2話.モンスター召喚
コアルームの一角に腰を下ろし、視線を前に固定する。視界に移ったのはクリスタル状に戻ったダンジョンコアだ。
「いつの間に戻ったんだよ……」
疑問は尽きないが今は置いておく。検証してもいいが、もうあのハラハラする感覚は味わいたくない。きっと次にダンジョンメニューを起動するのは侵入者を倒し、ダンジョンがレベルアップしたタイミングになるだろう。取り敢えず今はモンスター召喚だ。
モンスター召喚、ファンタジー色の強い良い言葉だ。夢がある気がする。特に自分に最も合ったモンスターを召喚出来るっていうのが。前世でもソシャゲはガチャを引くのが一番好きだったし、召喚されるモンスターが何なのか非常に興味がある。
実は、自分の中に前世では無かった力が渦巻いている感覚が転生してから存在していた。まるで感覚器官が増えたような感じだ。きっとモンスター召喚ではこの力を使うのだろう。いや、この力を使うという事が情報として理解出来ていた。
立ち上がり、コアルームを後にする。最初はコアルームで召喚しようかと思っていたのだが、オレにはまだ知識が足りていない。知らないという事は何が起こるか予想が出来ないという事だ。もし、爆発系の魔物が召喚されたら今度こそコアは木端微塵になるかもしれない。だから万全を期して、先程作った部屋で召喚する事にする。これはビビっているのでは無い。現代人に必須のスキル、危険回避能力だ。リスクはできるだけ回避するに限る。
「モンスター召喚……!」
情報に従って自分の中に眠る力を呼び覚まし、口に出す。オレの中から何かがゴッソリと抜け落ちていく感覚がある。きっとこれが力を使うのに必要な物なのだろう。異世界らしく魔力とでも言っておくか。呼び名が無いというのも不便だしな。
目の前に幾何学模様で描かれた魔法陣の様な物が展開され、それにグングンと体内の魔力が注ぎこまれているのを感じる。
「割ときっついな……これ」
体力的には問題は無いのだが、気力がどんどんと衰えていくのを感じる。おそらく、魔力は精神と深い関係があるのだろう。この倦怠感は危険かもしれない。だが、これだけの魔力を消費するのなら、召喚されるモンスターも期待出来そうだ。ドラゴンなどの強そうなモンスターが召喚される事も考えられなくは無い。
そして、魔力が抜ける感覚が無くなると同時に魔法陣から光の柱が立ち昇った。
「この中に……オレのモンスターが」
光が強くシルエットすら確認出来なかったが、この光の中に召喚されたモンスターがいる。それをオレは理解出来た。何故なら自分の中に新しい繋がりが出来たのを感じているからだ。このモンスターとは魂とか、そういうレベルでオレと繋がっている気がする。まるでもう一人の自分が目の前にいる様な感覚だ。
光は徐々にその輝きを失っていき、中に眠るもう一人の自分がその姿を現す。光の中から現れた者は……
「……スライム?」
某RPGなどの様な可愛らしい姿では無い。でもオレは、こいつがスライムだと本能的に理解した。ゲル状のその身体は見ている者に不快感、嫌悪感を与えるだろう。ドロドロとした定形を持たない身体は正にモンスター。
だが、オレは不思議とこのモンスターに関して不快感を抱かなかった。寧ろ親愛の情すら湧いてきていると言ってもいい。これが魂的に相性の良いという事なのだろう。オレにとってこのモンスターは家族や親友。それよりももっと深い関係の様な気がする。先程も言ったが、それこそ自分自身の様な感じだ。
「あれ? でもこれヤバいんじゃね?」
スライムと言えば最弱モンスターの代表格。目の前のコイツもその例に漏れず大した力は無い。それをオレは何故か理解出来ていた。やはり、オレとコイツは何処かで繋がっているという事なのだろう。まあ、対した力も持っていなかったオレにはお似合いのモンスターだ。
問題はこのダンジョンの防衛力だ。オレも敵と戦うとしてもこのダンジョンの戦力は大した特技も無い一般人と最弱クラスのモンスターが一匹。既に積んでいる可能性すらある。
「うわっ」
突然、スライムが飛び掛かってきた。オレの腕の中でプルプルと震えている。かわいい。
スライムはドロドロとした見た目に反して粘り気は少なく、ヒンヤリとしていた。程よい冷たさで気持ちがいい。夏場には重宝しそうだ。
「どうしたんだ?」
スライムはプルプルと震えている。オレにはコイツが不満を言っている様に感じた。それもそうか。親近感こそあれ、スライムかよと落胆した気持ちは確かにあった。だからこそ、コイツは「舐めるな!」と伝えたいのだろう。
「ごめんな。頑張るよ」
そう伝えるとスライムは満足したのか、小刻みに身体を動かした。嬉しい感情が此方にも伝わってくる。そうだ、もうオレは一人じゃない。このスライムの為にもダンジョンを大きくしないといけない。だからこそ、配られたカードで何が出来るか考えなくては。
取り敢えずは、あの影から貰った本を読み返すべきだろう。きっとまだオレの知らない情報があの本には眠っているはずだ。
スライムを脇に抱え、コアルームに戻る。本を手に取り、読み始めた――。




