルだ。
創造(5)
安眠(5)
剣技(5)
体術(5)
気配察知(5)
火魔法(5)
回復魔法(5)
状態異常耐性(5)
マジックボックス(5)
異世界言語(5)
この十個だ。まあ見ればなんとなく効果は分かるだろう。
ちなみにマジックボックスとは、レベル5にすることによって、どんなものでも、またそれがどんな量でも入れられるようになる袋のようなものだ。ただ入る量はレベル依存で、5でなければその収容量は有限となる。またその袋に実体はなく、空間に穴を開けるようにして物を入れる。つまり街中で誰かにすられる危険性が無いわけだ。なんて便利なんだろうこのスキルは。
そして異世界言語スキル。正直俺はこのスキルを見たときに目を疑ったね。だってこれとらなきゃまず他の人と会話すらできないって事だろ?これ万が一見逃してたらこれからの生活が完全に終わってたよ。だって考えてみ?いくらチートを使って活躍ができても、実は周りの人と会話が全くできません、とかシュールすぎるだろ。それに普通そういうのは神様が無償でプレゼントしてくれるんじゃねえのかよ…。
そう思った俺はすぐさまリリアに愚痴を言ってみたのだが、「あ……完全に忘れちゃってた、てへっ?」と誤魔化されてしまった。まあ、可愛いから許した。うん、可愛いは正義だからな、仕方ない。
「まあとりあえずこれでスキルについてはひと段落だな。そういやリリアのスキルはどうなってるの?」
「僕も実は今決めてたんだー、こんな感じだよ。」
どうやらリリアもこのタイミングで決めていたらしい。そう言って見せてくれたリリアのスキルは以下。
創造(5)
体術(5)
気配察知(5)
水魔法(5)
防御魔法(5)
回復魔法(5)
状態異常耐性(5)
マジックボックス(5)
料理(5)
異世界言語(5)
うん、なんか普通な感じだな。別に神様ということで何か特別なスキルがある、というわけでもないようだ。だが気になるのは料理スキル。これはなんだ、つまり料理が上手く作れるようになるスキル、ってことなのか?
「なあ、料理スキルって単に料理が上手く作れるようになる、っていうスキルなのか?」
「うん、そうだよ!って何その呆れた表情。」
「いやお前めちゃくちゃショボいスキル選んだんだな、と思って。」
「いやいや、料理は大事だからね?食が体を作るんだよ?」
「なるほど、つまりリリアは俺の健康のために美味しい料理を作ってくれようとしてるってことか。」
「……まっ、まあ、そうだね…」
「………えっ?」
……えっ?
あれ、今俺絶対、「違うよ!」的なツッコミが入ると思ったんだが…。マジか、マジだったのか。しかも俺のためにわざわざスキルを一つとってくれるとか…。
「お前は本当に可愛いな。」
「ひゃっ!?」
俺はそんな可愛いリリアについ手を伸ばし、頭を撫でてしまう。突然頭を撫でられたことで一瞬硬直してしまったリリアだったが、どうやら満更でもないようで、顔をさらに真っ赤にさせながら、気持ちよさそうにしていた。
「あぁ、幸せだな。なんか俺もう死んでもいいかも。」
「…ぅん。僕も。」
そんな俺たち二人の周りには、甘〜い空気が漂っていた。いや、もちろん物理的にではない。ただ甘々でラブラブだったというだけだ。
「ならお主らもういっそ死ぬのじゃ!!」
「「……!?」」
しかしそこで背後から聞こえてきた声は、その甘い雰囲気を盛大にぶち壊した。突然の事にびっくりして後ろを振り返ってみるも、そこにはなんと、誰もいない。
「お、おいなんだ、心霊現象か?今確かに声が聞こえたと思ったんだが…」
「う、うん、僕も聞こえた、一体なんだったんだろう?」
「いや、わしはここにいるぞ、ほれ、下を見ろ、下を。」
「いやしかし、妙なことを体験したもんだ。異世界といえどやっぱ心霊現象ってあるんだな。」
「いや、じゃから下を見ろ、と。」
「だねー。まあ珍しいことを体験できて良かったかも!」
「あの、ごめんて。謝るから反応しておくれ?」
「まあ初デートで心霊現象が起きるなんて、不吉以外の何物でもないけどな。」
「あの……」
「もー、もっとポジティブに考えようよ?」
「ホント謝るから反応して!?」
