ヒキニートはやっぱり異世界でもヒキニートでした…
「…僕を、怒らせたね?」
どうやら相当怒っているらしいリリアのその言葉には、並々ならぬ殺意が込められており、少しでも返答を間違えればすぐにでも殺される、そう思えるほどの緊張感があたりを支配していた。
「そ、その、ごめん?コンプレックスだったの?」
「…………」
あ、あれ?返答間違えたかな?何だ、一体俺はどうすれば良かったんだ。というかそもそもヒキニートだった俺が神様のご機嫌取りなんてできるわけねえだろ!
いや、考えろ俺。とりあえずフォローをしてみればいいんじゃないか?確かにリリアは一見男の子にしか見えないほど慎ましい体を持っているが、それは別に何も悪いことじゃない。むしろそれに対し興奮を覚える輩がこの世に一定数いるのも事実。そこを突いてみるか。
「お、俺はお前の体好きだぞ?慎ましい胸も、体も、大好きだ!」
「………」
どうやら俺はまた返答を間違えてしまったらしい。というか俺の発言よくよく思い返してみればこれただの変態だな。地球なら捕まっていてもおかしくない。
「……ほ、ほんとに?」
「…えっ?あ、ああ、もちろん。大好きだぞお前のこと。」
確実に返答を間違えたと思っていたので反応が返ってくることに驚いてしまったが、どうやら返答を間違えたわけではないらしい。俺の言葉を聞いたリリアは顔を真っ赤にして、俯いている。あれ、これかなりまずい勘違いをされてるんじゃないか。大好きだぞお前のこと、ってただの告白じゃねえかよ。これでフラれたら俺もう立ち直れる気がしないぞ?
「……な、なら、許す。」
そしてリリアがそんな消え入りそうな声で呟くと同時に、辺りの風景は元に戻り、リリア自身の姿も元に戻った。初めて会ったときと同じ、少年のような姿に戻ったのだ。
うん、まあリリアの機嫌が治ったのは良いのだが、何というかすごく気まずい。別に告白したわけじゃないのにいかにも告白したかのような空気が流れている。これはまずいな、何か話題を変えなければ。
「そ、そういえばさ、もしかしてリリアってもう俺の心が読めなくなってる?」
「う、うん、そうだね。異世界に来たことで力がだいぶ制限されちゃったんだ。」
そう鼻をさすりながら話すリリアはもう元の調子に戻ったようだ。やはり強引に話題を持ち出した選択は正しかったと言えよう。あれ以上気まずい空気の中耐えるなんてヒキニートの俺には不可能だしな。
「制限されてあれって、お前おかしいだろ。」
「でも今なら多分コウキ君の方が強いと思うよ?」
え?今なら俺の方が強い?マジで?さっきまで殺意をガンガンに飛ばしてたリリアよりも?ということは何だ。俺はもうリリアに怯える必要は無いということなのか。
「お前ほんとにチートくれてたんだな。」
『ええ、神様はご自身の力を削ってまでコウキ様にチートをお与えになったのですよ。先程は異世界に来たから力が制限されてるとおっしゃっていましたが本当は…』
「ちょ!?もう、アナ!要らんこと言わないでって言ってるのに!!」
「おいおいリリアマジかそれ。」
「い、いや、その、違うんだよ?ちょっと与える力を間違えちゃって…」
『神様ともあろう者がその程度の事を間違えるなんてあり得ませんから。』
「ちょっと!?なんでアナはいつも余計なことばかり言うの!」
するとまた唐突に俺を除いてリリアとアナの会話が始まった(2回目)。
アナの言っていることが真実だとするならばリリアは自分の力を代償としてまで俺にチートを与えてくれたらしい。なんかさっきから不思議に思ってるんだけど、リリアからの好感度がカンストしてる気がするのはなんで?出会ったばっかだよね?それとも単純に俺が勘違いしちゃってるだけ?いや、マジでその線あり得るな。俺が小学生の時なんて何度勘違いで……いや、この話はやめよう。古傷を抉るのは良くない。
そんな風に俺が昔のことを思い出しているうちに、どうやら彼女らの会話は終わったようだ。もうすでにアナの声は消え、代わりにリリアの疲れたため息のみが聞こえる。
「はぁー、はぁー。」
「どうしたんだリリア、息を切らして。」
「ちょっとアナを追っ払ってたんだよ、あのお邪魔虫め…」
さらっと天使のことをお邪魔虫呼びするリリア、さすが神様って感じだ。というかそもそもアナは何でわざわざリリアをいじりに来たのか。まあリリアをいじったら面白そうってのはこの短期間で少し分かってきたけどさ。
いや、そんなことはどうでもいいんだ。この際だし、いくつか疑問点を解決しておこう。これが解決できなければ好奇心で夜しか眠れなくなりそうだし。
「そういや、質問があるんだけど。」
「ん?なになに?」
「なんで俺なんだ?」
「…ん?何が?」
「今更だけど、何で俺が異世界に送られる事になったんだ?」
その質問に対しリリアは少し動揺した様子を見せた。なるほど、どうやら何かしらの理由がありそうだな。やっぱりランダムに俺が選ばれた、というわけではなさそうだ。まあそれさえわかれば一先ずはいいか。どうせ次の質問で何となくその謎も分かりそうなものだし。
「いや、それはやっぱいいや。なあリリア、俺たちって前にどこかで会ったことがあるか?」
