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どうやら触れてはいけない禁忌に触れてしまったようでした…

 

「じゃあね、コウキくん。せっかくなんだから、ちゃんと異世界を楽しむんだよ?」


 神様のその言葉を最後に、俺は一度意識を手放した。それからどれくらい経ったのかは分からないが、とにかく意識を取り戻した俺が立っているのがここ、草原の上である。

 ヒキニートだった俺には眩しすぎるほどの、明るい太陽が雲1つない青空から見え、暖かな風が俺の頬を滑る。


 あぁ、気持ちいい。


「いや気持ちいい、じゃねえんだよ。マジで?マジだったの、あの神とのやりとり。」


 そう、実は俺はあの神とのやりとりが、全部夢の中の出来事ではないか、とずっと思っていたのだ。何なら今でもそう思いたいくらいであるのだが、この状況がそう思わせてくれない。

 ヒキニートの俺に、あぁ、気持ちいい、なんて心の中であろうと言わせたこの風と太陽のリアルさよ。いやヒキニートだからリアルがどんなんだったかよく覚えてないけどさ。


「まあ、ひとまずは引き篭もれる家の探索と、それに平行してチートの内容の確認をする必要がありそうだな。」


 そう、異世界転移したと思われる今の俺にとって1番怖いのは情報が全くない事である。まあ外部からの干渉を嫌う神様がいるこの世界に無事来れたという事を考えれば、チートは一応貰えてるのだと思う。ただあの神のことだ。無事にこの世界へ来れる能力みたいなのだけを俺に与えてる可能性も無くはない。

 そして引き篭もれる家の存在。これはマストだ。いくらチートがあってもこれが無きゃ俺は生きていける気がしない。


 と、ここで一つ気になるのが俺の腰にあるこの青い剣だ。いかにも強そうで、また厨二病じゃない俺でさえも厨二心が疼きだしそうなほど格好いい。これはいわゆる直剣というやつなのだろうか。見る限り、大剣というほど太くもなければ、短剣というほど短いわけでもない。ただ強そうなのは分かる。さてはこれがチートなのだろうか。まあどのみち今は使い道が無い。


「うーん、どうすっかなあ。テンプレ通りならここでステータスオープンとか言うと…おっ!マジだ、マジで出てきたぞステータス。」


 実を言うと俺は家で時々異世界もののネット小説を読んでいたのだ。そしてその通りに、まあ駄目元でステータスオープンとか言ってみたんだがマジで出るとは思わなかった。意外とあの神は親切らしい。いや単純にここがそういう世界なだけなのか。


「さてさて、肝心の俺のステータスはどんなもんかね。」


 まああの神が親切かなんてどうでもいい。問題は俺のステータスだ。今の俺は正直、元の世界でゲームを買ったというIFルートに存在していた俺よりもワクワクしている自信がある。そんな胸の高鳴りとともに、目の前に現れたステータス画面に目を通してみると、



 サカイズミ・コウキ(男)


 無職







 ……え?これだけ?


「お、おいおいおい冗談だろ。いやこんなんステータスでも何でもな…あれ?そう言えばステータスって和訳したら身分とかいう意味だったっけ?」


 …………。

 ま、まあ?気を取り直していこう。実際これで身分証明は出来る…出来るのか?まあ分からないけど無職ってのは証明できるしな。うん、まあ証明するメリットは無いどころかデメリットしかないけど。


 一瞬思考停止しかけた俺だったが、ヒキニートだったとは思えないほどのポジティブ思考を発揮させ、気を取り直した。

 そしてひとまず、街にでも行こうと思った俺だったが、辺りは一面草。少し遠くに森が見えるくらいで、街なんて、というか人工物がまず見当たらない。マジであの神様俺をどんなとこに転移させやがったんだ。


「でもこの状況だと、森に行くしか無いよなあ…。まああの神様曰くチートは最大限つけたらしいし?その言葉が真実なら死にはしないだろう。てか森行かなきゃ食料も水分も確保できなくてどのみち死ぬし。」


