気づいたら神様に脅迫されてました…
人生というのは本当に何が起きるか分からないものだ。俺は18年間生きてきてようやくそれに気づいたよ。しかしどうだ、さすがに俺みたいな体験をした事がある人は俺以外にはいないんじゃないか?俺はそう断言できる自信があるね。つまり俺が唯一、オンリーワンなのだ。まあだからと言って別に嬉しくなければ、何か良いことがあるわけでもないのはよく分かっているんだけどな。こうでも言ってないととても精神が持たないんだわ。
俺、坂泉幸樹18歳は、とある街へその身を繰り出していた。完全無欠なヒキニートであったこの俺が部屋から出て、さらに家からも出るなど、当然只事ではない。それは俺にとっても、さらに言えば周りの人々にとってもであった。俺は家族がとうの昔に他界してしまってるため親の驚く顔こそ見れないが、近所の人たちは皆、幽霊でも見たかのような表情でこちらを凝視していた。
「えっ、誰。」
「あんな人、この辺にいたかしら…」
マジで幽霊を見たかのようなリアクションであった。ヒキニートであり人と長らく会話をしてこなかった俺にすれば当然そのリアクションや目線などは無視できるものではなく、と言っても話しかけることも出来ないので仕方なく内心ではめちゃくちゃに怯えながら街まで来た。
そして肝心の俺の目的はとあるゲームだ。実は今日、俺は18歳の誕生日を迎えたのである。ここまで言えばもうどんなゲームを買いに来たか分かるだろう。もちろんそんなものはネットで買えば良かったのだが、どうしても自分で直接買いに行ってみたかったのだ。そして周りにいる思春期の子供たちにドヤ顔でもかましてやろうかと思っていた。実際はそんな余裕もないほどに周りに怯えてしまっているわけだが。
しかし怯えながらも何とか目的のゲームを買うことができた。その時の喜びようと言ったらない。これだけで俺のこれまで生きてきた18年間が救われたようであった。もはや周りに対する怯えなどすべて消え、いかに早く家に帰ってこのゲームをやるか、という考えのみが俺の頭を支配していた。
そんな時である。信号が青であった、とある横断歩道を渡っていた俺は当然頭の中がゲームの事だけであったため気づかなかったが、一台のトラックが、信号無視をしてこちらに向かってきていたのだ。その運転手はスマホを片手に電話をしており、信号など全く見えていないようだった。
なるほど、これがよくある、人を異世界送りにさせるトラックなのか、と今冷静に考えてみたが、当時の俺にそんなことを考えられる余裕はない。まあもちろんゲームのことで頭がいっぱいだからだが。
そして当然、俺は死ぬ直前までトラックの存在に気づかないままで、そのまま、グシャっと……
「はい!これがIFルートね!」
「…………」
「んで、僕は君のこんな未来を回避させてあげた、いわゆる命の恩人ってやつなんだけど?実はちょっと困ったことがあってさ、1つお願いを聞いて欲しいんだよねー。まあ?この命の恩人たる僕のお願いを聞けないなんて、まさかそんなこと、あり得ないよね?」
さて、ここで冒頭に戻ろう。俺は、目の前にいる無邪気に笑う少年(いや、自称神様だったか?)に、脅迫を受けていたのだった。