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8話.探索

「……こっち」


 アルルの後を着いて行き、再び獣道へ。夜と違い、周辺は明るくなっている。視界は良好、周辺の状況も確認しやすい。


「うおっ」


 夜にアルルが倒したクマを再び見つけた。その大きな身体には虫がたかっている。既に事切れている筈なのに、明るくなった事で一層、このクマの恐怖がオレに伝わって来た。


「ここからはモンスターが出る……気を付けて」


「そうか、このモンスターもアルルが倒したのか?」

 

 折角だし、気になっていた事を聞くことにしよう。アルルが酒瓶を見つけた地点まではもう少し距離があるしな。


「……そうだけど」


「怖くないのか? オレは出来るならこんな奴と戦いたくは無い。遭遇したらまず逃げる事を考えるね」


「私は……勇者だから」


「勇者だとかそんな話をしてるんじゃない。何でこんな奴と戦えるんだって話をしてるんだ。……死ぬかも、とか考えないのか?」


 そう、オレが興味あるのはこの一点だ。オレは死にたくは無い。安全に、楽しく、自由に生きる。それがオレのモットーだ。


 自分に害が及ばない安全な位置から状況を楽しむ。人間なんてそんなもんだろ。


「じゃあなんで貴方はここにいるの?」


「そんなの、アッシュが心配だからだろ。言っとくけど、オレは盗賊と戦う気はないぞ。目標はアッシュを助ける事であって、盗賊を倒す事じゃない。隙を見て、気付かれない様にアッシュを奪還するのがオレの計画。もしバレても、すぐ逃げて次のチャンスを待つね。命は一つしか無いんだ。死ぬというリスクを背負ってまで、戦う事が最善だとはオレは思わない」


「……そう」


 ――――雨がゆっくりと降り始めた。ポツポツ、ポツポツと。雨音と、俺達の足音。そしてアルルの話す声だけがオレの耳に入ってくる。


「……私だって、死ぬのは怖い」


 前を進むアルルが右手を強く握りしめたのが、オレにも分かった。


「でも私には、コレしか無い。……私は貴方が羨ましい。私に無い力を持っている貴方が」


 ――は?


 何なんだよ、コイツは。コレしか無い? 違うだろ、お前が見ようとしていないだけだろうが。少なくとも、コイツにある物が勇者としての力だけだなんて事は、オレが認めない。確かにコイツは勇者だ。力を持って生まれた者。他の人とは決定的に違う力を持つ者。魔物達を倒す力を持つ者。


 だが、その力がアルルの全てだなんて事は、絶対に無い。


 コイツがそんな詰まらない奴だったら、とうの昔にオレが殺してる。コイツの本質は、そんな所にない筈だ。どんなにムカついても、どんなにイラついても、オレがコイツを殺せないのはアルルが単なる勇者じゃないからだ。


「……お前はもっと周りを見るべきだ」


 盗賊と戦闘になる可能性もある為、オレも緊張しているのだろう。普段ならこんな事、絶対に言わないのだろうが少し口が滑ってしまった。


「……そう」


 …………。


 会話は途切れ、強さを増して来た雨脚と雨音のみが視界と聴覚を支配していく。前を行くアルルの表情を伺う事は、出来なかった。






「ここ……」


 歩き続ける事、数分。酒瓶を見つけたポイントまで移動する事が出来た。雨が原因だろう、ぬかるんでいる地面には大人サイズの足跡がくっきりと残っていた。


 一つ、二つ、三つ。この場から離れる様に足跡が続いている。盗賊達の足跡だろう。足跡が残っているという事は、まだそんなに遠くには行っていない筈だ。雨が降り始めたのはつい先程の事。おそらく、盗賊達はまだ近くにいる。


「アルル、足跡を見つけた」


 一応、警戒して声を潜めつつ、アルルに話しかける。雨音に搔き消されないか心配したのだが、アルルにはしっかりと届いたらしい。コクリと彼女は頷き、此方までやって来た。


「追跡しよう」


 アルルが頷いたのを確認し、盗賊の残した手がかりを辿っていく。現在、盗賊の居場所を示す手がかりはこの足跡のみ。オレ達に出来る事は、この足跡が途切れない事を祈って進む事だけだ。


「……くそっ! ここで足跡が途切れていやがる」


 だがしかし、現実はそう上手くはいかない。地面に生えている草が足跡を隠し、盗賊へと至る手がかりを消滅させていたのだ。もう、彼らの残した痕跡は何処にも存在していない。


 ――盗賊は何処にいる? いや、オレならこの状況でどう動く?


 思考を加速させ、答えを探る。盗賊の動きを予想しろ。現在、強い雨が降っている。盗賊の人数は、足跡から三人だという事が分かっている。そして彼らはアッシュを誘拐した。子供を一人抱えた状態で雨の中移動するリスクは大きい。特に、ここら辺にはモンスターが出る。三人いるとはいえ、視界が悪くなる雨天時に移動するのは避けたい筈だ。


 つまり、アイツらは何処かで身を潜める可能性が高い。少なくとも、雨が勢いを弱めるまでは。


「アルル! この近くに洞窟は何個ある!?」


「この近く……? なら三つ。山頂に二つと、ここから少し下がった位置にもう一つ。これが私の知っている洞窟の全て」


 ――くそ! 三つもあるのか! 簡単に言ってくれるが、まだ山頂までは割と距離がある。下の洞窟からしらみつぶしに行くと、山頂に盗賊が潜んでいた場合間に合わない可能性がある。道中にモンスターとの戦闘があるかもしれないからだ。獣道を進んで居るため、移動にも実際の距離以上の時間が掛かる。


 ここで決断しないといけない。下の洞窟を調べるか、頂上を目指すか。


 下に行く場合のメリットは単純だ。全ての怪しいポイントを調べられるという点。デメリットは時間が足りない可能性が高いという一点。


 逆に頂上を目指すメリットは、少なくとも二つの洞窟を調べられる事。デメリットは下の洞窟に盗賊団がいた場合、助けられる可能性はゼロになってしまう点。


 どちらにも明確なメリットとデメリットがある。だが、時間は有限だ。ここで決断する必要がある。この二択を。


 どうする……



 ――ジリリリリリリ!


 その時、脳裏に異常事態を告げる警報が鳴り響く。常ならば焦るのだろうが、今のオレにはこの音が天の祝福に聞こえた。


 ――そういやオレのダンジョン、この近くじゃねえか。忘れてたぜ。


 この状況、侵入者はきっとオレの思い描いてる人物達だろう。


「アルル! 奴らの居場所が分かった!」


「……え?」


「着いてきてくれ!」


 ぬかるんだ地面を強く蹴り、走り出す。居場所は分かった。ならば後は向かうのみ。


 幸いにも、盗賊はまだ入り口でもたついている。それがスライムから送られてくる情報で理解出来た。


 絶対に助けてやる。待ってろよ、アッシュ――。

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