 チートが与えられていることを前提にした非常に楽観的な考えではあったが、他にやることがないのは事実。ということで俺は、森へとゆっくり歩き出した。

 森までの距離はおよそ二、三キロメートル。それくらいの距離ならヒキニートたる俺でも何とかなるはずだ。多分森へ着く頃にはヘトヘトになっているだろうが、着くだけならできるだろう。


 そんな思いで歩き出したものの、何だか妙に体が軽い。あれ?人間ってこんなに軽かったっけ?と思うくらいには軽いのだ。


「おいおいさてはあの神様マジでチートくれたのか。やべえよマジだったら認識改めねえとな。」


 そう思って少し走ってみると、何と予想通りと言うべきか。想像以上に速く走ることができた。いやもうこれ走るっていうか瞬間移動してるレベル。だって少し走っただけで森に着いちゃったんだぜ?


「………すげえな。これが、チートの力なのか。」

『でしょでしょ?でもまあ当然だよね?この僕が与えたチートなんだから。』

「ああ、流石神様って感じだ。ただ走るのがめっちゃ速くなるだけのチートって可能性も無きにしも非ずってお前誰だ!?」

『え?さっき会ったばっかりなのにもう僕のこと忘れちゃったの?この命の恩人たる僕を?」

「…え?いや、いやいやいや、そんな馬鹿な。急に異世界に来て戸惑ったせいで幻聴でも聞いてるのか?俺は。」

『幻聴じゃないからね?」

「いやいや、幻聴はみんなそう言うの。」

『いやそんな、酔ってる人じゃないんだから。』


 どうやら俺はマジで限界らしい。とうとう幻聴が聞こえるようになり、更には幻聴と会話をするまでになってしまった。しかもあの神の声だ。てかそもそも何もない場所から声が聞こえてくるとか、流石に異世界とは言えあり得ないだろ。もっとも朝からそんなありえないことが続々と俺の身に降りかかってるんだけどさ?


『あー、ごめんごめんそういえば姿消したままだったね。はい!これでどう?』

「まず姿消すって何。いや、良い、聞かないでおこう、そこから言い出すときりがない……お!?」

「どう?これで僕の姿が見えたでしょ?」

「え、いや、うん、見えた、のかな?ちょ、なんか、想像してたのと違う人がいるんだけど。」

「ん?……あっ、間違えちゃった。てへっ?」

「いやてへっ?じゃないから。誰すかこのめちゃくちゃグラマラスで美人なお姉さんは。」


 そう、そこにはいたのは俺の事を脅迫してきやがった自称神様とかいうあの少年ではなく、全身から色香を醸し出す金髪美女だったのだ。

 その美しさったらない。サラサラとした金色の髪は光を反射して輝き、元の世界にいたモデルなんてとてもじゃないが比にならないほどの優れたスタイルを持つその美貌は、俺の目を釘付けにさせる。

 しかし声はどう聞いてもあの自称神様だ。一体何なんだ、さっきまでの少年の姿は仮の姿だとでも言うのか。なんてことだ。それならば俺を脅迫したことは無罪にせざるを得ないな。ふふ、俺は美人には甘いのだ。 


「あー、僕のことはタメ語でいいよ?なんか敬語使われるの好きじゃないんだよねー。それで、えっと、こ、この姿はね?まあなんというか…」


 そう言うと神様(?)は、顔を赤くして照れ始めた。ホントにどういうことなんだよ…。そういやスルーしてたけど姿間違えるって何なの。神ともなれば姿なんていくらでも変えられるってことなの。


『それはですねコウキ様。実は神様はこのような姿に前から憧れを抱いて……』

「ちょ!?ダメ!それ以上はダメだよ!」


すると唐突に、虚空から聞こえる女性の声が会話に割り込んできた。なんだ、一体誰なんだ。虚空から声を響かせるという不可思議さからしても口ぶりからしても神様の知り合いっぽい感じはするが…


