3話.情報収集
やはりというか何というか、あの後本を読み返したら新しい情報が沢山出てきた。あの影は、実は邪神だったとかいう現在役に立たない情報から、俺自身の身体の変化についてなどの重要な情報まで色々と。
とりあえず分かった事を整理しようと思う。
まずは俺の身体についてだ。どうやら転生する段階で色々と邪神に身体を弄られたらしい。まあ、前世では無かった力を行使出来る時点で予想はついていたのだが。
魔力やモンスター召喚の他にも色々と機能が変わっていた事が分かった。どうやらダンジョンマスターはそもそも人間とは違う生物らしい。人間との一番の差異は食事や睡眠が必要無いという事だろう。
最も、消費した魔力を回復させる為には食事や睡眠が必要らしいので完全に必要無い訳でも無いのだが。
また、余程の怪我をしない限りはすぐに治るらしい。ダンジョンコアさえ守っていればオレは死なないという事だ。痛みは発生するだろうけどな。
次にダンジョンについてだ。ダンジョンは見た目に反して意外と高性能だった。
まず、ダンジョンに侵入者が入ってきた場合、ダンジョンマスターであるオレの脳に警報が送られるらしい。つまり四六時中、侵入者に怯える必要は無いという事だ。
これは正直助かる。いくら身体が人間の物とは違うとはいえ、染み付いてきた生活習慣を簡単には変えられない。少なくともこの機能により、安定した睡眠を取る事が可能だろう。ありがたい。
また、ダンジョンのレベルを上げるのは人間以外でも可能らしい。つまり、スライムしかいないオレのダンジョンでも、弱いモンスターや動物を狩る事でレベリングが可能だという事だ。今は使える機能を増やしたいので、当面の目標はダンジョンのレベルを上げる事でいいだろう。
最後に、モンスターの事についてだ。
此方も予想がついていたのだが、召喚されたモンスターとは魂で繋がっているらしい。その為、言葉が無くてもある程度の意思疎通なら可能だ。
また、オレの感情がモンスターの成長に大きな影響を与えるらしい。オレが強い殺意を抱くと、モンスターも好戦的になるという具合にだ。これを利用してモンスターも強化していきたい所だ。まあ、成長には多くの時間がかかるらしいのでこれは徐々にやっていきたい。
これらを踏まえて当面の行動を決めた。メインとなるのは次の二つだ。
・ダンジョンの周囲の情報収集。
・可能ならレベルアップ。
生き残るためにまずは周囲の状況を確認するべきだろう。もし、近くに村などが有り、勇者などを出されたらとても拙い。周囲の索敵は最重要項目だ。レベルアップはその次だな。索敵する過程で弱そうな生き物がいたらダンジョンまで連れ帰って倒したい所だ。
取り敢えず、行動を起こさなければ何も始まらない。
「おーい、行くぞー」
隣で寝ていたスライムに声を掛ける。コイツはオレが本を読む傍らで何時しか寝てしまっていた。きっと退屈だったのだろう。声を掛けるとスライムは飛び起きてピョンと手の中に入ってきた。この位置がお気に入りなのだろうか。モキュモキュと腕の中で動いている。まるでモンスターというより小動物のようだ。
ドアを抜けて、狭めの通路を通り外の光に身体を晒す。
「おお……」
そこは、正に異世界だった。
コンクリートやビルなんて何処にも存在しない。そこにあったのは見渡す限りの大自然。生い茂る木々の隙間から光が差し込み、虫や動物がその中を自由に飛び回る。アニメや映画の中でしか見た事の無い映像がそこには広がっていた。
オレの感動が伝わったのだろうか。スライムも腕の中で動き回っている。きっとコイツも嬉しいのだろう。腕を放してあげると辺りをピョンピョンと跳ね回っている。コイツがモンスターだなんて、ちょっと信じられないな。
目に見える範囲に人の生活している痕跡は見付からない。これなら当分はオレのダンジョンがここにある事はバレないだろう。人間の侵入者が来る可能性は極めて低いと言える。時間的な余裕があるという事だ。素晴らしい。
「そろそろ帰るぞー」
念のために周囲の環境を詳しく調べてみたが、結局気になる事は無かった。安全確保という目的は達成出来たと言えるだろう。闇が深くなってきて、作業効率も落ちてきた所だ。今日はここらで切り上げて続きは明日に回そう。遊んでいるスライムに声を掛ける。コイツは先程からリスの様な生物と跳ね回って遊んでいた。本当にコイツはモンスターなのだろうか。完全に牙をもがれている。
声を掛けると少しだけ残念そうにし、オレの腕の中の定位置まで戻ってきた。土などが付着しているという事も無く、ヒンヤリうるおいボディをプルプルと震わせている。
コアルームに戻り、地面に寝そべった。色々な事が起こりすぎて精神的な疲労がヤバい。スライムがオレの隣でぺったりと身体を伸ばしている。きっとオレの疲労も伝達しているのだろう。
オレが意識を手放すのにそれ程、時間はかからなかった――。
――ジリリリリリリ!
深い所に沈んでいた意識が表面に浮上し、一気に覚醒する。先程から脳の奥が煩い。警報が鳴ったという事は侵入者が入って来たのだろう。
「やべえな……」
この状況は余り良くない。侵入者を撃退する設備も無ければ、心構えすら出来ていない。まさか、一日目からダンジョンを襲撃される事になるとは思ってもみなかった。このダンジョンにある防衛戦力はオレとスライムのみ。あの侵入者が野生の動物やその辺のモンスターなら良い。だが最悪の場合、勇者という事も有り得る。苦しい闘いになるだろう。
この夜はオレの異世界生活に立ちはだかる一つ目の試練だ。オレはまだ死にたくない。どんな奴が相手でも絶対に生き残る。それこそ、どんな手を使ってでも。
隣でスライムが身体を上下に伸縮させている。コイツもやる気は十分だ。
オレとコイツはきっと、生き残る。
決意を胸に秘めて、ドアを開けた――。




