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5話.村での生活

 オレが勇者に連れられて村で生活するようになってから、数日が経過した。


「おーい。シンにーちゃん!」


 たったの数日間でオレはすっかりとこの村に溶け込むことが出来た。オレの目的は勇者を殺す事が出来る理由を見つける事。出来るだけその他の面倒事は避けたい。だからこそ、村人とのコミュニケーションもしっかりと取っていた。


 そして今、オレはこの村の宿の一室にいる。泊まる所が無いオレにこの村の人達が無料で貸し出してくれたからだ。その他に服や食料なども無料で貰う事が出来た。


 曰く「アルルを助けてくれてありがとう」だとさ。


 別にオレはアイツを助けた気なんて更々無い。オレはアルルを殺す。この村の人達の好意を無下にする行為だとは理解している。でも、これだけは曲げられない。


「おーい! シンにーちゃん! いるんだろー?」


 ドアの向こうからオレを呼ぶ声が再度耳に入る。流石に居留守は使えないか。小さい村だ。何処に誰がいるかなんて分かりきっているのだろう。

 溜息をついて、立ち上がりドアを開ける。その瞬間、赤い髪を持つ小学校高学年くらいの子供が部屋に飛び込んで来た。


「どうしたんだ? アッシュ」


「シンにーちゃん! 今日も旅の話をしてくれよ!」


 この少年の名はアッシュ。何でも、将来は冒険者になってモンスターと戦いたいらしい。この歳の男の子にありがちな夢だ。オレもこのくらいの頃は剣や、銃に強い憧れを持っていた。


 一応、旅人という設定でオレはこの村に滞在している。子供達から、今までどんな旅をして来たかと聞かれるのは当然の事だろう。


 確かにオレは旅人や冒険者では無い。だが、オレは現代日本に住んでいた身。その為アニメ、ラノベ、映画や漫画など話す内容には事欠かない。そして、それらは娯楽に飢えている現代人を満足させる物だ。つまり、異世界人の子供にオレの話は大ウケした。


「そうだな……じゃあ今日はオレが、ある街に立ち寄った時の話をしようかな」


 オレはこの村で普通に過ごしつつ、勇者――アルルを監視する。今の所、アイツは全くボロを出していない。



 ………………。



「面白かったー! ありがとう、シンにーちゃん!」


 オレの話が終わる頃、既に太陽は傾き始めていた。


 ちゃんと勇者の事を監視してるのか、と言う声が聞こえて来そうだが特に問題は無い。何故なら勇者は夜にしか活動しないからだ。ここ最近は、という言葉が前に着くが。


 その理由は思ったより単純だった。最近、この辺りで盗賊団が出没するという。なので昼は村の若い者に警備を任せ、夜は勇者が周囲のパトロールをしていたらしい。オレのダンジョンに勇者が入って来たのは単純に運が無かったのだろう。確かに、オレのダンジョンは盗賊団がアジトにしていそうなサイズの洞窟だ。


 勇者は昼は体力回復に努め、夜は盗賊退治に赴く。だからこそ、オレは昼は割と自由に過ごしている。村人と仲良くなる事で得られる情報もあるしな。そういう点で睡眠が必要無いというのは良かった。寝れないのは精神的には辛いが、肉体的には何の問題も無い。この様な生活も人間で無い以上、いずれ慣れるだろう。それまでの我慢だ。


 集まった情報をここで整理してみる。勇者の活動時間まではもう少し時間があるしな。


 まずは立地だ。この辺りには、村はここしか無いらしい。周囲は山と森に囲まれており、ここから一番近い村まで半日近く掛かると言う。最も、それは整備された道を通る時の話。森を突っ切り、最短ルートを通ればそれ程の時間は掛からないらしい。森を突っ切るには相応の実力がいるらしいので、誰もそんな事は行わないらしいが。


 次にこの村の戦力だ。まず、最大戦力は勇者。そして若者が数人。これがこの村の持つ全ての戦力だ。若者はスライムなどの弱いモンスターなら勝てるらしいが、それより強くなると苦戦するらしい。つまり、勇者以外は警戒するに値しない。オレのスライムは他より少し強いらしいからな。


 最後に、村人について。現代社会が悪いのか、偶々オレの暮らして来た環境が悪かったのかは分からない。原因は分からないが、結果としてオレは自分を偽り、相手にとって都合のいい存在を演じる事で集団生活の輪に加わっていた。そうする事でしか集団の中に入れなかった。


 だが、この村の人達はそんな事はしていなかった。ありのままの自分をさらけ出し、正直に生きる。そんな生き方は、随分と眩しくオレの目に映った。憧れる事が無かったと言うと嘘になる。事実、この数日でオレはこの村を気に入っていた。


 自分を偽らず、正面からぶつかっていく。


 出来るなら、オレもそんな生き方がしたかった。でも、染み付いた生き方はそう簡単には変えられない。それは今までのオレの生き方を否定する事になる。それは駄目だ。偽って、嘘をついて、ヘラヘラと笑っていたからこそ今の自分がある。そんな自分だからダンジョンマスターになれたのだろう。

 

 アルル以外の村人を害するつもりは今のオレには無い。流石にダンジョンコアを破壊されそうになったら自衛はするが。そんな未来が来ない事を祈るのみだ。


 


 さて、そろそろ勇者の活動する時間だ。村人から貰った衣類を脱ぎ、以前から着ていた法衣に袖を通す。此方の方が激しい動きがしやすい。何が起こるか分からない以上、服は慣れている物の方がいいだろう。


 宿の部屋を後にし、村の外れに向かう。そこにアルルの家があるからだ。茂みに隠れ、アルルが出てくるのを待つ。


「ん……」


 周囲を月明りが照らし始めた頃、アルルは眠そうに家から出てきた。その長い金色の髪を揺らしながら。あまり眠れていないのだろう、見ているだけで疲れが此方にも伝わってくる。


 観察していて気付いたのだが、アルルはコミュニケーションが苦手なタイプだ。不器用とも言える。冗談を言う事も無ければ、決められたルールを破る事も無い。

 口数が少なく、何を考えているのかが分からない。でも、決して間違った事はしない。子供が泣いていたら直ぐに駆けつけるし、大人がハメを外し過ぎていたらしっかりと注意する。


 アルルは決してボロを出さない。ずっと彼女は良い子ちゃんなのだ。


 オレはそれが癪に障る。不満があれば口に出せばいい。やりたい事があるなら口に出せばいい。この、人の良い村人達は彼女の話す言葉を蔑ろにしない筈だ。


 疲れていて、辛いなら「休みたい」と一言伝えればいいのだ。


 オレと違って、自分を出しても良い環境が整っているのに、彼女は機械の様に村人の願いを叶え続ける。皆が望む勇者像を演じ続ける。


「私は勇者だから」と。


 ああ、本当にムカついてしょうがない。


 そんなに辛そうにしているなら辞めてしまえ――勇者なんて。




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