『しかし神様はご自分の口から話そうとしないじゃないですか。』

「話すわけないじゃん!?僕のコンプレックスを勝手に暴露しないでよ!」

『コンプレックスだということはお認めになるのですね、ふふ。』

「ちょ、何で笑ったの!アナが少し僕よりもスタイルが良いからって…」


 どうやら虚空から聞こえる声の主はアナという人らしい。まあ人と形容していいのかはまだ分からんが。あとはスタイルが神様よりも良いらしいという情報を得た。うん、なんだこの情報。ここまでいらない情報を得たのは異世界に来て以来初めてだ。いや、神様のコンプレックスに比べればまだマシか。

 というか神様、男なのに女の姿に憧れてたのかよ。マジか…いや、うん、否定はしない。否定はしないが神様にそういう趣味があったということに関しては素直に驚きを覚えるな。やはり北欧神話やギリシア神話しかり、神様というのは案外人間に近い思考を持っているものなのだろうか。


『これは申し訳ありません、コウキ様。私、神様の部下のアナと申します。一応、天使をやらせて頂いております。』


 そんな風に俺が思考していると、ようやく2人の話もひと段落がついたのか、アナさんとやらが自己紹介をしてくれた。しかもどうやらアナさんは天使らしい。


「すげえアナさん、天使をやらせて頂くなんてフレーズ、初めて聞きましたよ。」

「え?驚く場所そこなの?天使自体ではないの?」

『コウキ様、私のこともタメ語で構いません。そして名前もアナで結構です。それから神様にはリリアという名前が御座いますので彼女もその名前で呼んであげてください。』

「あー、リリアね、OKOK。……うん?リリア?彼女?えっ神…ゴホン、リリアって女だったの?」


 何故か神様と言いかけたらリリアに思いっきり睨まれた。その目はそれだけで人を殺せるかと思えるほどの鋭さだった。間違いねえ、あれは人を殺した奴の目だ…!

 そんなことを思ってみたのだが、それからリリアはこちらを睨んでこない。あれ?さてはリリア俺の心が読めなくなってるな?まあ、これは後で確認しとくとして、今はリリアの性別についてだ。


「そうだよー。もしかしてコウキ君、僕のことずっと男の子だと思ってたの?」

「ああ、だって一人称僕だし。…ん?一人称が僕だと?」

「なになに?今度はどうしたの?」

「僕っ娘だとおおおおお!!!!」

「ええっ!?なんで?何でこんなテンション上がってるの!?」

「あなたが神か。」


 まさか神様が僕っ娘だとは思わなかった。え?俺がテンションあげた理由?そんなの単純に僕っ娘が好きってだけだよ。いやーリアルでもいるんだなー、地雷以外の僕っ娘が。


「それで、話を戻すけどなんでリリアはここに?」

「まあ神界にいても暇だからね、着いて来ちゃった!」

「めちゃくちゃ軽いな神様、それでいいのか。んでアナは?」

「地球じゃ僕は一番偉いから、良いんだよ。それと、アナならもう帰ってもらったよ?また隙があれば要らんこと言い出すかもしれないしね。」

「要らん事て。あっ、そういえば要らん事で思い出したけど、リリアってそういうグラマラスな体型に憧れが…」


 俺がそう言ったその瞬間、大地は割れ、森は消え失せ、空が赤く染まった。遠くで火山が噴火する音が聞こえる。それはまさにカタストロフ。思わず足がすくみ、まっすぐ前を見ることすら出来なくなるほどの殺意。これまで行きてきた俺のヒキニートとしての記憶が、走馬灯のように頭の中に流れていく。


 そこでようやく俺は、決して怒らせてはいけない存在を怒らせてしまったのだと自覚した。


「…え、なに今のタブーだったの?タブーだったの!?」


 どうやらタブーだったらしいです…。

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