そんな心霊現象(笑)をスルーして話を進めていた俺とリリアだったが、流石に心霊現象さんが可哀想になってきたのでやめる。
そしてしぶしぶ、その声がさっき言っていた通りゆっくりと下を向いてみると、そこにはなんと、涙目でこちらを見ている小っちゃい女の子がいた。
見た目年齢はおよそ12、3歳程度というところか。金色の髪を1つにまとめ、なんとも着物チックなものを着ている。
「どうした君、なんで泣いてるの?」
「お主らのせいじゃろうが!!」
「ん?俺らなんかしたかな?リリア。」
「んー、僕は分からないかな。」
「お主らホントドSじゃのう!そこの男はさておき、リリアはわしのことを知っとるじゃろうに!」
「え、マジで?リリア、こいつと知り合いなの?」
「あはは、まあね。」
どうやらリリアはこの女の子と知り合いらしい。知り合いなのに存在を丸ごとスルーするとは、流石だな。そういえばさっき俺も含めてこの子にドSとか言われていたが、確かにリリアはドSかもしれない。正直初めて神としてのリリアに会った時は少しそういうイメージがあったし。しかしそんなリリアは分かるとして、俺までドS扱いされたのは誠に遺憾だ。
まあとにかく、ようやく反応してもらえたことでこの子の機嫌も治まってきたようなので、ひとまずリリアに彼女を紹介してもらうことにしよう。
「じゃあ紹介するよコウキ君。この子はこの世界の神様、ツクノだよ。」
「うむ、よろしくなのじゃ。コウキ、と呼べばいいかの?」
リリアの知り合い、ということで薄々察してはいたがやはり彼女は神様だったらしい。それにしても、全然神様っぽくねえな、こいつ。
「ああ、それで頼む。こちらこそよろしくな。じゃあ俺は、ロリババア、と呼べばいいかな?」
「いい訳ないじゃろう!普通にツクノと呼ばんか!」
彼女のあまりの神様っぽくなさに、俺はついロリババアと言ってしまっていた。自分でもびっくりした。だがこれは仕方ない。ついそういう言葉が出ても仕方がないと思えるほどのロリババアっぷりを見せているのだ。その小学生とも思えるその小さな体で、ババア臭い言葉を使いながらプンスカと怒るその姿は、まさにロリババアとしか言いようがない。
「えー……」
「なんでそんな残念そうなのじゃ!むー、そんなに嫌ならまあ仕方ない。好きなように呼べ。」
「じゃあツクノで。」
「なんでそこはロリババアじゃないのじゃ!」
「…え、お前そう呼ばれたいの?ドン引きなんだけど…」
「そんなわけないじゃろうが!もうこいつ、嫌じゃ…」
しかしロリババアネタで彼女を弄っていたら、どうやら嫌われてしまったらしい。こんな可愛いロリババアに嫌われてしまうというのは残念なものだ。だが、よく考えてみれば嫌がるこいつをいじりまくるというのは中々悪くなさそうだ。いや、むしろ弄りがいがあって良い。
「それで、ツクノはなんでここに来たんだ?」
「それはこのリリアのせいじゃ!わしが外部からの干渉を嫌ってるのは知っておるじゃろうに、異世界人なんかを連れて来るもんだから!こうして様子を見に来たのじゃ。」
そういえば確かにリリアはそんなことをはじめに説明していたな。その説明を受けた当時はリリアのことを最低なやつだと思ったが、実際にツクノを見ると、これはまた話が変わってくる。ツクノには可哀想だが、これなら嫌がらせをするのも頷ける、というものだ。
「あー、ごめんね?ツクノ。でもツクノしか頼れる人がいなかったんだよ。」
「むー……ま、まあ、それなら許そうかの。」
うわ、チョロい。ツクノさんめちゃくちゃチョロい。なんか少し話した感じでもう分かってしまったが、こいつ最高にチョロくて可愛いな。まさに弄られるためだけに存在しているかのようだ。
まあかといってこれ以上弄るのは可哀想だし、少し話を戻すことにでもしようか。
「それにしても、なんでさっきは俺らに死ね、なんて言ってきたんだ?」
「それは……」
「それは?」
うん、なんか大方予想はつくけど一応これを聞いておくことにしよう。まあほら、万が一とかもあり得るしな。そもそもツクノは一応神様だから俺とは考え方がだいぶ異なるかもしれないし。いやまあ、ないと思うけど一応な、一応。
「お主らがイチャイチャしまっくてて、すごいムカついたからじゃー!」
ああ、うん、やっぱ、予想通りだったわ。