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20話.会話

 あの後、パーティメンバーを募集したが、結局オレ達のパーティに加わってくれる人はいなかった。


 まあ、それも納得のいく話だ。勇者が二人いるとはいえ、もう一人はダンジョン探索の基礎の基礎すら知らない初心者。ダンジョンでは常に命の危険が伴う。足手まといが一人いるだけで、生存確率は低下する。見えている地雷は敬遠して当然だろう。仮に、立場が逆ならオレでもそうする。


 今の時間は夜。そしてオレは現在、作戦会議をしていた広場に来ていた。勘違いしないで欲しいのだが、別にメンバーの募集をこんな時間まで行っていた訳ではない。四人目のメンバーは当日、つまり明日募集する事にしたのだ。何でも、少数派ではあるのだが、作戦会議に参加しないタイプの人間もいるらしい。その為、当日にも仲間を募集するチャンスはあるらしいのだ。まあ、最悪の場合、三人でダンジョンに潜る事になるらしいのだが。


 じゃあ、何故オレがこんな時間にこの場所に来ているかというと、もう一つの懸念材料をどうにかする為だ。


 ……そう、アルルの事だ。


 アルルはオレがダンジョンマスターだという事を知っている。そして、絶対に殺すと宣言もした。こんな関係では、ダンジョン探索では足枷となってしまうだろう。


 それに、今のオレ自身がどうしたいのかが自分でも良く分からない。アルルや、ハルト――勇者を、オレはどうしたいのか。


 最初は、殺したくて、殺したくてしょうがなかった。でも、理性がそれを邪魔した。


 だから、分からないのだ。この殺意を実行に移すのは、本当にオレが望んでいる行為なのか。


 殺したいのは、ダンジョンマスターの性らしい。だから、その感情は正しい感情だ。


 でも、それと同時に人間として殺すなと叫ぶオレが居る。


 オレの感情は、どちらに偏っているのか。相反する二つの感情は、どちらも正しくオレの抱いている感情だ。


 ……こんな中途半端な気持ちでは、きっとダメなのだろう。


 邪神も言っていたじゃないか。悩むな、と。だから、今からオレは自分自身の身の振り方を決める。


 ダンジョンマスターとして、勇者を殺して生きるのか。


 それとも、ダンジョンマスターの力を持つ、人間として生きていくのか。


 それを、決めようじゃないか。……オレの心の、赴くままに。


 夜という事もあり、周囲は薄暗く、人が通る事は無い。そしてオレは今、アルルをここに呼びだしている。話をする為に。


 どんな結果になろうと、きっと今日はオレにとって大切な日になるだろう。


 そして、その時はやって来た。暗がりの向こうから、見慣れた金髪が此方に向かって来るのが確認できる。


「来たか、アルル」


 ――殺せ、殺せ。


 当然の様に、胸に去来する殺意。これもオレ自身が抱いている偽りの無い感情なのだろう。だからこそ、これを受け入れた上で、オレがどう感じるのか。それが問題だ。


「……何? シン」


 ……何故だ?


 暗がりから徐々に近づいてくるアルルを見て、初めに感じたのは疑問だった。アルルの格好は戦闘を想定した物で無いのが素人目にも分かったからだ。まるで普通の村娘の様な格好で、アルルはこの場に来た。帯剣している様子すらない。


 ……何故だ、オレを警戒していないのか?


 思考が止まる。この勇者が何を考えているのかが分からない。オレは、確かにアルルに宣戦布告をした。だからこそ、最低限の装備は整えてくるものだと予想していた。


 最悪の場合、ここで殺し合いになる可能性すら考えていた。


 だが、目の前にいるのは戦闘準備をしているとすら思えないアルル。本当に訳が分からない。


「自分で呼んどいて何だけどさ、一つ聞いていいか?」


「……? 別に、いいけど」


 本気でオレの聞きたい事が分からないのだろう。声のトーンからそれを察する事が出来た。


 ――ああ、やっぱりムカつくなあ。


「警戒とか、しないの? あの時言ったよな、オレはお前を殺すって」


「……私も言った。貴方には、私は殺されないって」


 ――ッ!


「じゃあ、なんでそんな恰好で来たんだよ! お前の格好は、戦闘を想定しているようには思えない。どんなにお前が強くても、殺すのなんて簡単だ。罠や人質を使えば、お前なんて簡単に殺せる。……オレを舐めているのか?」


 何なんだよ、コイツは。オレの中には、コイツへの確かな殺意がある。そして、それをコイツも知っている筈だ。


 ……なんで、そんなに自然にいられるんだよ。


「警戒するとか、しないとかそんなんじゃない。……私は、貴方を信じてる」 


 周囲にアルルの声が響いた。大きな声では無い。でも、それはいやにはっきりとオレの耳に残った。


「……信じてる、だって? 命を狙うと宣言したオレを?」


「そう……信じてる。いいや、私は貴方だからこそ、信じられる」


 本当に、馬鹿じゃないのかコイツは。……話してみても、まるで意味が分からない。


「アッシュを助ける時、あんなに必死だった貴方だから……私は、貴方が悪人では無いと思う」


 ――何なんだよ、オレはお前の敵なんだぞ? オレは悪の化身、ダンジョンマスターだ。

 

 なのに、そんなオレを信じるのか。……信じて、この場に来たのか。


 ――殺せ! 殺せ!


 殺意は、確かにある。でもそれ以上に、オレはこの信頼を裏切れそうにない。


 きっと、このバカな勇者を裏切ったらオレは後悔するのだろう。それだけは、何となく分かる。


 だから、きっと、オレはこの勇者を殺したくないのだろう。この、ムカつく勇者を。


 ああ、本当に、訳が分からない。なんでなんだろうな。この結論に至った理由を、自分でも良く分からない。


「……それで、何? シン」


 再度、アルルが問いかける。この場所に呼んだ意味を。


「別に、たいした話じゃない。……明日のダンジョン探索、頼りにしてるぞ。勇者様」


「……それはこっちのセリフ。頼りにしてる」


 結局、アルルとの会話はこれで終わってしまった。


 明日、パーティメンバーが加入してくれるかも分からない。


 懸念材料は、減ってはいない。


 でも、不思議と何とかなるような、そんな気がした。

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