「ないよ。そもそも僕は神様、君はただの人間でしょ?会ったことがあるはずがないよ。それにコウキ君は僕の性別を間違えたよね?過去にあったことがあるなら、そもそも間違えたりなんかしないはずだよ?」
俺の質問に対し、リリアは鼻をさすってそう答えた。ふむ、一理あるな。やはり相手が神様だというのがでかい。神様と過去に会った事があるなんてそもそもあり得なければ、あり得たとしても俺が忘れるはずがないからな。
まあとにかくこれでリリアと俺についてはある程度分かった。あとは最後、チートについてだ。
「じゃああと一つ。俺につけてくれたチートについて教えてくれるか?そういえば、今思い出したけど神界で教えてくれなかったのはどのみちここで教えてくれるからか。」
「そうそう、その通りだよ。それでは早速、僕が授けたチートについて説明しよう!」
そう言うとリリアは手を広げ、ドヤ顔をかましながら説明を始めた。うぜえ。一々行動がうぜえ。
「まず一つ目は単純に君の身体能力の底上げだね。これに関しては全ての能力を最大まで高めたから、この時点でもうこの世界で君に敵う者はいないね。」
「……えっ。」
「そして次、実はこの世界には地球と違って魔法というものがあるんだ。それには色々と種類があって、本来ならそのうちの三つくらいしか習得できないんだけど、コウキ君はなんと!全て習得済みでーす!パチパチパチ。」
「……」
「それとこの世界にはもう一つスキルというものがあって、例えば鍛治スキルなんかを持ってると鍛治がうまくできるようになるんだけど、なんと!コウキ君はこれも全て取得済みでーす!」
おかしい。その能力は確実におかしい。俺がこれまで読んできた小説でもこんだけ能力を与えられた主人公なんてそうそういなかったはずだ。だいたいは強そうなスキルを何個か貰ってそれを元に強くなっていく、みたいな感じだった気がする。何だか今日は俺の中の常識がどんどん壊れていくなあ。
「あ、ただ勘違いしないでね?習得するだけでは魔法もスキルも使えないんだ。習得したものの中から一定数選んで、その分だけ能力を得られるってわけ。ちなみに魔法にもスキルにもレベルってのがあって、最大は全て5。3くらいだとこの世界じゃ一流。5なら化け物だね。」
と、いうことらしい。まあそうだよな。冷静に考えて、全魔法全スキルが使えるなんてあり得ないよな。よかった、何だかすごい安心した。
「ということで君には今からスキルと魔法を選んで貰おうと思う。これは全てポイント制で、自分が今持っているポイントを使って選んでいく感じだね。レベルを上げるのにもポイントが必要になるから。その辺もよく考えて決めてね。」
「ポイントってのはどうやったらゲット出来るんだ?」
「ポイントは基本的にこの世界にいるモンスターを倒せば手に入るね。ただ今回は特別に僕がポイントをあげるからそれを使ってね。ちなみにステータス画面を開いてスキルって言うと選択画面が出てくると思うから。」
早速ステータス画面を開いてスキルと言ってみると、リリアの言う通り、選択画面が出てきた。画面にはずらっとスキルが並び、その隣には選択するのに必要なポイントの量が、画面の右上には総ポイント量が書かれている。そしてどうやら現在俺が持っているポイントは5000らしい。多いのか少ないのかは分からん。
「これって、後からでも決められるんだよな?」
「うん、もちろんだよ。ただ何個かは先に選んでおいたほうがいいんじゃない?」
「そうだな、じゃあ一先ず安眠スキルと創造スキルをそれぞれレベル5でとって…」
「へー、まず選ぶのが安眠スキルと創造スキルなんだ、珍しいね。それでそれで?」
「俺とリリアが住むのにちょうどいい広さの一軒家を創造。」
「…え?早速家?あれ、ま、まさかとは思うけどコウキ君…」
そう、そのまさかだ。ヒキニートたる俺にとって引き篭もれる家の存在は必須。そしてその家が出来上がれば当然、後は引き篭もるだけだ。まあこの世界に来て疲れたし、とりあえずは寝ることにしよう。どうせ電気もこの辺じゃ通ってないだろうから、ゲームも出来ないしな。
「ちょ、コウキ君!?いきなり寝るって…。お、起きてー!せっかくの異世界なんだよ?地球とは違ってもう引き篭もる意味なんてないん…」
チートで上がった身体能力によって、俺は一瞬でベッドに入る事が出来た。なにやらリリアが喚いているようだが、残念ながら俺の眠りを邪魔出来る者は存在しない。何故なら俺は安眠スキルレベル5を持っているからだ!
それでは、おやすみなさい…。
魔法やスキルを使うには一定のMPを消費する必要がありますがこの物語の主人公であるコウキはそのMPがチートによってほぼ無限に近い量あるため、魔法やスキルが使い放題です。
また、創造スキルで創造できるのは自分が細部までイメージ出来るもののみです。ここではコウキは自分の住んでいた家を創造しました。二階建てのいわゆる普通の一軒家だと思っていただければ…。
安眠スキルはその名の通り安眠できるスキルです。自分が眠りに入る時、自分の周囲にバリアを張り、眠りを妨げる一切を遮断します。周りのものが明確に自分に敵意を持っていた場合は自動的に対象の排除を行います。しかしこのスキルのみではそれが達成困難と見られた場合、そもそも眠る事が出来なくなってしまいます。