22話.ダンジョンへ
テンを仲間に加え数分後、ダンジョンの入口への移動が始まった。トルト町から、ダンジョンまでの距離は意外と短く、一時間程で到着する事が出来た。
「よし、ここがダンジョンの入口だ。皆、準備はいいな? 大丈夫だとは思うが、油断はするなよ。ここのダンジョンでは上位種も確認されているからな。命を大事に行こう」
ダンジョンの入口で、傷跡の男によって再度ミーティングが開かれた。おそらく、最終確認と士気の向上、その二つの目的があるのだろう。
「今回のダンジョン攻略には、勇者も参加している! だから、命の危険を感じたら逃げても大丈夫だ! きっと、最後には勇者が何とかしてくれるからな!」
傷跡の男は、笑いながら言い放った。彼は、気負うなというメッセージを込めた冗談のつもりで言ったのかもしれない。或いは、勇者に対する競争心でも煽ったつもりなのかもしれない。
……こんな時まで勇者、勇者か。
周りの人間達は男の話を聞いて、何も疑問に思わないのだろうか。
問題が起これば、最終的には勇者が解決する。それがこの世界のサイクルだ。遥か過去から、現在に至るまで当たり前の様に行われて来た世界の理。
勇者は人を助ける。人の為になる事をする。正義を執行する。
……自らの身を省みずに。
そして、その事に勇者自身ですら疑問を持たない。
当然の様に、最後には勇者が何とかしてくれると宣言した傷跡の男。
命を大事に行こう。
……その中に、皆を最後に助けてくれる勇者の命は、含まれているのかよ。
ダンジョンマスターであるオレが言えた義理じゃないってのは、理解してる。先日まで、勇者を殺そうとしていたオレが言う言葉じゃないのも理解してる。
でも、人の為に生きる事を強制された勇者を、最初から頼るのは嫌だ。最初から勇者に助けられるつもりじゃ、きっとそれが現実になってしまう。
その結果、失われる命もある筈だ。
「勇者に負けない様に、オレ達も頑張ろうぜ!」
正面から、勇者に頼らない様にしようぜ、なんて話をしてもどうせ聞いては貰えない。オレはこの場における弱者で、勇者は皆の心の支えだ。
傷跡の男の話に同調しつつも、勇者の力を借りない方向の言葉を叫ぶ。
……これが、オレに出来るせめてもの抵抗だ。
視線がオレに集中する。好意的な視線はごくごく僅かだ。大抵の視線は、初心者が何を言っているんだという侮蔑を含んだ視線。
予想は出来ていたが、オレが言葉を発する事を好ましく思わない人間も多いのだろう。余計な事をしたという自覚もある。
でも、これだけは譲れなかった。
「おお、そうだな! 初心者にここまで言われたんじゃあ、しょうがねえ! 一丁やってやるか!」
幸いにも、傷跡の男がフォローを入れてくれた。傷跡の男的にも、このような微妙な空気でダンジョンに臨んで欲しくは無いのだろう。
頭を傷跡の男に向かって下げる。流石に、今のは申し訳なかった。
ダンジョン攻略に向けて、士気は高まっている。
願わくば、勇者に頼らなければならない事態になど、ならないで欲しいのだが。
▲
ミーティングの後、パーティ毎にダンジョン内に入る事になった。ダンジョン内は入り口を入ってすぐ、複数の通路に分かれており、正に迷宮と言う名がふさわしい。
一つ一つの通路の広さも、オレのダンジョンとは比べ物にならない規模だ。
一列になりながら、ダンジョン内を探索する。並び順はハルト、オレ、テン、アルルの順番だ。
「いやぁー! それにしてもびっくりしたぜ、シン! 勇者に負けないように、なんてな!」
ジッとしている事が出来ないのか、テンがオレに話しかけてきた。
それも、先程のミーティングの内容だ。
……そうだ、コイツの意識も非常に大切だ。
このパーティにおいて、オレ達のミスで傷つくのは、オレ達自身じゃない。オレ達が望む望まないに関わらず、ハルトやアルルはその身を犠牲にするだろう。
だからこそ、勇者が助けてくれるなんていう、甘えた思考をテンがしているのなら、ここで正しておく必要がある。
「このパーティには勇者が二人もいるけど、俺も負けない様に頑張るぜ!」
そして、テンは高らかに宣言した。闘争心が溢れ出しているのか、宙に向かって拳を交互に突き出している。
……何だ、コイツ。煩いけど、いい奴かもしれない。少なくとも他の奴らと違って、勇者に頼ろうとしていないその精神は、オレには好ましく思える。
「ああ、頼りにしてるぞ。テン」
「おう! 任せとけ!」
このパーティで、スケルトン系に安定したダメージを与えられるのはテンだけだ。そのテンが、こうして闘争心を出している。
正直、ものすごくありがたい。
もしかしたら、そこら辺の魔法使いより当たりだったのかもしれないな。
「――! 話は一旦止めにしましょう。……敵です」
前方を歩いていたハルトが、オレ達に警告を飛ばす。
薄暗い通路の中から出てきたのは、骨の怪物。盾と剣を両手に持っているのが、闇に浮かぶシルエットから伝わって来た。
近づくにつれて、怪物の全貌が明らかになる。その身体には、人体を構成するパーツは骨しか存在してかった。筋肉も、内臓も、何も無い。動ける筈が無いのに、カタカタと不気味な音を立てながら此方に向かって来る。
見ているだけで恐怖を抱くその姿は、まさに怪物と呼ぶにふさわしい。
「……コイツが、スケルトンか!」
「行きますよ……!」
ハルトとアルルが腰の剣を抜き、怪物に飛び掛かる。
テンが拳を構えて、スケルトンに向かって走り出す。
オレも腰の剣を抜き、彼らに続いた――。




